013 犯人は貴方
平岡ツトムは犯人ではない。
となると、一体、誰の仕業だろうか。
「直感だが、俺は星野が怪しいと思う」
「奇遇ね。私も同じ事を思っていた」
俺達は手を繋ぎながら街路を歩いていた。
等間隔に植えられた街路樹に絡みつくLEDが光っている。
いつの間にか日が暮れていた。
「これは推理小説じゃなくて現実だから、実際には私達の知らない第三者が犯人という可能性も十分にある。その場合に備えて対策をとらないとね」
「対策って、どうすればいいんだ?」
「カメラを仕掛ければいい。犯人は雛森さんのマンションの監視カメラが動いていないことを知っている人物だから、そこを突く。壊れた監視カメラの中に正常に動作している小型の監視カメラを仕込んでおくの。そうすれば簡単に見つかるわ」
「そんなことをするくらいなら監視カメラを交換すればいいんじゃ?」
「カメラが新品になったら警戒されちゃうよ」
「それもそうか」
「祐治の言う通りカメラを交換する方法でもいいとは思うんだけどね。私達の仕事は嫌がらせをやめさせることだから。でも、それだと根本の解決にならない。できれば根っこの部分から解決したいの。証拠を固めて、警察に動いてもらう」
「賛成だ」
ピロロン、と文香のスマホが鳴る。
「雛森さんから連絡。明日会えるって。星野さんも呼べるらしい」
「星野が犯人ならそこで終了、違うなら監視カメラで終了だ」
作戦は決まった。
◇
次の日、俺達は12時にミサトの家を訪れた。
星野が来るのは13時の予定だから、1時間の余裕がある。
「本当にツトム君……平岡が犯人じゃないのですか?」
「ええ、間違いありません。証明してみます」
文香の指示で、俺はミサトに〈真実の言葉〉をかけた。
その状態でミサトに嘘をついてもらう。
「あああああああっ! ああんっ! ひぐぅううう、あっ、あっ、あぁん!」
嘘をついた途端、ミサトは喘ぐように悶え始めた。
ベッドに寝そべり、時計の針のようにくるくる回っている。
半開きの口からは涎がだらだら垂れていた。
「祐治、早く解除を」
「お、おう」
妙に艶めかしい声だったのでしばらく聴いていたかった。
だが、文香に言われた以上はそうもいかないので解除する。
「すごいですね……この能力……」
「これを使って平岡さんに確認しましたので、間違いありません」
「なるほど。ツトム君じゃないなら、一体、誰が……」
「私達は星野さんが怪しいと思っています」
「星野さんが? どうして?」
「それらしい理由を挙げることはできますが、結局のところ勘です」
「勘って……」
「どちらにせよ、じきに犯人は分かります。既に郵便受けのカメラには細工し終えていますので、次の犯行で必ず顔が割れます。星野さんが犯人でなくとも、犯人の特定はできますのでご安心ください」
「え、ええ、分かりました」
星野が来るまでの間、ミサトに星野の話を聞かせてもらった。
それによると、星野とは入社してすぐから親しかったそうだ。
頻繁に誘われていたが、当初は平岡と交際していたので断っていた。
平岡と別れた数日後に食事を共にしたという。
謎の嫌がらせが始まったのは、その数日後からだ。
「あ、最初の頃の嫌がらせは、今みたいに直接郵便受けに入っていたわけじゃないんです。封筒に入っていました。エスカレートしたのはそれから2~3週間後くらいだったと思います」
星野が犯人だと考えれば納得がいく。
最初は捕まるのが怖くて封筒に入れていたのだ。
カメラが壊れていると知ったからエスカレートした。
だが、これは決めつけに過ぎない。
ただ単に逮捕を恐れなくなったという可能性もある。
「星野さんと肉体関係は?」
文香が突っ込んだ質問をする。
ミサトは顔を赤らめながら「ないです」と首を振った。
「私の自惚れかもしれませんが、星野さんは私に気があると思うんです」
どう見てもそうだろう、と思いつつ何も言わないでおく。
「ただ、私のほうは、あまり、その、タイプじゃないんです。話していて面白いし、頼りにもなるのですが、なんというか、その……」
「ときめかない?」と文香。
「そうです! ときめかないんです! ただ、そんな漠然とした理由だから、きっぱりとは言えなくて、今も保留にしています……」
「保留って? 告白されたってことですか?」
俺が尋ねる。
ミサトは「はい」と頷いた。
ピンポーン♪
インターホンが鳴る。
ミサトが受話器越しに応答する。
相手は星野だった。
13時にはまだ20分足りない。
えらく早い到着だ。
「中に入れますね」
俺達が頷くと、ミサトは扉を開けて星野を招き入れた。
「雛森さん、ついに返事を……って、なんでまた彼らが?」
星野が怪訝そうに俺達を見る。
「星野さん、とりあえず彼らの話を聞いてもらってもいい?」
「別にいいけど」
星野はむすっとした様子で俺達の前に座った。
ミサトは星野から少し離れた位置に座る。
俺達の言葉を受けて警戒しているのだろう。
「祐治」
「おう」
短いやり取りで伝わる。
俺は〈真実の言葉〉を星野に発動した。
しかし、そのことを星野には言わない。
「それで、俺に何か?」
「雛森さんに嫌がらせをしているのは貴方ですか?」
文香が問う。
「何を馬鹿なことを言っているんだ。そんなわけないだろう」
と、答えた次の瞬間だった。
星野がおもむろに頭を掻き始めたのだ。
「まさか本当に俺を疑い始めたのか? 平岡じゃなく」
星野の頭を掻く勢いが強まっていく。
必死に我慢しているようだが、それでも止まらない。
「頭が痒いのですか?」
「あ、ああ、そうだけど、それがなんだよ」
星野が頭を掻きまくる。
毛が抜けやすい体質のようで、床に彼の毛が散乱する。
「決まりだな」
俺が呟く。
文香が「そうね」と同意する。
「星野さん、なんで……」
ミサトは顔を青ざめた。
「な、なにが、なにがなんだよ……! ああ痒い痒い痒い! クソッ!」
俺は〈真実の言葉〉を解除する。
力の使いすぎは俺にとっても負担が大きいのだ。
「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」
息を乱す星野。
そんな彼を指しながら文香が言い放つ。
「雛森ミサトさんに酷い嫌がらせをしていた犯人は貴方で決まりです、星野さん」
探偵ドラマのようにビシッと決まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。