第二章「幼馴染は好きになる」
第12話「幼馴染の水着を拝みたい!」
気が付けばもう、その日になっていた。
一昨日、四葉がぼそっと呟いた「試着しようかしら」という台詞。
一言一句聞き逃さなかったためか、お風呂ではそればっかり考えてしまいのぼせ掛けたのがまだ目新しい。まったく、あんなツンツンな幼馴染でも不意を突いてくるものだから俺も耐えられない。水着、それも側だけは凄まじく可愛い女の子であれば尚更だ。
結局、その水着姿を拝むのは当日に持ち越すことにしたのだが————正直、四葉がすんなり見せてくれるのかが些か疑問だった。
札幌駅 南口 白いオブジェの前にて
『もうすぐ着くから待ってて~~』
スマホから、俊介のまったりとした言葉が聞こえてくる。
皆、お察しかもしれないが————時計の針はすでに「12:13」を指していた。集合時間は昼の12時。それからすでに10分以上経過していた。
「……っ」
がやがやと活気のある札幌駅にて、地団駄が右から聞こえてくる。
毎度のことだが、四葉の動きはかなり早い。
常に5分前行動を心掛けるような真面目な考えを持つのだが、いつものあたりの強さからでは考えられないだろう。無論、俺も最初は戸惑ったが今では様になっているくらいで、巷では「あいつは礼儀正しい陰キャだ」なんて言われているほどだ。まあ、褒めてるんだか、貶しているのかがよく分からないが自覚しているし褒められていると思っておこう。
「あぁ、もうっ!」
「——ん、どうした?」
「どうしたもこうしたもっ! おっそいじゃない!!」
どうやらついに火山が噴火してしまったようだ。
未だ、来るはずの10人中着ているのは2人、つまり俺と四葉の二人だけ。遊びとは言え、確かに遅すぎる。まあ、どうせみんなが来たら「全然待ってないよ!」ときらきらした笑顔で言い返すのだろうと考えると女子って怖いなと思ってしまうが、これがむしろ俺にとっては普通すぎてしっくり来てしまうのは病気か何かだろうか。
「まぁ、確かにな」
「……」
「な、なんだよ、睨んで……俺はちゃんと来てるぞ」
「もっと怒りなさいよ、なんで平気なのっ」
八つ当たりが過ぎる。
別に俺も平気ってわけじゃないがそこまで怒るほど嫌ってわけではない。ただ、その10分が四葉にとってはかなり遅い部類に入ってしまうのか、顔からイライラしているのが一目で伝わってくる。
「いやぁ、まあ別に俺も平気ではないけどな」
「そ、それなら怒りなさいよっ!」
「何で怒る必要がある……俺はそこまでじゃないから我慢できるんだ」
「は、はぁ⁉ わ、私だって我慢できてるしっ!」
その言い方からできてないんだよなぁ……と心の中で思ったが口に出すと蹴られそうだったため相槌を打つことにした。
「……はぁ、これだからあの子たちはっ」
「そんなに心配か?」
「まあね、ほんとに困るのよ……」
「そうだな。だが俺は一発殴るぞ、俊介に」
「……あら、和人の割には名案じゃない? 私もいい、木戸君だけには?」
「……いいんじゃないか?」
これは好機だ。馬鹿力の覇者(幼馴染)の一発となると重みが違う。俺としてもそろそろあいつに反省してもらいたいから、止めはしない。というかむしろやってほしい。
ただ、言葉の端々から感じられる女子たちへの優しさに少しほんのりとしてしまった俺はどうなんだろうか。
冷静になると変態かもしれんな。俺って。
それから数分後汗だくでやって来た俊介に一発脛蹴りをかましたが、結局四葉は心配そうな顔で女子たちを労っていて、俺だけが怒ってるという謎の酷い空気を作られてしまったのだが……心なしか、四葉の口角があがっていたのを見た時、悟ったが——俺にはまだ一つだけの楽しみがある。
「(絶対、水着笑ってやるっ——)」
そう固く誓って、居心地の悪い移動時間を味わったのだった。
<あとがき>
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