ホラー好き女子は告白しました

「あれ、七瀬ななせじゃん。何してるの?」

 突然、背後から声がした。


 ま、さ、か・・・・・・。おそおそる、首だけうしろに向けた。


 そこには、カバンを肩にかけて片手をポケットに入れたかけるが立っていた。ショートカットで制服の上からでも鍛えていることが分かるスポーツマン。

「かっ、かけっ」

 いつもより早い。まだ心の準備ができてない。


「ちょっと、キャプテンに言い忘れたことがあって。メッセージ送りたいんだけど、ここ座っていい?」

「い、いいよ」

 かけるはカバンをおろして七瀬ななせの横に座った。そして、スマホを出してメッセージを打ち始めた。


「よしっと。もうすぐ暗くなる。七瀬ななせの家ってどっち?」

 七瀬ななせはそっと指をさした。

「そうなんだ、同じの方向じゃん。一緒に行く?」

 かけるは立ち上がった。七瀬ななせも遅れて立ち上がり二人で歩き始めた。


 となりを歩くのが気が引けて、七瀬は半歩遅れて歩いた。かけるはサッカー部の副キャプテン。ファンの女子は多い。自分と一緒に歩いてるのを目撃されたらかけるに迷惑になる。 


「ところで七瀬ななせ、小説かマンガか分からないけど、何を読んでたの?」

 ホラーだなんて絶対言えない、七瀬ななせは手に持っていた小説を背中にサッと隠した。

「そんな言えないようなやつなの?」

「いや、言えないって程じゃ、ないけど、ひ、引くかなって」


「引くって、もしかして愛し合う男子と女子が・・・・・・とか?」

「いやいやいや、そ、そんなんじゃないよ」

 七瀬ななせは立ち止まり、両手を振って 「違う、違う」 のジェスチャーをした。しかし、その拍子ひょうしに本を落としてしまった。


 かがんで小説をひろかける

「オレはきもわってるんだ。少々のことじゃビビらないよ」


-終った。始まる前に終った。とんだ失態しったいだ。


「おお、これは予想外。七瀬ななせってホラー好きなんだ」

 引いている様子はない。

「だからって、別に誰かをしたりしたいってことじゃないからね」

「分かってるって」

「ひ、引かない・・・・・・の? 血がビャーとかなんだよ」

「なんで引くの? オレたちの読んでるバトル系のマンガなんて血がビャーなんてザラだよ。腕も切れるし、人も死ぬ。一緒じゃん」


 新たな価値観。七瀬ななせが考えたこともない価値観だった。

 これまでに感じたことのないほどの肯定感だった。

 「うれしい」 心から思った。


 この人の事をもっと知りたい、もっと話がしたい、もっと一緒にいたい。こんなチャンスは二度と来ない。でも、でも・・・・・・。


-空気を読むな、七瀬ななせ


 突然、頭の中に声が響いた。

 誰の声か分からない声。

 しかし、否定を許さないほど強い声。


「ねえ、かける


 七瀬ななせは、本を手に持ち立ち上がったかけるの目をしっかりと見つめた。さっきまでのオドオドした七瀬ななせなくなっていた。


「どうした?」

 かけるの問いかけには答えずに七瀬ななせは話しを続けた。


「高1からかけると同じクラスだったよね」

「その頃から私 ― 」

 七瀬ななせは自分がなんて言ったのか、はっきり思い出せなかった。後から聞くと顔が沸騰するくらい恥ずかしいような言葉だったかもしれない。しかし、七瀬ななせは自分の思いを自分の言葉でしっかり伝えた。


 沈黙―


 5秒? 10秒? 七瀬ななせには何十分にも思えた。


 かけるは目をまん丸に開いてジッと七瀬ななせを見ている。


(続く)

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