ホラー好き女子は決心しました

「驚くのは当然だ。ほとんど話もしたことないホラー女子に突然告白されたんだもの。断る言葉を考えてるんだきっと。かけるは優しいから」

 七瀬ななせは瞬時に覚悟を決めた。


「正直・・・・・・ちょっとビックリした」

 

 かけるは言い終わると、右手を七瀬ななせの方に差し出した。


「何? 握手?」

「仲良くなるためのおまじない」

「それって?」

「こちらこそ、宜しくってこと」

 かけるは目を細めて笑った。


―OK・・・・・・ってことで、いいんだよね

 すぐに信じられなかった。しかし、それ以外の解釈は浮かばなかった。


 二人は再び歩き始めた。


 七瀬ななせは少しうつむいてはいたが、かける真横まよこをしっかりと歩いていた。


 話はきなかった。二人は歩きながら色々な話をした。


佳奈かなに頼んで美容室に行ってみよう。それから、お母さんに頼んでコンタクトを作ろう。あとはコスメも―」

 七瀬ななせはそう心に決めた。薄く掛かっていた霧が晴れた気分だった。


 川の水面が夕焼けを反射して、土手沿いを歩く二人をうっすらと照らしていた。



―ここで終了ではありません。もう少しお付き合いください。


 時間を10分ほどさかのぼります。


 校門で部活仲間と別れたかけるは一人、川の方へ歩きながらスマホを開いた。

「あれ? 珍しい。佳奈かなからメッセージだ」

 かけるのクラスは仲が良く、全員がSNSのIDを交換していた。しかし、佳奈かなからダイレクトにメッセージが入るのは初めてだった。


かけるって、うお座だよね


 「何だよ急に」 と思いながら立ち止まって返事を打つ。


-そうだけど、何か?

-じゃあ、今日は 『空気』 に気を付けること!


 ちょうどスマホを見ているのか返事がすぐに来る。


-何それ?

-星占い 今日はうお座のアンラッキーアイテムが 『空気』 なの!

-アンラッキーって、今、吸ってますが空気

-そうじゃないの 『空気を読むな』 ってこと

-オレ、空気を読むタイプじゃないけど

-そんなことないよ かけるはいつもめちゃ気使ってる

-とにかく今日は絶対に空気を読まないこと 約束!

-よくわかんないけど、了解 またあしたな


「空気、読んでるのかな。オレ」

 川沿いの土手へ向かう階段を登りながら考えた。

 そして、土手沿いの小道を歩く。


 遠くの山のふちっすら赤い。

「今日は夕焼けになりそうだな・・・・・・ん?」

 30メートルほど先、川に降りる階段に一人の女の子が座っている。

七瀬ななせだ」


 かけるの心臓は突然バクバクし始めた。いつも土手沿いで本を読んでいる彼女。ずっと気になっていた彼女。


 声を掛けたい、話がしたい。「何読んでるの」 って聞きたい。とにかく・・・・・・もっと彼女の事が知りたい。かけるは高校1年の頃からそう思っていた。


 声を掛けることができなかった。いつも彼女のうしろを気付かないフリをして通過する。そのたびに 「今日も無理だったな」 と思うのだ。


 10メートルほど手前でかけるは立ち止まった。

「今日も通り過ぎるのか。オレ」


―空気を読むな、かける


 そのとき、頭の中に声が響いた。

 聞いたことがない声。

 しかし、力強く背中を押す声。


「よしっ」 

 かけるは決意を声に出してから、再び歩き始めた。

冷静れいせいに、平静へいせいに」

 自分に言い聞かせて。


 そして・・・・・・勇気をふりしぼって声をかける。


「あれ、七瀬ななせじゃん。何してるの?」


(終)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【SF×短編】ホラー好き女子は恋しちゃだめですか? 松本タケル @matu3980454

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