【SF×短編】ホラー好き女子は恋しちゃだめですか?

松本タケル

ホラー好き女子は恋しちゃだめですか?

「学校で話せばいいのに」

 高校2年生の七瀬ななせは、通学前に親友の佳奈かなからのSNSを開いた。


七瀬ななせって、うお座だよね

―そうだけど

―今日の星占い、要注意だよ~

―?

―今日のうお座のアンラッキーアイテムは 『空気』 だって


 佳奈かなは最近 『不運☆品目』 という早朝ラジオにハマっている。だそうだ。


―AIとかビッグデータとかの解析からアンラッキーアイテムを見つけるんだって 

―SNSでも ”当たる” って評判だよ  絶対、避けた方がいいって

―『空気』 吸わなかったら死んじゃうじゃん

―ごめん ラジオの解説をつけとく


『うお座のアンラッキーアイテムは空気。今日は会議などで空気を読むのはやめた方がいいでしょう。引っ込み思案じあんなあなたも今日だけは思ったことを発言しましょう!』


 佳奈かなから時々、うお座の情報が送られてきた。いつもは積極的に避ける気はなかったが、今日は違った。アンラッキーアイテム 『空気』 が気になった。彼女のコンプレックスにマッチしていたからだ。


 彼女は漫画研究部所属、眼鏡に地味な黒髪ロング。クラスでも陰キャりのグループにいた。グループといっても友達は同じ部活の佳奈かなくらいだった。また、七瀬ななせは引っ込み思案じあんでもあった。


「それでは、グループに別れて議論してください」

 最近はこの手の授業が多い。アクティブラーニングというそうだが、余計なお世話だった。自分の意見が言えなかった。議論に参加したくないわけではない。主張が苦手なのだ。多数決を取ると、自分の意見と違っていても声の大きい人に賛同してしまう。七瀬ななせはそんな自分に嫌気がさしていた。



七瀬ななせさあ、自分で分かってないと思うけど、眼鏡を取って、髪の毛を整えて、コスメしたら絶対、可愛いんだよ。今時いまどき、お母さんに髪の毛を切ってもらうなんて有りないよ」

 佳奈かなはいつもそう言う。

「だって、美容師さんに何て言えばいいか分からないもん。緊張するし」

 佳奈かなは派手ではないが、何気なにげに髪型やコスメに気遣きづかいをしていた。

「今度、いて行ってあげるから。美容室」

「気が向いたらね」


 性格に加えて彼女の趣味が余計に七瀬ななせを内向的にしていた。だいのホラー好きだったのだ。小説やマンガが好きだった。文字で想像する怖さ、マンガで色を想像して読む怖さが魅力だった。



 そんな七瀬ななせだが、高校1年のときからひそかに思いを寄せるクラスメイトがいた。サッカー部の副キャプテンのかけるだ。かけるはいわゆる陽キャグループだが、決して騒ぎ立てる性格ではない。


 天真爛漫で陽キャのキャプテンを後ろで支えているのがかけるだ。授業の議論でも周囲の意見をうまく聞き出して意見をまとめてくれた。七瀬ななせは他人を気遣きづかかけるに心を奪われていた。


「話しかけちゃえばいいじゃん」

「そんな簡単に言わないでよぉ、佳奈かな

 七瀬ななせの本心を知っているのは佳奈かなだけだ。

佳奈かなはすごいよ。何気なにげにどのグループにも入って話するんだもん」

「でも、心の親友は七瀬ななせだけだぜ」

「ホラー好きなこと、絶対にバラさないでよお」


 佳奈かながいないとどうなっちゃうんだろう、七瀬ななせはそう思うことがあった。同時にこのままではいけないと思っていた。


「今日も土手どてでホラー三昧ざんまい?」

「うん。あれが私のリフレッシュタイムなの」

かけるが通るから?」

「えっ、あー、まあ、うん、2割くらいはそっかなあ。1度も話しをしたことないけど」

恋焦こいこがれた人の後ろ姿をそっと見送る。古風ですなあ、七瀬ななせは」

「もう、からかわないでよお」

 七瀬ななせは放課後、一人で川沿いの土手で小説やマンガを読むのを日課にしていた。明るい日の下で怖いストーリーを読む、このギャップが彼女のリフレッシュだった。自分や他人を傷つけたい衝動があるわけではない。 「絶対起こらない」 と分かっているからこそ没入できた。



 放課後、部室で佳奈かなと話した後、いつものように土手に向かった。17時30分。まだ1時間くらいは明るい。そして、18時過ぎにかけるが通る。部活後にこの土手を歩いて帰るのだ。かけるの家は部活仲間と違う方向なので大抵たいてい一人だ。


 七瀬ななせは土手沿いの階段の最上段で本を開いた。10回は読んでいる、お気に入りの小説だ。しかし、その日ははなしが全く頭に入ってこなかった。朝の 『不運☆品目』 がどうにも気になっていた。


 『空気を読まない』。それは、七瀬ななせにとって非常に困難なことだ。なのに 『空気を読むと不運になる』 と言われているのだ。


「今日だって朝から空気読みまくりだし」

 ポツリと呟いた。

「空気を読まない、空気を読まない、読まない、読まない・・・・・・」

 念仏のように唱えた。

「この後、起こることで空気を読まないって」


「ま、まさか・・・・・・告白?」

 七瀬ななせは一人で首をブルブルと振った。

「ナイナイ、そんなこと出来できわけがない。まともに話したことだってないんだよ」

 空気を読む以前の問題だと、七瀬ななせは思った。


 現在、17時50分。あと10分ほどでかけるが通る時間。


 その時は迫っていた。


(最終話(2話目)に続く)

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