第19話 無力


「フード野郎……?」


「だ、誰だお前は!」


 突如として目の前に降ってきたフード野郎に対して戦闘中の俺たちも一旦手を止めて反応せざるを得なかった。


「ふふっ、誰だと聞くのならばまずは自分から名乗らないとね。ま、君が誰なのかは当然知っているけどさ」


 そのフード野郎は森であった時と同じく飄々とした態度だった。しかし、その時とは打って変わってどこか禍々しいオーラが放たれているようだった。コイツには何かある、そう思わせるオーラが。


「君たちには少しついてきてもらわないといけないんだ」


「なにっ、どういうことだ!」


 メルセデスが食ってかかる。だが、フード野郎はどこ吹く風でしまいにはメルセデスの手足を何らかの魔法で縛りあげてしまった。


「つ、強い……」


 俺の口から出たものはその一言だった。俺が苦戦していたメルセデスに対して一方的に立ち振る舞える強さ、があまりに衝撃的だった。


 今の俺じゃ太刀打ちすらできないそれほどのレベル差だ。何も出来ない、何もさせてもらえない、まるで俺が賢者の森で手足をもがれた時のような感覚だ。圧倒的無力感、自分は弱者なのだと痛感させられる。


 予選で出会った時は今の十分の一も力を出していなかったのだろう。そして今も本気を出していない。


「君はー縛らなくても分かるよね?」


 フード野郎にこちらを向かれそう言われ、俺は頷くことすらできずに固まってしまった。


「俺たちをどうするつもりなんだ?」


 俺の精一杯の反抗のつもりで放った言葉はただの疑問文だった。力がなければ反抗することすらできない。これは俺が身をもって知っていたことのはずだ。


 それなのに俺はまたこうして無力が故に自分の意志を示すことができないのか。俺が魔法士だと言われた時も、賢者の森で何者かに襲われた時も、俺はただただ無力だ。


 強くなろうとしていたはずなのに、いつも結果は変わらない。今もこうして負けるのだ。


「そうだね、でも僕の勝手でしょ? まあ嫌だったら従わなくてもいいけどね?」


 そういう言葉の裏側には従わなければ殺す、という言葉が隠れているようだった。


「ではこの場にいる皆さん、この子たちは僕が貰って行きますね! では」


 その言葉が聞こえると同時に俺の意識は飛ばされた。


 ❇︎


「うぅ……」


 目を開けるとそこは薄暗い洞窟? のような場所だった。


「こ、ここは?」


 横には未だに意識を失っているメルセデスもいた。どうやら俺たちはどこかに誘拐されてしまったようだ。


 だが誘拐とは言ってもメルセデスならまだしもウルス家を追放された俺には何の価値もない。一体これは何が目的なんだ?


「お、やっと目が覚めたかいモネくん」


「うわぁあ!」


 後ろには先程のフード野郎がいた。だがさっきとは打って変わって穏やかなオーラを放っている。この人は一体何者なんだ?


「メルセデスくんが起きる前に君だけに説明しておくね。君はここから生きて脱出しないといけないよ。もしちゃんと脱出することができたらそのまま逃してあげる。ただ、生きて出られなかったら君の大切な人、それこそヴィットくんやお父さん、お母さんが酷い目に遭っちゃうかもね」


「なにっ!?」


「ふふっ、君が安全に出られたら僕は何もしないよ。ただ、出られなかった時の話だ。分かったかい、じゃあ僕はこれで」


「あっ」


 フード野郎は空気に溶けるように消えていった。もしかしたら最初から幻影だったのかもしれない。ただ、その内容は冗談では済まされない話だった。


 ここから生きて脱出しないといけないということは少なくともここは危険だということだ。それに関してはメルセデスがいてくれて助かるかもしれない。協力してくれればの話だが。


 それにしてもフード野郎は予選では俺を助けてくれるような発言をしたくせに、俺をこんな目に合わせてきた。行動の一貫性がまるで感じられない。俺に酷い目を合わせたいならさっきの話も大切な人を酷い目に合わせる、だけでよかったはずだ。


 それに俺を殺す機会なんて山ほどあっただろうし、これじゃあまるで


「ん、うっ……ここは?」


 どうやらメルセデスも起きたようだ。ここからは二人協力して脱出に向けて動き始めなければならないだろう。


「あっ、あの気味の悪いフード野郎は!?」


「もうここにはいない。そしてそいつは俺らに向かってこう言った。生きて脱出しろ、ってな。どうやら俺らは試されているみたいだ」


「ほう、この俺様を試すとはいい度胸だな。それでここはどこなんだ? こんな場所来た所か見たことすらないんだが」


「知らない、それも含めての脱出ってことなんだろうな」


「ふん、そうかじゃあ俺は先に行くよ。偽物も脱出できるといいな、じゃ」


「あ、おい!」


 そう言って一人メルセデスは走り出してしまった。おいおい、こんな状況でも一人で行くってどれだけの自信だよ。普通協力するだろ。


 でもまあ確かに実力で言ったらアイツの方が上だろうから俺がいても足手まといなのかもしれない。


 一人で行くことが確定した今俺もウジウジ言ってられない。気合いを入れて、俺は一歩前へと足を進めた。


 そして少し進むと、


「マナスライム!?」


 そこにはモンスターがいた。











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ここまでお読みいただきありがとうございます!

これにて第一章が終了します。第二章以降に関しては要望があれば執筆しようと思っておりますが今のところは未定です。ですので一先ずは完結という形を取らせてもらいます。

今後はもっと成長してより面白い作品を皆様に届けられるよう精進してまいりますのでこれからも応援していただければ幸いです!


重ね重ね最後まで読んでくださりありがとうございましたm(_ _)m

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良家追放〜最強剣士を目指す少年は魔法士の祝福を与えられる〜 magnet @magnetn

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