第34話「幼馴染は花火したい④」


 四葉と一緒に花火をするのはいつぶりだろうか。


 いや、むしろ。

 幼馴染と、四葉と——二人だけで遊んだのはいつぶりなのだろうか。


 バチバチと火花散らす手持ち花火を見つめながら俺はふと、過去の思い出を探っていた。


 小学生時代は毎年キャンプも行っていたし、その流れで家族ぐるみでしたことはあった。なんでか分からないが、良く二人きりにされてたし、きっと花火も少し離れた場所で二人だけでしていたかもしれない。


 まあ、あの湖溺れ事件以来は毎回監視されてたけど……それ以外で結局、という四文字を的確にこなしたことはなかった気がする。


 中学生の頃も手持ちじゃなくて、友達数人で打ち上げ花火を見に行ったし、最後の方は性格もひん曲がってしまったから花火に行くことすらできなかった。


 そう考えると……もしかしたら、これが初なのかもしれない。

 大人に近づいた、恋愛的な関係になった元幼馴染(?)の四葉とこうやって一緒に楽しむのは初めてなのかもしれない。


 ほんと、昔とは全然違う。


 初めての浴衣姿も相まって、色気もあるし、蜜柑色の火花が顔を照らして、エモさマシマシの二郎系ラーメンってところだ。その姿はとても優美で、それでいて単調さもあって、女優顔負けなくらいに美しく見えた。


 胸がドキッと跳ねて、さっきから心臓のバクバクが止まらない。

 別になんてことはないことを、恋人になった四葉としているだけなのに、体の緊張は解けなかった。


「綺麗……」


 ぷりっと赤く照らされた口紅が高校生のそれとは思えない。

 男子高校生の俺にはちと、厳しすぎる。


 まったく、綺麗なのは誰の事やら。花火なんてどうでもいいまである。


「そうだな……」


「消えてるけど?」


「え——あっ、あぁ……すまん」


「なんで謝るのよ……」


「いや……理由は、特に」


「じゃあ、気持ち悪いから謝らないでっ」


「うん」


「……もぅ」


 何も考えていないとこうなる。

 確かに、どうとでもないことにこんなにドキドキしてるのは気持ち悪いかもしれない。自重した方がよさそうだ。


「それにしても、急に静かだわね」


「えっ——そうか?」


「そうよ、さっきまでの茶かし口はどこに行っちゃったわけ?」


「……いじめられたいのか?」


「は? そんなこと言ってないし……」


 こっちもやられてばっかりではいられない。

 綺麗な四葉に屈してばっかりではさすがに変態みたいで気持ちが悪いからな。


「……可愛いよ」


「っ~~~~!?」


「ほうら、顔赤くなった」


「べ、別にっ……これは……違うし!」


 全力で否定する四葉。

 顔に嬉しいとそう書いてあるのに、表には出さんとするところは実に彼女らしい。


 バチバチ鳴っていた花火も落ちて、表情すら見えないがぶつぶつと言い訳が聞こえてくるのが追い打ちで可愛いのは少し反則だ。


「ほんとかなぁ? さっきからいろいろ言ってるけど~~」


「だ、だから違うし‼‼」


「焦ってるようだけど?」


「焦ってない、まじで違っ‼‼ う……うざい‼‼」


 すると、彼女はチャッカマンで噴射する花火に火をつける。

 どうするのかとまじまじと見つめているとギロリと花火の反射で橙色に光った瞳が俺を捉える。


「————え」


「覚悟、しなさい……」


「は、え……ど、どうしたんだ? 四葉……」


「すぐ終わるから……大丈夫よ?」


 気づいたときには時すでに遅し、容赦の容の字すら知らない俺のツンデレ幼馴染はバチバチと七色に光った手持ち花火を俺の皮膚へと近づける。


「おいおいおいおいお、ままま———まてっ‼‼‼‼」


「逃げないで……いいからっあぁあああああ‼‼‼‼」


 最初で最後、良い子は真似をしてはいけない第一回花火チャンバラ合戦が始まった瞬間だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る