第10話 友達がバイト先に来ると変な気持ちになるよね

 僕はあまりニュースとかは見ないタイプだけど、最近アメリカの方で画期的なコンビニがオープンしたらしい。


 その店には店員がいない。


 客は財布もカードも持たずに店へ入り、欲しい商品を手に取ってカゴに入れる。そしてそのまま帰る。以上。


 Amaz○nが関係しているらしいのは知ってるが、詳細は知らない。ただ、これはすごい仕組みだ。


 店内のカメラが客の顔を認証し、手に取った商品を記録して、客が店を出ると同時にスマホで決済されるという仕組みらしい。


 これを見た僕の感想は「近未来的だなあ」とか「科学の進歩や」とかじゃない。


「コンビニ店員はもういらなくね?」


 そういうことだ。


 コスト面で圧倒的に違うのだ。


 暇な時間帯にも人件費がかかる我々人間に対して、AI方は電気代のみ。メンタルのメンテナンスより、機械のメンテナンスの方がどう考えても楽だし、人間関係のトラブルもない。


 つまり、僕いらなくね?


「何言ってるんですか先輩。そんなことになっちゃったら、世界征服ができません」

「………というと?」

「便利を売り渡すコンビニエンスストアは何でも揃ってる。食品から日用品まで何でもです」

「つまり?」

「いずれは地球破壊爆弾も扱いそうかなって」

「他力本願かよ」


 核以上の兵器を全店舗においたら、それこそ地球はおしまいだ。世も末だ、世紀末だ。あそこに並んでる100円ライターが可愛く見える。


「お客さん来ませんね」

「昼食ピークまで時間あるしな」


 時計を見るとまだ10時半。


 昼休憩のタクシードライバーや、お昼休みになった高校生や大学生がわんさか押し掛けるお昼ご飯ラッシュまでは、少し時間がある。


 かと言って何か掃除でもしようものなら、一気に来た客に手が回らなくなってモップをほったらかすのが目に見えている。


 だからこうして暇を持て余すしかないのだ。


 と思った矢先に、自動ドアの染み付いた音。


「っしゃっせー」

「あ、いらっしゃいませー」


 互いに失礼な挨拶をしながら、チラッと客を見る。


 しかし残念ながら僕の方が僅かに、失礼な態度を取ることになった。いや、失礼にせざる負えなかった。


 霜だ。


 もしかしたら忘れている人もいるかもしれないが、僕の友人だ。神宮寺のパンツ脅迫事件の後、大学にて僕の異変に気づいた友人。そして付け加えるなら、彼はモブだ。僕の本能が告げている。


