第10話「幼馴染は水着を買いたい」
「か、買っちゃった……」
札幌駅を出た俺たちはススキノや狸小路商店街がある南方面へ向かった。
昼ご飯は駅内のファミレスでどこが良いかを揉め、
「ここの唐揚げ定食が一番うまいだろっ!!」
「なんで、ここの韓国料理が一番おいしいって!!」
その後にどこに行きたいかを揉め、
「私はサンリオ行きたい!! だって可愛いじゃん!」
「俺は本屋で漫画を買いたいんだよ!!」
結局、彼女の蹴りが怖かった俺はすべてをすんなりと譲ったことで隣を歩く四葉はかなり機嫌がよかった。
「……あ、そうだっ」
半分あたりに差し掛かったところで、彼女は急に立ち止まった。
「ん、どうかしたか?」
右の手のひらに左の拳をこつんとぶつけて、何かわかったかのようなジェスチャーをしだした彼女。あまりに急に立ち止まるものだから周りの人も驚いて動く足が緩くなっていた。
「ん、いやっ思い出したっていうか、そういえばっていうか……あんまり関係ないかもっていうか……」
「なんだよそれ、気になるぞ」
「いや、別に和人にいう必要はないし」
「余計に気になる」
「きもっ」
「——おい、聞こえてるぞ?」
「うっざ、まじうざっ」
「——聞こえてるどころか、大きくなってねぇか音量も暴言も?」
「ええ、そう思わせるために言っているんだもの」
こいつ、真面目な顔でヤバいこと言いやがる。今更思うがこれでもクラスのアイドル的な存在なんだぞ。男子にはモテモテで年に何回も告白されているし、今ではファンクラブだって存在する。女子には信頼されていて、嫉妬に抱かれていじめられることもないほどに信用されている。
なのに……俺にはこれなんだから、参っちゃうぞ和人さんは。
「俺も人間なんだけどなぁ……機械か何かだと思ってないか?」
「あら、荷物持ち……えとぉ、あとは奴隷?」
「ロボットよりもひでぇ!?」
「ロボットなんか生ぬるいじゃない?」
当たり前のようにポンポンとえげつないことを言ってくる幼馴染が一体全体どこにいるのだろうか、いやここにいる。まるで反語のなれの果ての様な文章すら出来上がってしまう。
さっきの照れ顔やら白ワンピ見ながら鼻歌唄っていた少女はどこへ? 俺は来る日も来る日もそんな気分だ。
「……ほんと、人間じゃねぇ」
「逆」
「はぁ?」
「逆ってこと」
「俺は人間だ、それ以外に何が」
「奴隷」
「四葉……マジで一回干されて来い」
さすがのいい様に呆れる。溜息すら漏れだした。
とまぁ、四葉がこういう発言をするのは若干の冗談も含むため、俺は軽くあしらってすぐに本題に話を戻した。
「——それで、結局何を思い出したんだ?」
「あ、うん。それがね、今度クラスの皆でプールに行こうって話になったのよ」
「ぷ、ぷーる?」
「えぇ、そう。もしかして、プール知らないの?」
「おい、その見下す目やめろっ、プールぐらい知っとるわ!」
「へぇ、すごいじゃん」
「そんなんで褒めないでくれ……自分よりも頭いいやつにそんなことで褒められると虚しくなってくるから!」
「……」
「そして不意なジト目もやめろよ、なぁ⁉」
少々息が荒立ってしまったようだ。周りの人が次々とこちらに視線を向けて、ブワァっと顔が熱くなった。その点、冷静にジト目(引き目でもある)の視線を送り続けている四葉には感心する。
「やめない、あとプールは和人もいくのよ?」
「え」
「え、ってプール、行くのよ?」
「俺が、誰と?」
「私と……あ、いやそれだと語弊があるわね、私が和人と二人で行くみたいで気持ち悪いからぁ……そうね、私たちと、ね?」
心の声がすべて漏れてる。
途中の変な終章全部要らねえって……。
「そんな連絡知らないぞ……」
「あれ、そうなの? 一応、木戸君が言っておくって言ってたんだけど……」
「し、知らない……あいつまさか忘れてるのか」
「聞いてないならそうみたいね。はぁ、でもそれなら言わなければ良かったなぁ……」
「は、何だよ急に?」
「え、いやぁ、だってね、言わなければ来ないままだったじゃんって?」
さすが。容赦の欠片もない。
昔の彼女が見れば悲鳴を上げざる負えないような罵倒の嵐だ。幼稚園児四葉VS女子高生四葉。時を超えたドリームマッチ、見てみたいぜまったく。
「そうかよそうかよ、だが残念だったな。聞いてしまったからなっ」
「残念っ……でもまぁ、仕方ないわね。結局、十人くらいで行くみたいだし、私一人で言っても他の男子からの目線が嫌だもの。あいつらに水着なんて見せたくはないしね」
その言い方じゃ俺には見せても大丈夫の様な……
「あ、もちろんっ和人にも!」
ツンツンな幼馴染はどうやら徹底しているようだ。どんな時にでも昔から一緒の俺を罵倒する。Mっ気のない自分には中々きつい。
「そうかよ……」
「でも。今回だけは特別ねっ! 私のボディーガードとしていくのよ!」
「は、はぁ……なんで俺がそんなこと」
「あら、そんなこと言っていいの? 私、この前勉強教えたわよね?」
「な、なんで今それを!!」
「いいの? 私、ズルしたって言っちゃうけど?」
ズルなんてしてない。
だが、先生のお気に入りその1に入ってる闇の権力を持つ四葉なら——やりかねない。とてつもなく屈辱的で悔しいが仕方がなかった。
「……ずるいな」
「?」
「あぁ、もう分かったよ! ついていくよ!!」
「よし、えらいえらい!」
またもやない胸を張って自慢げに頷く彼女を横目に、俺は溜息を漏らした。
「じゃ、行くわよっ」
すると、急に彼女が俺の手を引く。
「え、な、なにっ⁉」
「水着、買いに行くに決まってるでしょ」
「は、はぁ⁉」
あまりにも急で、あまりにも意外な彼女の発言。
先ほどまで白ワンピで顔を真っ赤にしていた女子高生の言葉には思えないようなことをしれっと言って元気よく俺を連れまわそうとしている四葉はどこか逞しく見える。
————そのはずだったが、いざ試着してみると。
とてつもないほどに震える声と悶える細く白い足、そして可愛い表情に真っ赤なお顔。そのすべてを用いてこの俺を恋に落とそうとしているメスの顔をしているように見えてしまって、何とも言えない悶々とした時間が過ぎたことを口頭で言っておくとしよう。
残念だが、貴様らにはあの顔は拝ませないぞ。
<あとがき>
こんばんは、歩直です。
いやぁ、週間ランキングが30位まで陥落してしまいましたね。まあ、自分が書いてないだけですけど……。良ければ☆評価、フォローお願いします! もうすぐ☆100、そして400フォロワー! なんとか幼馴染小説でこの大海原を支配したい!
なんちって。
最後まで読んでいただきありがとうございます!!
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