第14話「幼馴染は水が怖い」

 いやはや、エターナルシックスティーンな最高で良い眺めだった。


 黒の花柄のビキニに、素足が透けて見えるひらひらなスカート。どこかの海賊漫画に出てきてもおかしくない服装に男の俺がビクッと震えた。というか本音を言えば、そのまま震えて脱皮してしまうくらいに驚いたんだがな。


 あ、これはもしや、俺氏、スーパー第二形態になったりして!?


 なーんて変態チックな考えが思考範囲全体を駆け巡ったが、さも冷静に呟いた。


「ふぅ……、やっと止まった」


 額に汗が浮かぶ。

 どうやら俺は30分もの間、寝ていたようだった。


 鼻に詰め込んだツッペを抜き取ると真っ赤になっていたが、その量からして分かるように、幼馴染の美ボディには血しぶきの魔力でも込められている気がするのも否めない。


「まったく、予想外だぜ……あそこまで色気があるとはな」


 それもそうだし、褒めからの照れ。自分からどこが可愛いと聞いてきたくせに言われたら言われたら怒って照れるとか……可愛すぎだろ。


 それに、最近の自分の感情が怖いまである。


 今の今まで四葉あいつのツンツンしているところに魅力すら感じなかったのに、今では可愛く見えてきているくらいだ。


「——なら、むしろ納得か。別に恥ずかしがる必要はねえ!」


 とは言ったが、俺の素直な気持ちがすんなり受け入れられるとも思ってはいない。鈍感でも敏感でもないがそのくらいは分かる。


「……ま、こう言う時こそゆっくり、丁寧に、だなっ」


「なにがゆっくりで丁寧なんだ?」


 途端、背中にじわりと湧いた冷や汗。

 恐る恐る振り向くと————そこにいたのは俊介だった。


「——な、なんだよ……びっくりしたぞ……」


「ははっ、誰だと思ったよ?」


「いやぁ、普通に四葉だと思った……まじで死ぬかと」


「そんなにか? 俺には四葉ちゃんが乱暴には見えないけどなっ」


 ニヤリ、と口角を上げる俊介。


 前にも言った通り、俺と四葉の事情を唯一知っているのがこいつでもあり——、それを逆手にこうやっていじってくるのが強キャラの務めのようだ。いつもいつもご苦労だな、少尉。


「目が節穴の様だな、もう少し女を見る目を鍛えたらどうだい?」


「はははっ、これはこれは大尉殿! 私では手も足も及びませんよ、その辺のぽっちゃり女子でも狙うとしましょうぞ!」


「ぽっちゃり女子? むしろ嗜好だとは思わんかね? 少なくとも私はそう思うけどなぁ」


「おお、これはこれは同志よ!」


「——って、何回目だこの流れ!」


「誘導したのは俊介だろっ」


「……ふぅ、やれやれ。そんなことはどうでもいいんだ!」


 急な切替。

 自分に都合が悪くなればこうする——さすがは強キャラだ。


「んで、なんで俺の……」


「あぁ、そうだったな。お前に言わなきゃいけないことがあったんだよ。そうだ、そうだ」


「な、なんだよ?」


「……そのな、お前、四葉ちゃんが泳げないの知ってるだろ?」


「あぁ、もちろん」


 急にこいつは何を言っているんだ。これでも俺と四葉との関係は十年以上前からある。一緒にプールに行ったり、海に行ったことはたくさんあるためそのくらい昔から知っている。


 怪訝に返事をすると、だよなって笑みを浮かべる俊介。そこで思ったが確かに、こんなスマイル見せられたら女子は——って俺が何考えていやがる、こんな陽キャのことなんてほっとけばいいのだ。


「それでさ、今な、何故かみんなの前で泳ぎを披露することになってだな」


「——え?」


「あぁ、なんか言葉の綾というかゲームのバツというか、なんというかな、そうなっちまったんだわ」


「なんでそれを俺に言ってきた?」


「やぁ、俺が言うのもあれじゃんか? 前から知ってるみたいでさ?」


「……それもそうだけど、だからって俺に」


「いやぁ、幼馴染として助けてやれっていうアドバイス? 最近、二人とも仲良くなって来ただろ?」


「……なんだ、その理由」


 透かして顔で言ってはいるが、実際にその原因は俊介の口によるものだ。


 高校生になってからというものの、俺と四葉の幼馴染エピソードをクラスメイト全員が知っている。


 小学生の頃に一緒にお化け屋敷に入って置いてかれた話とか、中学生の頃に川に突き落とされた話とか、お弁当を作り合ってるだとか……そういう、本当と偽りが入り混じった話をバンバンしているせいで、クラス公認のカップル的なコンビになりつつある。


 相も変わらず男どもの視線はきついものがあるが、女子の煌びやか視線も中々に痛い。


 そこまで広まってしまえば、嫌でも偽らなければいけない。本気で演技しているわけではないにしても多少はやっているのだ。


 まぁ、それが——本物になりつつあることには目を瞑っておこう。


「ほら、見てみろって」


 窓の外を指さす俊介に促されて俺も覗いたが————状況はすでに最悪だった。皆に囲まれながら「仕方ないわね~~ニッコリ!」みたいな顔でプールに腰までつかっていた。男子からは黄色の目線を送られ、女子たちからは頑張れーと黄色の声援を送られていた。


 頑張って泳げるはずもないのに、そう思った時には俺の脚は動いていた。


「あいつ——っ!」


「うおっ」


「仕方ないなぁっ……もう!」


 あいつの泣き顔は絶対に見たくない————そう思ったのは何年ぶりだろうか……。



<あとがき>


 次回「幼馴染は水が怖い2」をお楽しみに!!

 レビューお願いします!!


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