 モブもとい霜が雷に打たれたようなリアクションの後、自動ドアが閉じるよりも速くホットスナックコーナーに来て、そのまま通り過ぎて僕の目の前へ。


 バンっとテーブルを叩いて威嚇する。


 そして鋭い眼光で言い放つ。


「おいテメェあの可愛い子はなんだ!?」

「すいません。当店では『オイテメー、アノカワイイコハナンダ』は扱っていないもので」

「真面目に聞いてんだ俺は」


 どこをどう解釈したら真面目になる。


 霜は口に手を添えて、こそこそ話をするように話す。


「………で、お前抱いたのか?」

「ご注文は何でしょうか?」

「あの女の子を1日レンタルで」

「頭がおかしいようなのでご注文は救急車一台でよろしかったでしょうか?」

「悪かった。そうだお前の言う通りだ。一晩で十分だったな」

「このボール初めて使うなぁ」


 コンビニには各店舗に二つほど、防犯カラーボールというものが設置されており、ボールが破裂するとお巡りさんが駆けつけてくれる優れ物だ。


 あのパンツ脅迫事件と同じフォームで投げつけてやろうか。標準は無論、霜だ。


雑誌エロ本コーナーならあっちだ」

「新しいの入った?」

「とりあえず買え」

「おしぼりも付けてくれ」

「シールでいいだろ?」


 なぜか霜と話すと男子高校生のような会話になるのは何故だろう。世界七不思議。ちなみにのこり6つは神宮寺が原因。


 霜が雑誌コーナーに行くと、横で見ていた神宮寺がレジを離れて近づいて、


「先輩先輩。今の人お知り合いですか?」

「お知り合いたくなかったけどな」


 脳みそが男子中学生なんだよあいつ。


「へー。先輩にも友達いたんですねー。てっきり………」

「おい貴様。僕を勝手にぼっちにするな」

「私ぐらいだと思ってましたよ同年代の話し相手」

「僕はコミュ障とか人見知りじゃない。ただ他人に興味が薄いだけだ」

「誇らしげに言うことじゃありませんよ」


 ごもっとも。


 まぁ、他人に興味がないのは自覚しているし、我ながら変な奴だなとは思うけど、あんたが言いますか?変態級の変人、神宮寺さん。


「っしゃっせー」

「い、いらっしゃいませー」


 ほらみろ。こっちきて油売ってるから、客きて急いで戻る羽目になったじゃないか。何やってんだか。


「いらっしゃいます〜。お疲れユキ」

「あ!ミサじゃん!どうしたの?」

「アイス買いに来ただけ〜、部活前のご褒美♪」


 どうやら知り合いらしい。学校の同級生だろうか。


 制服を着てないからはっきりしないが、学校指定の体操着と、体育会系のハーフパンツを着ている。ハーフというよりショートか?バレーボールとか卓球とかの選手が履いてそうなパンツだ。


 ショートなのは服だけじゃなく髪の毛もそうで、短く切り揃えてある前髪にポニーテール。耳元にはピアスらしきものも付いている。


 いわゆるアクティブ系。アウトドアのスポーツ女子ってところか。神宮寺と共通点はないように見えるが。


 まぁ女子の交流関係なんて、男の僕がわかったことじゃないからなんでもいいのだが、神宮寺と意思疎通できるのは素直にすごい。


「もしかしてユキの先輩かな?はじめまして〜!ミサでーす♪」

「あぁ、どうも」

「お兄さん大学生?めっちゃ背高いね〜!何センチ?」


 うわぉグイグイ来ますねぇ。


 カラーコンタクトの入った瞳が至近距離まで寄せられる。肌が焼けているところを見ると、何か屋外のスポーツをやっているのだろうか。ショートパンツから伸びた足は結構筋肉ある。


「興味ないから知らない」

「180はありそうだよね〜。やっぱモテる?」


 なわけ。たわけ。


「ご注文は何でしょうか?」

「お兄さんって童貞?」

「すいません。当店では『オニイサンッテドーテー』は扱っていないもので」


 あぁ。この人、会話のキャッチボール出来ない系だ。神宮寺と一緒のタイプ。類は友を呼ぶとはまさにこの事だ。


「それともヤリ○ン?」


 …………………もう霜と話してろよ。たぶん盛り上がるぞ。


「救急車のご注文ありがとうございました。迎えに来るまでしばらくお待ち下さい」


 スマホを取り出してロックを解除し、電話のアイコンをタップする。


 「セクハラ受けたので救急車をお願いします」だと変だから、「障害者が事故を起こしました」の方がいいかなと、通報内容を考えていると、通知が鳴った。


 普段LINEやメールは利用しないし、滅多に連絡は来ないからついついマナーモードを切り忘れていた。


「あ、お兄さん業務放棄だー」

「ダメですよ先輩。バイト中にサボっちゃ」

「…………………………………」


 いや、いつも油売ってるお前が言うな。って言うと、慣用句を理解できない神宮寺がオイル販売と勘違いするから言わないけど。


「………サボってるわけじゃない、ただの通報だ。ついでに霜もな」

「何で!?」


 ちっ、聞こえたか。


 しかしマジに通報するわけではなくフリなのだが、なんか妙なタイミングで通知が来たな。


 タップして内容を確認する。


『仕事中かな?返事は後で構わない』


『見せたい物があるんだ』


『出来れば神宮寺は連れてこないでくれ』


 針ヶ谷からだった。


「……………何だこりゃ」

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