エピローグ

「もう!!ここに来るまでに何日かけたと思ってるのよ!!!」

「25日と8時間21分でございます、お嬢様」


 森の中で絶叫する女性メリアをお供の女性ルーンフォークが宥める。

 かつてキングスレイ鉄鋼共和国があったこの土地は、手付かずの数百年のうちにすっかり木々に覆われてしまった。


「キーッ!かの大発明家ミカリ・アウリタットの墓をようやく見つけられたのに!」


 二人が冒険の果てに見つけ出した大発明家の墓は一本のカエデの樹に飲み込まれていた。これでは墓を暴くのは難しそうだ。


「でしたら、この樹を切ればよろしいのでは?」

「そうはいかないわ。この樹はメリア、私の先輩なのよ」


 メリアがカエデの樹に触れると、カエデはまるで返事をするように真紅の花をぽとりと落とした。


「どうやらこのカエデはもうひとつの墓も飲み込んでいるようですね。嫌がらせでしょうか?」

「いや、きっと守りたかったのよ。この二つのお墓を」


 だとすれば完敗だ。

 メリアである彼女にはこの先輩の意志を無下にできない。他の冒険者に荒らされる可能性を考えれば、ギルドにも「ミカリ・アウリタットの墓は見つからなかった」と報告せざるを得ないのだ。


「まったく大したものだわ。……ねえ、カエデの花言葉って知ってる?」

「花言葉、ですか。あいにくその手の知識には疎く……」


 ルーンフォークが申し訳なさそうに頭を下げる。

 メリアはそのルーンフォークが好きだった。子供の頃は彼女と添い遂げられるものだと無邪気に信じていた。


 だからこそ、メリアにはこのカエデの想いが痛いほどわかってしまったのだ。


「カエデの花言葉はね。"大切な思い出"よ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔動機たちと幾世紀の恋 河内はろ @harururulu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