第12話 初戦


「ヴィ、ヴィット!」


「んお? モネじゃねーか、ビックリさせやがって! それにしても随分遅かったな」


 俺は先程まで森の中でオーガから全力逃亡さてたはずなんだが、気づけば開会式を行った会場に出ていた。


 開会式を行なったのがついさっきの事のようなのに変な気分だ。


「遅かった? ヴィットはもっと前にここに来てたのか?」


「あぁ、結構前にな。多分だが、この予選は上位四名とかいいながら残り四人になるまで終わらないシステムだったんじゃねーのか? 俺は結構人間を倒しまくってたし、他の残ってる奴も倒しまくってたから早く終わったんだろうな」


 確かに、それならグループ毎に終わる時間が違うのも頷けるな。だが、


「ヴィットのとこはモンスターは倒さなかったのか? 俺はモンスターばかり倒していたんだが……」


「いや、モンスターを倒してもそんなに良い点数もらえなかっただろ? それに他の奴も同じモンスターを倒したら差がでねーから合理的に考えて人を倒すのが良いんだよ」


「む、そう言われるとそうだな」


 ヴィットは俺と違ってもっとシビアな世界で生きてたからやらなければ自分がやられるということをよく理解していたのだろう。


 俺もまだまだ覚悟が足りてなかったんだな。つくづく自分の甘さを感じさせられるぜ。


「なあ、それより早く帰ろうぜ。決勝トーナメントは明日かららしいぜ、モネを待ってたから随分と時間が掛かっちまったぜ」


「あぁ、済まないな」


 俺は自分の課題がどんどんと浮き彫りになっていくのを感じながら帰路についた。


 ❇︎


「さぁ、始まりました、武闘大会決勝トーナメント! 今年も粒揃いの戦士達が集まりました! さぁさぁ皆さん賭ける準備は大丈夫ですか? それでは行きましょう戦士達の入場です!」


「「うぉおおおおおお!!」」


 喧々たる様子で実況者の声が聞こえた。俺たちは一列に整列して今から会場に入っていくところだった。


 会場は開会式が行われたところでまさかこれほどまでのギャラリーが埋まる会場だとは思わなかった。


 それにしても熱気が凄いな。ここまで注目度の高いものだとは思っていなかった。それに、自分が賭け事の対象になるなんて変な気分だ。


 俺とヴィットはフードを被り極力人の目に留まらないようにしている。それでも多くの視線を感じるあたり、相当凄い大会なのだろう。


「へっ、賭けなんてつまんねーよな。そんなことに俺らを使いやがって全く胸糞わりーぜ」


 ヴィットは賭けの対象にされているのが少し不満のようだ。まあ、ヴィットらしいと言えばヴィットらしいな。


「さて、ここで戦士の皆さんにはくじを引いて貰います! これで勝敗が決まるといっても過言じゃ無い運命の籤、さて正面の方から引いてもらいましょう!」


 お、俺か……Aグループだからだろうな。どんな相手が来ても勝つだけだ、だから普通に引く。


「さぁ、引きました、その番号は……?」


 ❇︎


「おぉ、おぉ、おぉ、おぉ! まさか俺様の相手が元ウルス家のエリート、モネ・ウルスとはなぁ! フードを被っていたから全く気付かなかったぜ? それによぅ、苗字まで捨てて家出した気分か、おい。なぁ、もうお前は終わりなんだよ!」


 俺は籤の結果、決勝トーナメント初戦に当たった。そしてその敵がなんと五帝家の一つ拳氏の者だった。


 生憎、俺はコイツのことを全く知らないのだが、向こうは俺のことを知っていたようだ。直接会った訳ではないと思うのだが、やはり祝福のことで街中に知れ渡ってしまったようだ。


「おい、なんとか言えよ! お前はもう終わったんだよ、ウルス家のくせに魔法士の祝福が与えられてよぉ。まさか、身分を隠してまでこの武闘大会に出てくるとは思っていなかったが、まだ諦めきれなかったんだな。安心しろ、今日ここでお前の鼻をしっかり折ってやるからヨォ!」


『さて、選手が揃いました! 東側、五帝家が一つカイエン家のエリート、拳闘士ルーベンス! 対して西側はフードを被った謎の戦士、モネ! この名前には良くない噂を耳にしますが、その真実は一体!? 初戦から見逃せない試合となっております!』


 む、もしかしてバレているのだろうか。というよりも俺の名前がそんなにも広がってしまっているのか。不味いな、ウルス家に泥がつくならまだしも、ご両親に恥は欠かせられない。ますます負けられないな。


「では、両者構えて」


 審判の方が合図した。大丈夫、模擬戦は何度も行っている。素振りは実戦のように、実戦は素振りのように、だ。


「始めっ!」


「オラァああああ!」


 相手が一直線に突っ込んで来た。相手は拳闘士、つまり相手の間合いに入らせなければこちらが一方的に有利を取れる。


 俺は腰を低く落とし、居合斬りの構えをとった。タイミングを見計らい、確実に当てる。


「ここだっ!」


 完璧なタイミングで剣を抜いた。俺はそう思っていた。だが、剣は空を切った。


「ハハッ! 剣が遅すぎるぜっ、魔法士のくせに剣なんか振ってるからだ、ろっ!」


「ぐはっ!」


 敵はいつの間に俺の懐に潜り込み、俺の鳩尾へとパンチを決められた。


「やっぱ、剣士じゃないお前は雑魚いな。言っとくけどただのパンチじゃねーぞ? カイエン家に伝わる技だ、お前は立つことすらできねーだろうよ。もう一発殴られる前に降参したらどうだ?」


「何っ!?」


 力が、入らない……


「おいおい、無理すんなよ。お前も五帝家なら……ってもう違ったか。とにかく仮初の剣士に受け切れるほど俺のパンチはやわじゃねー、さっさと諦めな。次はお前の顔面に行くぞ?」


「黙、れ。俺は、剣、、士だ」


 俺はなんとか剣を支えに立ち上がった。まだまだ、勝負は始まったばかりだ。

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