第35話「幼馴染の寝顔が可愛い」


「すぅ……すぅ……」


 リビングに響く、四葉の寝息。

 あんなにもはしゃいで、俺の事をいじめていたのに……寝た途端これはまったくもって――


「反則だろっ」


 一言、本音が漏れてしまって恥ずかしなった俺は自室に戻った。





「はぁ……なんだろうなぁ」


 自室に戻ると今一番にため息が零れた。


 付き合ってからというもの、情緒が少しばかり不安定な四葉に振り回されて——これが恋人関係になるということなのかと我ながら戸惑っている。


 無論、付き合うようになってから照れたり、笑ったりと感情が豊かになった彼女は可愛いことこの上ない。言ってみれば、笑顔が似合うのは昔からだったが今はその時とは違った色気もあるし、いい意味で成長したのだろう。


 まあ————あのまな板のようなちっぱいは変わっていないけどな。きっと、昔一緒にお風呂に入った時の様な形しているんだろう。ははっ、こんなこと考えていたら右ストレートが飛んできそうだ。


 怖い怖い。

 ゴリラになったら顔つき変わるからなぁ……。


 なーんて、やめだやめ! これじゃあフラグ立てまくっちゃってあとで本気でされそうだし、考えるのはやめだ!


 俺が自室でそんなこんないろんなモヤモヤを頭の中で考えていると——ブルルルとポケットに入れていたスマホが震えた。


「なんだ……」


 取り出して、画面を見てみると——少しがっかりした。

 木戸俊介。

 腐れ縁からの連絡だった。


「……なんか期待した俺が馬鹿みたいだ……」


 そうして、俺はスマホを耳につけた。


「どうしたよ……」


『よぉ~~兄弟っ』


「ははっ、誰がお前の兄弟だよっ……なりたくもないね」


『キッツいこと言ってくれるねぇ~~これでも、親友としての矜持はあるもんよ?』


「親友は矜持も何も持たねぇよ、そんなの親友じゃねえ」


『ほぉ……これはこれは、和人様が素晴らしいことを言っておられる……メモや』


「もしも俺が俊介の上官ならすぐに銃殺刑だな」


『だったら、逃げる。信用できんわ』


「そっちの方が助かるまである」


『女に嫌われるぞ?』


「いつから俊介は女だった!?」


『木戸俊子よぉ~~、お兄さぁん……私とあそばなぁい?』


 きっしょ。

 こころのそこからそう思った。


「いやぁ遠慮しとくわ……なんかもう、つらい」


『おいおい‼‼ やめろ‼‼ 俺を蔑むような目でみるんじゃねえぇ!!』


「お、良く分かったもんだ。さすが軍曹」


 ——と、茶番は長きに始まった。

 最近、戦争映画を見たせいかこのノリに拍車がかかっている。まあ、案外面白いなと思ってしまうのだから、俺も言えた話ではないか。


「——————それで……何の話だよ?」


『あははっ~~いやぁ、面白いなぁ……ん、話か?』


「あぁ、そうだよ。どうしてこんな夜遅くに電話してきたんだ?」


『夜遅くってまぁ――お前が普通に楽しんでいるらしいからな、どうだ、楽しかったか花火?』


 こいつ……なんで知ってやがる。


 いや、俺が何かそう言うこと言ったんか? にしても覚えてない、ほんと、どこの誰から聞いてきたんだ。木戸俊介という男のネットワークには本気で驚かされてばかりだ。


「……まぁ、楽しみだったよ」


『楽しみ?』


「楽しんだってことだよ。それに、四葉も……あぁ、いやなんでもない」


『おぉ、なんだぁなんだぁ? 俺にも教えてくれよぉ~~!』


 ニヤニヤしてやがる。

 電話越しでもこうやって茶化そうとしてくるから言わなかったのは正解だろう。


「教えん。断じてな」


『ケチだなぁ……まあ、いいや。それで、花火と言えば――なんだけどな』


「おう、結局どうなんだ?」


『今度、またあのメンバーで遊びに行くことになったけど二人も来ないか~~って話よ』


「またか? あぁ、いや……そんな時間あったか?」


『……時間も何も、もうすぐ文化祭だろ? 女子たちがクラスの中心メンバー集めて決めておきたいんだとよぉ』


「それはいいのかよ……」


『いや——普通に、ラインで決めたっしょ? クラスで何をやるかとかさ?』


「……あぁ……知らん」


『見ろ』


 見ろも何も――——って、俺のラインは友達が多いわけでもないからな。俊介ほど通知で画面が真緑になることもない。とはいえ、最近は四葉と付き合い始めたことで女子の数人からラインや現実で話すこともあるが、にしても俊介ほどではない。


「あぁ」


『その声は——って、まぁいいや。とりま考えといてや』


「そうか、分かったよ」


『あぁ、それと————イチャイチャだけはすんなよぉ』


「……てめぇ、ぶちのめs——」


 ツーツー。

 一方的に切られた。


 ほんと、うぜえなこいつは。こう言うときの橋渡しになるのはいいけど——茶化してくるのはなかなか慣れないものだ。


「そっか……明日、聞いてみるか」


 そう呟いて、俺は自らのベットに寝そべって目を閉じたのだった。

 






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