第5話孤児院④

「お兄ちゃん起きて朝だよ」

「ん~おっ!」

 一瞬何でこんな所にいるのかと驚いて大きな声をあげてしまったが、俺の所を見下ろしていた子供の姿を見たら記憶が鮮明に甦った。

「何でこんな所で寝てるの?」

「いろいろあったんだよ。いろいろ」

 っつうか背中が妙に痛いので立ち上がり確認すると、玄関に散らばっていた靴の上で寝ていた。

 おいおい、その中にはハイヒールみたいな尖った子供靴もあり上向きになっていた。

 これもう凶器だよ。みくの奴俺を殺しにかかってきてるよ。

「ママが朝食出来たから早く来なって」

 そう言い残したけるは昨日皆で食べた食堂に向かって行った。

 何だよ。みくの奴俺を殺そうかと思っているのかと思ったら、そうでもなさそうだな。


 みくは野菜を切っているのか、トントントンとリズミカルに包丁がまな板に当たる音がしていた。

 後ろ向きなので表情は分からないが気にせずに俺は挨拶をした。

「おはよう」

「……」

 無視かいー。

 虐めで1番傷付くのって無視って知ってるのかな。まぁ無理もないか。あんな行動されたら女の子だったら驚くか。

 ただ俺だったら全然ウェルカムだけどな。

 そんな態度とは裏腹にテーブルを見るとしっかりと日本の和食、鮭、お味噌汁、ご飯が並べていた。

 子供達は既に何人か席に着いて、モグモグと口を動かしご飯を食べていた。

 俺もみくがいつ機嫌が変わるか分からないので、急いで席に着いた。

 置いてある割り箸を手に持ち鮭を一口サイズに切り口の中に運ぶと…これまた美味い。

 やっぱり美味いんだよな。

 ちょうどいい塩加減というか、何とも絶妙な味加減だ。

 某芸人に例えグルメリポートをすると「味の革命」や···だ。意味的には平凡な料理なのに食べてみるとビックリする位、味がいい意味で違った美味しさがあるだ。

 俺は食べ終えた食器を手に持ち流しに向かうと、みくはまだ手を動かして野菜を切っていた。

 おいおいここの施設にはゾウでも飼っているのか。

 みくの横に立ち流し台だけを見つめ俺はさりげなく話しかる事にした。

「ご飯食べないのか?」

 包丁のトントンと切る音だけがなり、みくの耳には聞こえてなかった。

 みくの耳に目掛け俺は大きな声で「飯食べないのか!?」と言ったら野菜を切っている手を止め、キッと睨んできた。

「うるさいわね! ちゃんと聞こえてるわよ!」

 俺の声のボリュームに合わせる様に、みくも大きな声で応えた。

「だったら無視するなよ」

「あなた昨日何してるか知ってる? 私をおそ···」

みくは途中で喋るのを止めて表情が少し照れていた。

「あれだ。あれは不可抗力みたいな奴だ」

 俺は頭をポリポリ搔きながらどうしようもない感じで紛れようとしたが、却って怒りを買ってしまったみたいで口をパクパクさせていた。

「あ···あ···あれが不可抗力。ふざけないでよ!そんな事あるわけないじゃない」

「まぁそんなかりかりしないでよ」

 そんなカリカリしていると赤鬼みたいになっちゃうぞ。現に顔は苛ついて真っ赤だ。

「あなたねー」

「すまん」

 みくが俺への罵声を言いたげだったが、俺はその声を遮る様に謝った。

「急に素直じゃない?」

「悪かったのは俺だしな」

 赤鬼(みく)はみるみるうちに顔の表情が血色のいい色に戻った。

「今回だけは許す」

 みくは俺に言い聞かせたのが自分の中で何かを許したのかは分からなかったが、結果として元通りになったと思う。

 

 子供達は朝食を食べ終えると年齢が低い順から、幼稚園、小学校に向かった。

 その子供達を玄関からみくは見送っていた。その後ろで俺も子供達を見送る体勢をとっていた。

 子供達の姿が完全に消えるとふいに思ってしまった。これは俺の偏見だが親がいない子供はどこか擦れている様な気がする。

 だがここにいる子供達はその辺の子供より立派な大人になる様な気がした。

「それじゃあ私達も行きますか?」

「そうだね」


 人との距離、半径三メートルは俺が嫌われていた証だったが、横にいるみくとは半径一メートル。

 昨日の事は完全に水に流してくれたらしく、みくといい距離感を保ちながら学校に向かっていた。

「私誰かと一緒に登校するの初めてかも」

「俺も初めて」

 いつもは電車の中で誰も近寄って来ない様にバリアをはっていたから。

 すいません間違えでした。正直誰も俺に近寄って来なかっただけだけど。

 

 学校に近付くにつれ生徒が多くなり、どこからともなくヒソヒソ話しが聞こえてきた。

「あいつら付き合ってるの」 「あの人が誰かといる所を初めてみた」などなど。

 自慢がないが俺はちょっとした有名人だから噂話されてもしょうがない。

 何故なら俺は神だから。いや、間違えた神よりさらに地位の高い神だった。


 教室に入ると以前よりもクラス全体の雰囲気が優しくなったというか、柔らかくなった様に感じた。

 普段はなるべく人と目線を合わせない様に机に突っ伏してたから、いつもの現状は分からないが、なんとなくだ。


「気分はどうだい皆さん?」

 先生の存在に俺は気付いていなかったが、先生は突然皆に質問したがその質問に対して応える人は何故かいなかった。

 多分先生はこう言いたいのだろう。

「寝食を共にして仲良くなったのか?」と。

 発言権のない俺だから皆の前では言わないけど、「悪くないです」

 1番前の席のみくが俺の心の声を代弁するかの様にまたクラスの皆が思っているであろう言葉を発してくれた。

「おやー最初あれほど嫌がってたのにどうしたのかな?」

 先生はちょっと子供にちょっと意地悪してやるかなという態度でみくに質問していた。みくの反応を楽しむ様に。

「…な…何て表現したらいいのか分からないけど、学校生活だけはみられない一面をみれるのでいいと思います」

「そうですか。それならこの企画はまだ継続させましょう」

 

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