cat cannot cat.

花色 木綿

にゃあ

 世界から猫が消えた。それも、何の前触れもなく突然だ。


 突然、世界中から猫が消えてしまったのだ。家から、路地裏から、地中海から。人に飼われている猫も野良猫も関係なく、一匹残らず消えてしまった。


 だが、それでも世界はいつも通り、変わらずに時を刻んでいる。猫が一匹残らず消えたというに、一秒も狂うことなく、だ。


 この異変に、人間どもは大いに困惑した。猫を飼っていた連中はそろって悲しみに暮れ、自らもその後を追うように死を選ぶ者もいれば、この不可思議な現象をおもしろがって騒いでいる連中に、自分には関係ないと無関心な者、声を枯らして一日中飼い猫の名を呼び続ける者もいれば、猫失踪事件研究家なぞという怪しい職業を名乗る者まで現れた。


 だが、それでも猫の行方は分からない。もちろん、その原因もだ。


 それは神のみぞ知る……、いや、猫のみぞ知るのである。


 そう、夏への扉を見つけた我々猫は、この世界を捨て、楽園へと行ったのだ。人間どものいない、温かで穏やかな世界へと——。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

cat cannot cat. 花色 木綿 @hanairo-momen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説