第13話「幼馴染の水着を拝む」

「……それで、和人、お前泳げるのか?」


「ん? あぁ、人並みには泳げるけど」


 手稲プールにやってきた俺たちは外にある大きめな更衣室で水着に着替えていた。


 すると、唐突にそう聞いてきた俊介。躊躇なく下着を脱ぎ、自慢の物を見せつけるようにパツパツに締まった海パンを履いていた。徐に顔を顰めてしまったが気持ち悪さは周知の事実、仕方がないことだろう。


「へぇ……そうか」


「なんだよ、その顔」


「いやぁ、な。お前が泳げなかったらクラスの連中に言って笑いの標的にしたかったんだがなぁ」


「ははっ。残念だったな、こんな俺でもプールぐらいは泳げるんだよなぁ」


「——いや、普通だろ」


「普通……か?」


 とは言っても俺が泳げるようになったのはほんの数年前なのだが、そこまで普通なのか疑問だ。首を傾げると俊介は苦笑して答える。


「……まぁ、加藤とか西島とかその辺は泳げないらしいけどな」


「ま?」


「おう。でも加藤はラグビー部で体ガッチガチの筋肉、甲鉄の塊だし仕方ないんじゃないと思うしなぁ」


 先ほどの鬼畜発言とは打って変わって「仕方がない」とは——俺の扱いの酷さには鬼の目にも涙だ。


 ——鬼畜、だけにな。ははっ、我ながらきっしょ。


「でも、西島さんとかは結構可愛いし、お肉もありそうなのに意外なんだな」


「和人、それを女子の前で言うなよ。お肉とか」


「え、いやぁ。俺は褒めてるつもりなんだけどなぁ……ほら、な。四葉とか細すぎて不健康に見えてくるだろ?」


「褒めてもないし、俺から見たら四葉ちゃんはそこまで痩せてるように見えないぞ」


「あ、まじ?」


「まじだ。むしろ、頬のお肉がちょうどいいくらいで可愛いまであるな」


 お、と一瞬だけこいつ分かっているんだな。的なシンパシーを一瞬だけ感じてしまったがそれを言ってしまえば俺がお肉フェチの変態に成り下がってしまうため、静止した。


 ただ、あのツンツンさを抜きにすれば可愛いのは百人中九十九人が「YES」と答えるくらいには可愛いと思うのだがな。本当にもどかしい。


「ははっ……それはそれは随分とフェチズムだな」


「なめんなよ、俺はボテッとした子が好きなんだ」


「じゃああれか? お笑い芸人のはr——」


「あれはボテッじゃない。ボンッだ」


 いや的確すぎる。擬音語だけでここまで再現できるのは凄かったし、俺も納得してしまった。


「……だろうな」


「ったく、ぽっちゃり目なふくよかな子が好きなんだ。そこのところ間違えるなよ」


「ほぅ、それなら西島とお似合いだな」


「……ノーコメントで」


「そうかいそうかい」


 その一瞬、俺は木戸俊介という名のイケメン陽キャの弱みを握ったのだった。


 それにしても、こいつがふくよかな子が好きだとは……世のイケメンも隅にはおけないな。



「おおぉ!」

「こりゃだだっ広いなぁ!!」

「あ、みてっあそこのパラソルの下よくないっ?」

「私、バレーしたい!」

「俺もやる!」

「じゃあ俺も!!」

「僕はあそこで一休み……」


 クラスメイトたちがはしゃいでいた一方、俺は少々立ち眩みしていた。


 理由?


 あぁ、いう間でもないかも知れないが————


「な、何よ……こっち見て……?」


「あぁ、いやなぁ……立ち眩みがっ、おっと……」


「あぁ、もう! 危ないわよっ!」


 ぶにゅり。プニプニとした肌、体勢を崩して思わず触てしまったが——なんだこの柔らかさ。異次元が過ぎる。スポンジ、いや綿あめ……いやゼリーに近い、もはやプリン!? その域までいっているほどに柔らかさ加減が凄まじかった。


