第10話 夜の襲来


 この予選が始まってどのくらいの時間が経過しただろうか。太陽も見えないため時間感覚がおかしくなってきた。


 現在の俺の手持ちポイントは二百二十だ。フード野郎とまた会った後も変わらずモンスターを借り続けた結果だな。だが、まだあれから一度もオークには出会っていない。最初のは結構運が良かっただけなのだろうか。


 ガサガサッ


 今度はどのモンスターだろうか、オークだといいな。そんなことを考えながら音のした方に注意を向けていると、そこに現れたのはなんと人間だった。


「お、ラッキー人間じゃん、人間殺すとポイントがうめーんだよな。へへっ、安心しな痛くはしねーからよっ!」


 その敵は俺と目が合った瞬間に襲いかかってきた。コイツも人を倒してポイントを稼いでいる口か。俺は今までモンスターでしかポイントを稼いでいない。それは俺に対して敵意を向けてない人間をこの手にかけていいものかという気持ちからだった。


 だが、ここまであからさまに敵意剥き出しで来られると逆にこちらもやりやすいというものだな。やらなければやられる、ならばやるしか無いだろう。


 相手が迫ってきているが、焦らず腰を落としタイミングを見計らう。相手が俺を攻撃しようとする瞬間、その攻撃よりも少し早く相手の体を斬る。


「居合斬り」


 バシュッ


「ふぅ」


 基本的な技ではあるものの、だからこそ実戦で一番使用する技だと思っている。それにしてもそんなに一直線に攻撃してくるなんて、カウンターを決めてくださいと言わんばかりだったな。


 まあ、良い。それよりもポイントを確認しよう。コイツが今までどれくらいのポイントを溜め込んでいたかだが……


「五百八十二!?」


 俺がコイツを倒す前までのポイントが二百二十だから、コイツは三百六十二ポイントも持ってたってことか? つまり俺よりも百以上多く獲得していたってことだ。


 これは本格的にモンスターを倒しまくらないとまずいかもしれないな。なんせ、今の敵のレベルで三百以上ってことはもっと強い奴はその倍以上獲得していてもおかしくない。そして、その強者たちは今もポイントを稼いでいるはずだ。俺もぐずぐずしていられない。


 千ポイントを目標に、モンスターが視界に入った瞬間倒すくらいの勢いでやるしかない。それに他に人を見つけても躊躇している暇はないようだな。さっきの奴を真似するわけではないが問答無用で倒しに行った方が良いだろう。


 急がないと。この予選がいつ終わるかは知らされていないのだから。


 ❇︎


 その後も俺は一心不乱にモンスターを倒し続けた。ポイントも碌に確認せず、只管生体反応を確認しては剣で斬る、という作業を繰り返していた。


 そして、時間感覚が狂う森の中でも、次第に日が暮れて夜が来た。それでもまだ終了の合図らしきものはなかった。


 もしかしてこの予選は夜通し行われるのだろうか。耐久力は忍耐力を測るために夜通し行われても全然不思議ではない。


 眠気が襲って来始め、集中力も切れ始める。そんな中いかに自分を保ってポイントを稼ぎ続けられるかが試されているのだろう。


 だが、俺はヴィットと毎日毎日模擬戦をして来たのだ。ここにいるどのモンスターよりも圧倒的に強いヴィットと、だ。


 だからたかが夜に戦闘をするくらいどうってことない。まだまだ俺は戦えるぞ。


 そう意気込んだ時だった。


 ガサガサガサガサッ


 今までのとは明らかに違う、異質な音が耳に届いた。その方向を振り返るとそこには……


 トカゲの大群がいた。


 何故群れを成しているのかは分からないが、全員が目を光らせこちらを見つめている。正直、君の悪い光景だ。


 しかも、トカゲとは昼には出会っていないため、もしかしたら昼と夜とでは出現するモンスターも異なるのかもしれない。


 だが、やることは変わらない。俺に与えられた選択肢は目の前の敵を斬る、ただそれだけだ。


「居合斬り!」


 剣を抜いた俺は無我夢中で剣を振るっていた。袈裟斬り、斬り上げ、斬り下がり、一文斬り、ありとあらゆる斬り方でトカゲたちの攻撃を捌いていたのだが、コイツら数があまりにも多い、多すぎる。


 それに、一撃で致命傷を与えなければすぐに手足や尻尾を再生してまた攻撃してくる。斬っても斬っても後から後からやってくる。地獄のような時間だ。


 くそ、夜になるとモンスターがさらに強くなるとはな、なかなかいい性格をしているようだ、ここの運営は。


 だが俺はまだ諦めていない。精神を研ぎ澄まして目の前の敵に対して条件反射で斬りつけていく。だが、


 カプッ


「っ……!」


 俺は右足首を噛まれた。クソ、流石に斬り漏らしがあったか。だが、ここで手を緩めれば相手の思う壺だ。常に後ろに交代しながら相手する敵の数を一方向に絞る。


 そして、今まあであえて使っていなかったのだが、ここで使うしかないようだな。


 俺は魔力を体の中でかき混ぜるように循環させる。そして、目、腕、脚、に集中させた。目に魔力を集めることで動体視力を、腕と脚は単純にスピードの強化だ。


 これによって動きが段違いに軽くなる。


 ここからだトカゲ達、今からは一匹たりとも生きては返さないぞ。

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