第5話

 ――――

 私はこの時間を喜んでいた。喜びながら、私ら家族の生活のことが思われていた。私は子供たちをそばにつけておくことを良く思わなかった。できるだけ、私のことを忘れていてほしいと思ってさえいた。四人で買い物に行っても、駆け出すふたりを私は止めようとしなかった。妻のほうはしきりに呼び戻すのだが。子供たちのことを思ってのことだろうし、周囲のことも頭にあるためだろう。そして私にも子供たちを制御するよう注文するのだ。ほんとうはそうするべきなのかもしれない。が、やっぱり私にはできなかった。視線だけをふたりに結んで、離れたところにいるのが常だった。たいていのことは良太が知花をお守する。姿さえ見失わなければ、私が立ち上がらなくてもよいように思ってしまう。

 では、たとえばふたりを見失ったとき、姿を探すのはなぜだろう。ふたりが心配だから、というのはもちろんある。しかしそれだけではなさそうだ。むしろ心配よりも中心となっている心境があるようでならない。心配という言葉では当て損なった部分があるのだ。

「パパもおいでよ」

 妻がこちらに手を振っている。思いに沈んだ自分から腰をあげ、私は川原の日陰を抜け出した。

 ————

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る