第9話「幼馴染は服を見せたい?」
「——あ、これとか可愛いっ」
「そうかぁ? 俺はこっちの方がいいと思うけどなぁ……」
「はぁ? ぜんっぜん分かってないわねっ……あと、和人は荷物持ちなんだからしゃべるなし!」
「っ言ってやったのに」
「何?」
「はいはい、もう……分かったよ」
「そうそう、和人は言うことだけ聞くのよっ」
「へいへい、そうですかぁ」
「——ふふっ、えらいえらいっ」
大きくもない胸を張ってニコッと笑った四葉。うんうんと独りでに納得しているのだが俺の事を本当に奴隷か何かだと思ってそうで少し怖かった。
女の子らしく弱弱しくいてくれていたら嬉しいのだが——きっと、彼女には無縁の言葉だろう。
「——目」
「え?」
「目、何見つめてるのよ」
「別に、なんでもないけど……」
「じゃあ、見つめないでよっ」
ぼこっ。
「っ……」
弱弱しい一撃が俺の肩に当たった。彼女にしては珍しい一撃だったがその変わりように俺もいつものようにうろたえた。
少し赤くなった頬が俺には不思議で仕方がない。なんだよ、こいつ。色づくなよ。
「どれがいいかしらねぇ……」
それから十分後。
四葉はまだ洋服を漁っていた。普段からあまりお洒落をしない俺からしたら服を選ぶのに数十分も時間をかけるのは理解できなかったが女子はそれが普通らしい。
「はぁ……」
思わず漏れる溜息。
聞こえてしまったかと思ったが目の前の数々の洋服に夢中で気づいてはいないようだった。まったく、普段からこのくらい鈍感だったら怖くなくていつでも何でも言えて嬉しいのに……しかし現実はそう簡単ではない。
すると、数人。他の女性客が店の中に入って来た。
「いらっしゃいませ~~」
「こんにちは~~」
それを見るなり挨拶をする店員さん。
夏休みということもあって駅自体、今日は活気だっているようだ。楽しそうに歩くカップル、そして幸せそうな子供連れ、さらには夫婦で来ているご老人。あらゆる年齢層の人たちがニコニコと笑みを見せながら歩いている。
「あぁ、こっちもいいかも!」
そんな周りの景色に彼女も溶け込んでいた。
ニコニコと独り言をつぶやく四葉を横目に俺はお店を眺める。特に理由もないがこういうお店に入れるのは中々ない。それに、俺が男一人で女性服のお店を眺めていたら変態だと思われるし、それこそ連れがいるから逆に今こそが好機だった。
まあ、眺めても何もないし男子が好きな下着もここには置いていない。逆に、こういうお店で一人迷っていると絶対店員さんに話しかけられるのが落ちだ。そういうのが嫌いな俺からしてみれば洋服屋自体が苦手である。
お洒落な雰囲気の女性服店。それに、こういうお店には決まって美人なお姉さんがいて、話しかけてくるものだからあたふたするから余計苦手だ。
しかし。
——にこっ。
噂をすれば——的な展開。
綺麗な女性店員を見つめていると彼女は少し柔らかく微笑んだ。くそ、これもこれで可愛い。いくら営業スマイルであると分かっていてもやめられない止まらないなぁ、これは……。
「ねぇねぇ」
「っ——な、なに?」
「これ、これはどう?」
すると、女性店員に見惚れている俺に四葉はトントンとお腹を小突きながら話しかけた。
「え——いやぁ」
「いやぁ?」
手に取った真っ白なワンピースを服の上からかざして俺に見せつける。何の気なく見せてくる彼女に少し驚いたが——ここぞとばかりに反撃の好機を見つけた俺はニヤリと笑って口を開いた。
「——あれ、俺にはしゃべってほしくないんじゃなかったの?」
「——っえ、いや……」
「だってさ、ほら。さっき俺が薦めたの嫌だって言ったじゃん? それなのに今はいいのかなぁ~~って」
「べ、別に……あれはさっきで、今は今だしっ」
不意の一言に詰まる四葉。
焦っているのは確実だった。
頬が少しだけ朱色に染まって、ワンピースで顔を隠している。店員さんに負けず劣らずの破壊力抜群の可愛さだ。
さすが俺。攻めるなら今しかない。
「——俺はなぁ……いろいろアドバイスしてあげたいんだけどねぇ、だって四葉が嫌だって言うし……」
「っ——そ、そんなこと……」
ついに足をもじもじさせて、チラチラとこちらの様子を窺っている。あまりにも至福な光景に俺も笑みがこぼれたが——気づかぬうちに店員さんが隣でニコッと笑っていた。
「彼氏さん彼氏さん、彼女さんをいじめるのはよくないですよ?」
「え!?」
「へ!?」
「ほら、彼女さんの白ワンピの感想はどうでしょうか? 彼氏さん?」
微笑みながら四葉の持つ白いワンピースをぴったりと彼女に合わせるその手つきはさすが服のプロだと思ったのだが————それよりも、今なんて言った?
か、彼氏? 彼女? ま、まさかそんなわけがない。
「あ、あの彼氏じゃ——」
「あぁ、もういいからいいからっ、焦らしすぎるのも時には毒ですよ?」
「ど、どく……? え、いやだからそうじゃなくて僕たち——」
「照れてるのは分かりますが、ほら、彼女さんが可哀想ですよぉ。早く感想を言ってあげないとっ」
「え、いや——」
「感想は」
「ちがっ」
「感想はどうですか? 可愛いですよね?」
あ、圧が凄い。
別に俺たちは付き合ってないし、それに否定しないと四葉からの蹴りが————って、あれ?
一瞬、固まった頭をくるっと回して隣を見ると、なんとそこには真っ赤になって太ももをこすり合わせながら悶える四葉の姿があった。
な、なんだこれ!? なんでこんなに恥ずかしがってるの!? ていうかなんでこんなまんざらでもない顔してるんだよ‼
羞恥に塗れながらもどこか嬉しそうにそっぽを向く顔がそこには存在していて、俺の理性も飛びかける。しかし、四葉の横から綺麗な女性店員は俺に詰め寄ってきてもう一度。
「見とれてないで感想はどうですか、お客様!」
近いし顔が当たりそうだし、綺麗だしこっちもこっちでやばいぞ‼‼ そんな頭の欲望塗れた声が聞こえたが——目の前の四葉の恥ずかしそうな羞恥顔に俺の理性はどうやら負けてしまった。
「——か、かわいいと思いますっ」
「やっぱり!! 私もそうだと思いますよ、お客様!」
「っそ、そう……」
結局、その女性店員の持ちかけと凄く似合います攻撃に呆気なく負けてしまった俺たちは二人でお金を出し合ってそのワンピースを購入したのだった。頬を赤くした四葉に負けたのはこれで何度目だっただろうか? そんな疑問と白いワンピースを着た四葉を見れるかもしれないという変な期待感が俺の頭の中をぐるぐると駆け巡った。
<あとがき>
こんばんは、歩直です!
☆評価、応援コメントなどいつもありがとうございます! 良かったら☆100達成のためにもバンバン評価、レビューお願いします。もうすぐ400フォロワーですが中々早くて嬉しいです! 週間ラブコメ10位台目指して頑張ります!!
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