第18話 兄の声


「おやおや、やはり偽物は地に這いつくばっている様が良く似合うな。そのまま地べたから自分の無能さを痛感しながら死ね」


 くっ! くそ、言い返そうにも体が言うことを聞かない、口が開かない。麻痺さえなければ、麻痺さえなければっ!


 俺がせめてもの抵抗でカチ上げるように睨みつけると、ソイツは面白そうに笑った。


「ククククッ、どうせ麻痺さえ無ければ、などと二流の言い訳でも考えているのだろう? その低俗な考えが手にとるように分かるぞ、お前は麻痺になったから負けるんじゃない、弱いから負けるんだよ!」


 俺は必死に立ち上がろうとするも、地に手をつくことすらできない。


 俺は、俺はどこまでも無力なんだ。そうだ、麻痺がなければ、じゃない、弱いから麻痺になったんだ、弱いからこんな奴に負けるんだ、弱いから俺は血に伏せるしか無いんだ。


 俺は、偽物、だ。才能のカケラもない。そして今までの努力は全部無駄だったんだ。偽物が、無能が、いくら努力したって無意味なんだ。


「そう、お前はムシ程度の価値もない、正真正銘、無価値人間だ。これから無駄な希望を抱いて、無駄な足掻きを続けるよりも、ここでスッキリ終わったほうが良いだろう? だから俺が終わらせてやるよ、この手でなぁ! せいぜい俺にあの世で感謝しろよな? 逝かせてくれてありがとうございますってな!」


 頭の上で何かが光った気がした。目を向けるとそこには物凄いエネルギーが、力が、オーラが放たれていた。


「これ、が、本物……」


「クハハハハ! そうだ、正にこれこそが、真の力! 持たざる者には到底手にする事のできねぇものだ! 偽物風情が俺様に叶うわけがないんだよ!」


 あぁ、これが終わり、これが力の差。


 コイツは強い、そして俺は弱い、ただそれだけ。コイツは本物、俺は偽物、ただそれだけのこと。俺に勝てる道理はない。俺は地に伏す定めなんだ。


 どうせ生きてても、無駄な努力を続けるくらいなら、いっそのこと、、、


「くらえ! 雷鳴魔法、ドラゴニングサンダー!!」


 視界が真っ白に染まった。俺は死ぬ、そう感じた時だった。


 ギンッ


 がそれを弾いた。


「なっ!? い、一体何がっ!?」


 それは俺のセリフだ。俺は今完全に死ぬはずだったんだ。全てを諦め、死を受け入れた、そんな俺が何故、こうして生きているんだ?


 俺は、俺はもう、立てない。


「立て、立つんだモネ!」


 誰かが俺の名前を呼んでいる。でもダメだ俺はもう死んだ、死人なんだ、俺はもう立てない。


「モネ! お前は俺の弟弟子だろ! こんな所で負けたら許さねぇからな!」


 弟、弟子……? 俺の兄弟子?


 ……ヴィ、ット?


 そうだ、これは多分ヴィットが、ヴィットが俺を守ってくれたんだ。


 ヴィットが俺に立てって言ってる。俺のことを認めてくれてる。


 こんな俺が立ってもいいの、か? 偽物の俺なんかが生きてもいいのか?


 いや、だからこそ俺は立たないといけないんだ。こんな俺だから、偽物だからこそ、強くならなくちゃいけないんだ。


 俺にはヴィットが爺さんが、父さんがいる。今この場にはいなくても俺の中に、皆んなとの時間が確かに存在する。俺が頑張った時間は、皆と強くなろうとしたその時間は、その時だけは本物なんだ!


 回せ回せ回せ、血を、肉を、思考を、魔力を、全てを使ってこの状況を打破しろ、助けられたこの命を無駄にするな、どうせ死ぬなら一滴たりとも余すことなく燃やせ、燃やし尽くせ、半端者に価値はない。


 偽物だって、いつかは本物になる。


 俺だって、最強になれるんだ。


「うぉおおおおおおおおおお」


 俺は地面に手をつき、立ち上がろうとした、全身に重しをつけているような感覚だが、無理やり体を起こす。壊れたって良い、今全力を振り絞るんだ。


「な、な、何をしている! そ、そんなことをしたって無駄だ、無駄なんだぞ! 偽物が何をしたって、無駄なんだよ!」


「俺は、確かに偽物かもしれない。だけど、偽物だって。強くはなれるんだよ。そうだよな、ヴィット!」


 俺は今もきっとどこかで俺のことを見ているであろう兄弟子にそう言った。


「ヴィ、ヴィット?」 


 完全に直立することができた俺は、全身に魔力を駆け巡らせた。今なら分かる、魔力の扱い方を。どうすれば最高速度で動かせるかが、勝手に理解できる。


 全てのリミッターを外し、本当の全力を開放する。筋肉を膨張させ、神経を尖らせ、思考を加速させる。


 今はとっても気分が良い。


 偽物も案外、悪くないんだな。


 俺は拳を握り、地面を蹴った。その時にはもう、麻痺なんて俺の体には存在しなかった。


「ひっ」


 そして、目の前の敵は悲鳴を上げて崩れ落ちた。


 俺の拳には血がついていた。だが勝負はまだ終わっていなかった。


「くっ、偽物とは言え、ここまでやる偽物もいるとはな……!」


 俺の拳は確かに血に濡れた。だが、その血は相手の半分、自分の半分だった。


「だが、これで勝てると思ったのか? 確かに偽物にしては良くやる方かもしれねーが、本物には敵わない。格が違うんだよ!」


 目の前の敵が立ち上がった。そして、先程とは段違いのオーラが放たれた。


「くっ……!?」


「ふっ、まさか偽物にコレを使うことになるとは思ってなかったが、いいだろう。私の真の力、見せてやろう!」


 そして放たれたオーラが更に強く、禍々しいものに変貌した。


 その時に俺は痛感した、いや痛感させられた。コイツはであることを。


 ッダーン!!


 その時、何者かが二人の間に落ちてきた。


「ふふっ、そこまでだよ、二人とも君たちには死んでもらっちゃ困る」


 落ちてきたのは人間で、しかも俺には見覚えのある人物だった。そう、ソイツは俺が予選の時に出会ったフード野郎だったのだ。

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