第4話孤児院③

「お兄ちゃん一緒に入ろう」

 俺の所をここまで案内してくれた、三歳位の子供が湯船の中に飛び込んできた。

 おい、飛び込みは禁止って大人に教わらなかった。

 お湯が俺の顔に飛んでるんだよ。

「お兄ちゃん気持ちいいね」

 一瞬ムカついたが子供の純粋な瞳を向けられたので、直ぐに俺の怒りは沈静化した。

「そうだな」

「今日ママすごい喜んでたよ」

 その純粋な瞳をさらに輝かせて俺に喋ってきた。

「そうか。いつも見てないから分からないけど、いつもあんな感じじゃないのか?」

「全然違うよ。いつもはもっと怖いもん」

 俺にとっちゃあ充分に今日も怖かったけどな。

「あーそれとママの名前って何て言うんだっけ? ちょっとド忘れしちゃって」

 そもそも俺を嫌っていた人間だから覚える気がなかっただけだけどな。

「確か『みく』だった様な気がする」

「気がするじゃあ困るんだよ。大丈夫なんだな?」

 おいおい俺より長い年月共にしているのに、頼むぜ。

 そう考えると1年間だけ一緒のクラスの俺なんて人の名前覚えてなくても普通だな……多分。

「……うん」

 怖いな。その少し為があったのがめちゃくちゃ怖いんだよ。

 何か間違ってそうな雰囲気しかしないんだけど。

「それと君の名前は?」

「たける」

「たけるか。今日はありがとう。いろいろ助かったよ。それよりもたけるは俺の事、嫌いにならないか?」

「全然」

 その言葉を聞いた瞬間思わず抱きしめてしまった。

 俺はそんな趣味はないが、子供だし無性に嬉しかったのでつい。

 これが本当の裸の付き合いかも知れない。

 やはり俺の嫌われ体質は子供には本当に無効らしい。

「そっか」

 と端的で短い言葉だが正直言って嬉しいんだと心の中で俺は思っている。

 自分の気持ちなのに正直言って良く分からないでいた。

 そろそろのぼせてきたので二人同時にお風呂場からでた。


 たけるに連れられ寝室に向かうと、所狭しと布団が敷かれていてその上で子供達は気持ち良さそうに寝ていて、踏まない様に空いたスペースの所でみくが立っていた。

 たけるは自分の定位置があるのか、馴れた感じで子供と子供の間にはまった。

「いつもここで寝てるの?」

「えーいつもここで」

 俺の足元にも既に数人の子供が寝ていた。

 空いてる場所は端のみか。

 みくも俺と同じ事を思ったのか二人同時に端に来ていた。

「ちょっとどっか行ってくれる? いつも私はここ寝てるの。だから定位置なのよ」

「行きたいんだけどここしか空いてなくて」

 ちょうど大人二人分寝れるスペースが空いていた。

 他を見回しても子供達がちょうどパズルの様に完全に寝ていた。

「先生も言ってたけど寝食共にしないと」

 自分で今言ってあれだがこの発言て不純異性交遊を学校側から了承している様に聞こえるのは俺だけのきのせいか。

 みくはしばらく考え観念したのか、俺と頭が逆の位置で敷かれていた布団に入った。


「まだ起きてる?」

 みくの言葉は時計の秒針のカチカチと鳴る音に書き消される位の声だったが俺の耳にはしっかりと届いていたので合わせる様に静かに言葉を発した。

「起きてるけど、どうした?」

「いやー何か不思議だなと思って」

 部屋の明かりは消されているので、みくの表情は見えない。おい一体何がいいたいんだよ。

 おいおいまさか今からこの部屋からでろ何て言うなよ。

「何が?」

 俺はいつもよりちょっと声を低めにして応えた。

「一日…いや半日か、あなたという存在を知っていたけど、皆が避けてたから私も避けていた」

「自分の意思じゃなくてクラスの皆の考えに合わせるのよくないと思うけど」

 俺の嫌いな人上位にランキングする行動だね。

 人が虐めてたから私も俺も虐めていた。誰かが買ったから俺も私も買ってみた。

 おいふざけなよ! テメーらに自分の意思はねーのかよ! って教室の教壇の前に立って言いたいんだけど、実際は言えないんだよね。

「だけどそれは間違いだった。だって子供があんなに懐いているんだもん」

 子供だけには嫌われ体質の効果がないだけなんだが。俺も初めて知ったけど。

 みくはそれだけをいい残し寝ているのか起きているのかは分からなかったが、それ以上は何も言わなかった。

 この部屋の暗さにもだいぶ慣れて目の前にはみくの顔が数センチしか離れていないと気付いた。みくと知り合って最初の距離は1メートル離れていた。

 だけど今の距離は数センチ。

 手を出せば届くんだ……いや違うな顔を数センチ出せば届くんだあなたの唇に。

 

 みくが話し終え完全に寝たなと思い、お互いの顔が上下になっているこの状態から顔だけを徐々に徐々に近付けていった。

 後…数ミリの所でお互いの唇が届きそうな所でみくの目が見開きお互い数秒間見つめ合っていた。

 昼間、教室内でやり合った達人同士の間合いなんて安っぽいものではなくきんを動かしただけで、はたまた今身体に流れている血液がちょっとでも循環からそれただけで大変な事が起きると身体が悲鳴をあげていた気がした。

 やばいどうする?

 この状況。

 せっかく心が開きそうだったのに。

 どうする?


 この数秒間で様々の事を思ったが、結局打開策がなく、みくから大声はだされなかったが玄関に1人寂しく寝る事になってしまった。

 みくと俺の距離は数センチから数十メートルと一気に距離が離れていた。

 

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