第8話 突撃!自宅訪問

 意外にも、今朝はスッキリ起きれた。


 数日前はストレスが溜まって、寝るに寝れなかったが、昨日はそれが予想以上にストレスじゃないという事を確認できたから、こんなにもスッキリと起きることができたんだと思う。


 意外にも神宮寺が集めたメンバーは、(少しマイペースなところはあるが)至って常識人で、世界征服を目論む、悪の組織やカルト宗教的なものではない………と思う。


 特に針ヶ谷瑞は、メンバー最年少ながら(他のメンバーは知らないけど)、しっかりしていた印象が強い。折坂さんの面倒を見ていたところや、新入りの僕をもてなしていたところを見ると、もしかすると俺がいない時に、神宮寺の思い付きに振り回されていた苦労人かもしれない。本当にありがとう。そして本当にごめんなさい。


 とりあえず今日は休日なので、バイトの時間まで暇だ。


 カーテンを開けると雲のない晴天が、僕の顔面に紫外線を浴びせる。天気がいいから洗濯物がよく乾きそうだ。ついでに掃除機もかけてしまおう。昨日やろうと思ったのだが、寝不足プラス勧誘不安により、バイトに必要な体力を温存するため、ベッドで倒れていた。


「………休む日って書いて休日だけど、休日にしか働かない人もいるもんな」


 誰かが休んでいる時、誰かが働いてる。働かない人は、その分誰かに働かせている。


 今日は休日だから授業はないけど、僕もこれからバイトがある。そう思うと学生の方が働いてるかもしなくは無いが。


 寝てた体を起こす様、グーっと背伸びして、大きく息を吐くと。


 ピーンポーン。


「ん?なんだ?」


 不意にインターホンが鳴った。


 NH○の勧誘か?懲りないね君たち。朝早くからご苦労様。


 彼らも仕事だから無碍には出来ないけど、半強制的に契約させられて、大学生のなけなしの金をむしり取ると言う点において、僕にとって悪なのだ。お帰り願おう。


 とは言っても、NH○ではなく宅急便だとしたら流石に申し訳ないし、不在票を置かれるのも面倒だ。


 忍足でゆっくりゆっくりモニターに近づき、画面を覗こうとすると……。







 ピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポ


「うるさいわボケェ!!!」


 針ヶ谷と同じようなことをしてしまった。


 もしかすると、神宮寺は人の行動を統一化する超能力があるのかも。リーダーに相応しい能力だが、発揮するタイミングを間違えてる。


「おはようございます先輩」

「まだバイトの時間じゃねぇ」

「お仕事の挨拶じゃなくてグッドモーニングよ方ですよ」

「バットモーニング!」


 ドアを閉めようとするが、神宮寺はドアのふちを手で押さえて、隙間に足を挟んで、何が何でも逃さないつもりだ。N○Kよりタチ悪いぞコイツ。


「何の真似だテメェ………!」

「後輩が親切に起こしにきてあげたのに、何ですかその口は………!」

「そんなサービス頼んだ覚えありませんお引き取り願います………!」

「いえいえ初回無料サービスなのでご遠慮なさらずに………!」


 怪しい無料サービスほど怖い物はねぇよ。てかこいつなんで僕のアパート知ってんだよ。


「何で僕の部屋知ってんだよ………」

「先輩の臭いをたどったらここに着いたので」

「犬かよ」


 警察犬より優秀だぜ。警察官の皆さん引き取ってくれませんか?


 全力でドアを閉めようとする僕。


 全力でドアをこじ開けようとする神宮寺。


「どうしても放さないつもりか………!!」

「何が何でも入るつもりです…………!!」

「………………………………」

「………………………………」


 男女が見つめ合えば恋がなんとかかんとか。しかし今の僕と神宮寺は見つめ合う、と言うより睨み合い。昔読んだ少年マンガのバトルシーンより鋭い眼光が火花を散らし、譲れない戦いが始まっている。


 僕の部屋の前で。休日の、晴天の、息を吸って吐けば、肺の中が浄化されるはずの空気が、ここでは最終決戦のようなピリついた空気が漂う。


「………仕方ありません、かくなる上は……!!」

「はっ!お前の奥義パンツアタックは、両手が塞がれている今の状態、では放つことはできないっ!」

「甘いですね先輩…………。私が喋れていると言うことは、大声を出せるわけで、誤解を招く発言も出来なくはない!」

「……なん……だと………っ!?」

「ふふふ。このアパート全体に響く声で言ってやりますよ」


 ニヤリと笑う神宮寺は僕のトラウマを呼び起こすような顔をしている。パンツ脅迫事件の嫌な笑みだ。


 神宮寺は大きく息を吸って、


「はん…………」


 何かを言う前に、僕は神宮寺の口を押さえてがっちりホールド。ドアを全開にして神宮寺を引き摺り込む。見方によっては誤解を招くかも知れないが、誰も見ていない事を祈ります。


「はぁ……はぁ……お前今、何言おうとした……」

「『ハンバーーーグッ!!!』って言おうとしました」

「…………………」


 ………………もうやだこいつ………。


 僕は神宮寺の罠にまんまとハマって、自ら僕の部屋に連れ込んでしまったのだ。


「へー。ここが先輩の部屋ですかー」

「とりあえずそこら辺に座ってろ」


 出て行けと言って出て行くほど、僕の言う事を聞くやつでは無いから、ましてや命令を聞く訳ないから、さっさと気を済ませて帰ってもらおう。


「さてと。じゃあ、とりあえず…………………エロ本でも探すか……」

「それは男友達が男友達の部屋に入った時に発生するイベントだろうが!!」

「しかし先輩の趣味趣向を知るのは、一緒に働く上でも一個人としても、知っていて損はない!」

「僕には損があるんだ!お前にこれ以上僕のプライバシーを握らせるわけにはいかない!」

「パンツは握ったのに?」

「やかましいわっ!!」


 ベッドの下を覗くためうつ伏せになったり、引き出しを物色しようと這い寄る神宮寺をひっぺがし、玄関の鍵を閉めて帰ってくると今度は本棚を物色していた。


「何やってる……!!」

「引き継ぎトレジャー」


 首根っこを掴んで引っぺがす。


 年下の女子といっても、人間を投げ飛ばせるほどの筋力はないから、右手で首を掴んで、左手でクッションの上と窓を指差し、


「そこに座るか窓から飛び降りるか、二つに一つだ!」

「ふふふ、甘いな先輩。私はすでに、先輩がどんなジャンルがお好みかは把握済みだ」

「……なん……だと…………っ!?」

「以前の掃除中に、新しく入ったR18本をチラチラ見ていたのを知っている。…………結構ハードなのが好きなんですね」

「よしわかった今すぐ飛び降りろ。さもなくば今ここで殺す!」

「はっはっはー。普通の女の子なら窓から飛び降りてでも逃げるだろうな。しかし私は、それでも諦めたりしない!逃げるわけにはいかないんだっ!そのエロ秘宝を手にするまでは!」

「僕の部屋にはひとつなぎの大秘宝も、ドラゴン呼び出すボールもありゃしねぇよ!」


 残念ながら、さっさとお帰り頂けそうにない。

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