14. わたくしのご主人様

 事件から一ヶ月後。

 正式にパーティーを組んだジルベルトとタイズはこの日、キングスフォールの東にあるルーニャ・アウリタット卿の領地内にいた。案内された建物の地下へ続く階段を下ると、非常に既視感のあるゴミだらけの研究室にたどり着いた。


マグナル(GM):「やあ!よくきたね!」

GM:現在マグナル博士はアウリタット家の監督のもと懲役刑に処されています


ジルベルト:こんなゴミだらけの牢屋があってたまるか

タイズ:普段から研究室に篭りっきりなのですからなんの罰にもなってませんね


マグナル(GM):「まだ君たちには報酬を渡していなかったからね。姫からの依頼は不達成だったけど、その分も補う形でひとり3000Gでどうかな?」


GM:マグナルは金貨が入った袋を差し出し、「せっかくだから飲んでくかい?」とお酒も差し出します


タイズ:「懲役ってなんでしたっけ」と思わず声に出します


マグナル(GM):「ははは、ボクはこの国になくてはならない天才だぜ?姫もボクを制御するのは諦めて、せめてボクを目の届く場所に置いたってわけさ」

マグナル(GM):酒をグイッと煽り「ほんと、姫はツンデレだよね」と笑います


タイズ:「どうしましょうジルベルト様。またマグナル様絡みの事件に巻き込まれる気がします」

ジルベルト:「奇遇だなタイズ。私もそんな気がしている」


GM:二人が頭を抱えていると、階段を下りてミカリがやってきます


タイズ:「ミカリ様。その後お怪我は大丈夫ですか?」


ミカリ(GM):「わあ!お久しぶりです!私はもうすっかり元気ですよ」


タイズ:「それは何よりでございます。安心しました」


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 それから4人は楽しく談笑した。

 さすがにミカリはお酒を控えていたが、マグナルは次々と酒瓶を空にしていく。


 ミカリはルーニャ卿に引き取られたものの、日中はマグナルの助手としてこの地下研究室に来ているようだ。ミカリはルーニャ卿のことを『お母様』と呼んでいた。

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タイズ:「それでマグナル様。あれからバスラとスクルータはどうなったのでしょう?」


マグナル(GM):「さすがに修復はできなくてね。変身ユニットだけは回収してそこの壁にかけてあるけど……」


GM:マグナルが指差した先には見覚えのある変身ユニットが二つ置いてあります


タイズ:「そうですか。少し残念に思います」


 そのセリフを聞いたマグナルは興味深そうにじろじろとタイズを見回す。そしてタイズとジルベルトを交互に見つめ「なるほどね」と呟いた。


マグナル(GM):「ジルベルト君。君のパートナーは寿命の短いルーンフォークだ。だから精一杯大事にしてあげなきゃいけないぜ」


ジルベルト:「それは無論だが……いまの『なるほど』とはなんのことだ?」


マグナル(GM):「いや、敵の魔動機であるバスラとスクルータが復活しないことを"残念"だと思う、その感性が面白いと思ったのさ」


タイズ:「そうでしょうか?」と首を傾げます


マグナル(GM):「そうだとも。確か君はあのレール上での戦いで変身ユニットを起動したね?それはなぜ?」


タイズ:「それは……バスラの姿が出現すればスクルータが撃つのを躊躇うと思ったからです」


 マグナルはケラケラと愉快そうに笑う。


マグナル(GM):「そこだよタイズ君。普通はそんな発想をしない。だって相手は魔動機だぜ?」

マグナル(GM):「でも君は魔動機であるバスラとスクルータに愛が宿っていると確信していた。だからこそいまも二人が復活しないのを残念に思っている」


タイズ:黙って聞いています


マグナル(GM):「いいかい?ボクたちルーンフォークは結局のところ魔動機だ。しかしボクも君も、魔動機であるこの身体に愛が宿ることを知っている」



マグナル(GM):「つまり君は、もう愛を知っているんだ」



--

 ルーニャ・アウリタット卿領地からの帰り。

 ジルベルトとタイズは買い物を終え、一緒に住む家へと向かっていた。一ヶ月前の事件が嘘のように街は元どおりに戻っている。


『君のパートナーは寿命の短いルーンフォークだ。だから精一杯大事にしてあげなきゃいけないぜ』

 マグナルに言われたその言葉を、ジルベルトは何度も反芻する。

--


ジルベルト:「なあタイズ。タイズは色んな場所を旅しているって言ってたけど、この街にはいつまでいるつもりなんだ?」


タイズ:「いつまで……ですか。わたくしは亡くなったご主人様に『世界を旅して新たな使命を見つけろ』と命じられました」


ジルベルト:「ああ、確かそういう話だったな」


タイズ:「そしてつい先ほど、新たな使命を見つけたのですが、わたくしひとりではその使命を達成できないのです」


ジルベルト:「なに!?それは良いことだ。私に手伝えることはないか?」


タイズは足を止め、ジルベルトの目を真っ直ぐに見つめる。グロッソ港の彼方へ沈む夕陽が二人を赤く照らした。


タイズ:「ジルベルト様。わたくしのご主人様になってくれませんか?」


ジルベルト:「んん!?私が、タイズの主人だと?」


タイズ:「そうです。わたくしは今後、ジルベルト様にお仕えしたく存じます。それがわたくしが見つけた新たな使命なのです」


ジルベルト:「そ、そうか。無論私は嬉しいのだが、本当に私なんかでいいのか?」


タイズ:「もちろんでございます。ジルベルト様にとっては短い期間ではありますが、一生よろしくお願いいたします」


 タイズがぺこりと頭を下げる。ジルベルトはその姿をとても可愛らしいと思った。

 だからこそマグナルの言葉が頭をよぎる。『君のパートナーは寿命の短いルーンフォークだ』という言葉が。


ジルベルト:「短くなんかない。タイズも見たではないか。あの魔動機たちが500年も想い合っていたのを」

ジルベルト:「だからタイズにもあと500年は生きてもらおうかな!」


タイズ:「それはまた、ずいぶん難しい使命でございますね」と言ってクスッと笑います

タイズ:「しかしジルベルト様のご命令とあれば、全力で遂行してみせましょう」


ジルベルト:「よーし!そうとなれば魔動機文明時代の遺跡とか調査してみるか!」


タイズ:「それは良い案でございます。装備も新しくしなければなりませんね」


ジルベルト:「だがまずは腹ごしらえだ。家に帰って、ご飯を食べ、それから今後の作戦を考えようではないか!」


 ジルベルトは槍をブンブンと空へ振りながら大股で家路を急ぐ。

 もちろん、タイズはそれが空元気であることを知っている。エルフの時間とルーンフォークの時間には10倍の開きがある。いつか必ず別れがくるし、もしかしたらいつか自分は忘れられるかもしれない。


 それでも、とタイズは思う。

 それでも、たとえ永遠ではなくとも、自分たちには自分たちの正解があるはずなのだ。あの二組のカップルがそう示したように。


 だからこそタイズは精一杯の笑顔でジルベルトのもとへ駆け寄った。


「かしこまりました、ご主人様!」

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