「ん、どうした和人~~」


「少し、立ち眩みが……」


「え、大丈夫? 霧島くん?」


 はしゃごうと笑顔でプールを眺めていたクラスメイト数人が振り返ってこちらを向いて心配してくれたが、すぐに察したように俊介が前に立った。


「——あぁ、いや。こいつは少し貧血でな、そこまで気にするな。ほら、休憩してこいっ。そうだな、四葉ちゃんこいつ見れる?」


「——ま、まぁ、いいけど」


 一息置いて、食い気味に返事を返す四葉。対して俊介はウインクから両手を合わせたごめんねポーズ。


 後ろの女子たちは少し物欲しそうな表情で見ていたが男としては気持ち悪かった。というか四葉も引き気味だし。


 ただ、さすがの俊介。残りのメンバーを引き連れ、俺に再びウインクをして、プールの方へ走っていった。


「じゃ、行くわよ」


「あ、あぁ」


「ほら、肩かして」


「おう」


 この感触を一生忘れまいと誓った俺は一回り小さい四葉の肩を借りて日陰のできたパラソルまで歩いて行った。



「はい、飲み物」


「さ、さんきゅー」


「どういたしまして……あ、あと、お金は家で頂戴ね」


「え、金取るの?」


「当たり前じゃない、タダでもらえると思った?」


 ようやく素直に優しくなってくれたのかと涙浮かべ感動していたのに、どうやら金だったらしい。冷静に考えれば四葉が俺に奢ってくれたことはないのだが、その水着姿にワンチャンを感じさせてくれたおかげで判断が鈍ったようだ。


 ちなみにだが、言うまでもなく彼女の水着姿は可愛かった。


 俺がじーっとその水着を見ていると。


「何よ、さっきから……新手のセクハラ?」


「せ、せくっ!? そんなことしてねぇよ」


「そ。でもね、さっきから私の体見てることがバレバレなのよ。女子の水着に見とれるのも分かるけど……もうちょっと自重したら?」


 自分で言い切るのはさすがにだったが、事実であるので仕方もない。


「……すまん」


「えらいえらい」


 なんだこれ。


 最近、ずっと気になってはいたが俺が謝るたび優しい手つきで頭を撫でてくる。不意の優しさには驚きしかない。まるで白昼夢か何かのようだ。


「っぐ」


「でも——」


 すると、撫でている手を止めて、急に髪の毛を掴んだと思えば。


 次の瞬間、彼女は思いっきり髪を掴んだ右手を上に引っ張りだす。


「見てばっかりで、感想がないなんて、おかしいとは思わないのかな? ね、どうなのかな?」


「いっ——たたたたたたたたたたああああああっ‼‼‼‼」


 馬鹿力、まるでゴリラだ。このまま抜けちゃうんじゃないかと思ったがあまりの痛さにその思考も一瞬で途切れる。さらに上下に揺らし、何度も尋ねてくる四葉に俺はすでに堕ちていた。


「んな、やめ、やめろっ!!」


「——っ」


「っはぁ、っはぁ、っはぁ……」


「……もう、何も言わないくせに」


 しゅるり、と手を離すと踵を返してクラスメイトのいるプールへ向かおうとする彼女。そんなエモい女子高生の後ろ姿に、俺はふと呟いていた。


「可愛い……」


 すると、ピタリ。

 四葉がその場で止まった。


「か、かわいい……ね? ……どこが、どの辺がかわいいの?」


 言葉震わして、彼女が尋ねる。


 その震えた言葉を聞いてしまった俺の口はもう、止まることを忘れたF1車の如く発していた。


「黒くて大人びてるビキニがすっごく、その……色っぽくて……腰に巻いてるスカートが綺麗というか……おへそも肩も太ももも可愛くて、綺麗というか……全体的に——可愛い」


 言った瞬間。


 俺は呆気に取られてしまった。


 言ってしまった——そんな自責の念と恐れの入り混じった感情が心の中をぐるぐると回っていく。


 ——しかし、そんな窮地の俺に放たれた一言は予想外の言葉だった。


「——っ/// あぁ、もう! あっそぉ‼‼」


 不意をつく、照れの赤み。

 言葉の端から感じる喜び。

 そして、地団駄を踏む小さな足。


 四葉の言動がすべてを物語っていたのだ。

 あまりにも反則級の手のひら返しに俺はドキッとしてしまった。


 その日、俺は初めて、純粋で真剣で真面目な恋心を抱いたのかもしれない。


 胸躍る恋をしてしまった気がしなくもない。



 ——あ、でも俺。昔からこいつよつばが好きだったわ。



<あとがき>

 二日ぶりですみません。

 歩直です、こんばんは。

 ラブコメでは定番の水着回、僕としてもかなり見せ場だったなと感じていますがどうだったでしょうか? 個人的にはツンツンデレくらいの比率で描けた気がするので大満足です。まぁ、つかの間の休息ということで明日仮免試験、そして来週は電磁気学と複素数の中間試験があります。我ながら単位がかかっていて真剣に勉強するのでまだまだ不定期投稿になるかもしれませんがどうか、次回もお待ち下さい。


 良かったら☆評価、レビュー、応援などなどよろしくお願いします! どうかまた週間ランキングTOP10に届きますように。



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