第15話 ゾーン
「なに!? いつの間、に……」
俺は背後から短剣のようなもので刺された。なんとか急所は避けたものの、血がドバドバと溢れており、意識も朦朧とし始めた。
「ふっ、どうやって、って思うか? これが俺の力だよ。五帝家、五帝家って五帝家だけがスゲーみたいな面してるけどよー俺だってお前らに負けちゃいねーんだよ!」
背後からそんなことを言われた。殆ど何を言っているか分からなかったが、激しい憎悪と何となく意味が分かってしまった。
「俺はもう五帝家の人間じゃ、ない、ぞ?」
「知るか、んなもん! お前も五帝家だった時は威張り散らかしてただろーが! それな今は追放されたからって許すわけねーだろ!」
コイツは俺の過去を見たことがあるのだろう。そして、五帝家に何かトラウマになるような酷いことをされたのかもしれない。だが、
「五帝家、は、お前がっ、思ってるより、強い、ぞ」
俺は途切れ途切れになってしまったが何とか言葉を発した。
そして、魔力を全開にした。
そこからは殆ど無意識だった。
体中を猛スピードで魔力を循環させ、身体機能を上げ、そして刺された傷口も魔力で蓋をすることで出血を防いだ。
この一連の流れを俺は淀みなく、一瞬で行った。やり方なんかは知らないはずなのに無意識に体がそうしたのだ。そうすべきだと感じて。
そしてそんな体とは相反して頭は凄く冷静に回転していた。
敵を観察し、状況を整理する。相手の種が分からないから迂闊に攻撃できないが、俺の傷口は応急処置をしただけだから速く決着をつける必要がある。
俺は跳んだ。
爺さんの教えに、答えが分からなくなった時には視点を変えるのが良い、それも物理的に、ってのがある。
俺はそれを実践した。結構高く跳んだため体にものすごい負荷がかかり、血を吐いてしまったが関係ない。
「なるほど」
俺は理解した。着地をすると、更に体が悲鳴を上げるがそれに耳を傾けない。
俺は手から魔力を塊として発射させた。そんなこと教わったことすらなかったが、なんとなくできる気がして、無意識にしていた。
そしてその魔力の塊は相手に直撃した。
「ぐはっ!」
この敵は体術に優れているのだろう。跳ぶと、地面にものすごい跡が残っていた。つまり、短剣を投擲して気を逸らせた隙に、俺の頭上を飛び越えて背後をとったのだ。
一見神業のようにすら思えるがこれが、この者の修練の賜物なのだろう。
「お前だけが、努力しているわけじゃ、ない。五帝家は、皆努力してる。努力を積み重ねた上で、お前より強いんだ」
「うるせー! んなこと知ってんだよ! 今跳んだことで俺のカラクリを見抜いた気になってるかもだけどよぉ、お前じゃ俺にかてねー。手負いのお前が俺に追いつける訳もないからな!」
確かにそうかもしれない。だが、俺も同じように負ける気がしない。いつになく魔力操作の調子が良いのだ。
「死ねぇええーーー!!!」
速い。敵が一直線にこちらに襲いかかってきた。しかし、こちらも魔力を循環させたことによって動体視力がかなり向上している。今なら視える!
相手の短剣による突きを剣の腹で受け流し、すれ違いざまに魔力塊を放つ。
「ぐはっ!」
そして、動きが止まった所を、
ザシュ
剣でトドメを刺した。
「はぁ、はぁ、はぁ」
結構ギリギリだったな。もう、自分の中に魔力が殆ど残っていないのも感じられる。まさに死闘だった。
ただ、死に直面したからこそ魔力の扱いが更に上達したような気がする。今回ばかりは魔法士の祝福を持っていて良かったかもしれない。
「よっ、お疲れ。結構危なかったんじゃねーの? まぁ、勝手良かったな!」
試合会場から出ると今度もヴィットが待っていてくれた。こう言う所は柄になく丁寧というか、ヴィットの良い所だ。
「おう、サンキューな。本当に死ぬかと思ったぜ。でも、そのおかげで魔法に関して理解が深まった気もする。今は自分のできることを試したい気分だ」
「あぁ、試合中のあれか? 確かにモネらしくはねーなと思ったが悪くなかったな。それと、次もすぐ来るからちゃんと休んどけよ? あと、俺があのメルセデスって奴をぶっ飛ばすからそれも見とけよ!」
「おう、当たり前だ!」
こうして俺は無事、武闘大会決勝トーナメント第二回戦を勝ち抜いたのであった。
❇︎
「ふぅ……」
俺は緊張していた。次は決勝トーナメントの二回戦だ。相手は五帝家が一つのメルセデス家の奴だ。
さっきモネに絡んできた気色の悪い奴だが、俺は確かに感じた。圧倒的強者のオーラを。
たまにスラムにもいた、絶対に敵わない、そう思わせるような強者。それと同じ香りがしたのだ。
ただ、俺もただで負けるつもりはねぇ。というか勝つんだ。モネにも絶対に勝つって言ったしな。兄弟子としてみっともねー姿は見せらんねー。
モネが男を見せたんだ。俺も男を見せなきゃ男が廃るってもんだろ。
「おやおや、さっきのコソ泥じゃないか! 良かったな、勝てて。蛮族も蛮族なりにそこそこはやるってことか?」
俺が会場に入ると先にいたソイツに話しかけられた。
「ただまあ、私の前ではどんな力も無意味。自分の力の無さを痛感することになるだろう。蛮族には勝利は似合わない」
俺は相手の言葉を無視して集中力を研ぎ澄ます。ここで反応しちゃ負けだ。
「ふん、面白くないさっさと始めよう」
そして、実況の声と審判の声が聞こえた。
その瞬間、俺は真っ白な世界に包まれた。
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