第9話 予選と不気味な影
俺が連れられた場所はなんと、森の中だった。とは言っても賢者の森のような自生の植物たちではなく、どこか人工的な場所だった。
ここには転移させられて入ったため近くに人影は見当たらない。開会式にいた人数の四分の一がここにいるということになるから、少なくとも五十人、いや百人はいると思って良さそうだ。
その中で上位四名になるには持ち点である十点からどれだけ増やさなければならないのだろうか……
ガササッ
今、確実に気配が、物音がした。俺は臨戦態勢に入り、周囲を警戒した。すると、その物音はまるで隠す気すらないような足取りで此方へと向かってきた。そして、現れたのは……
「お、オーク!?」
敵の選択肢として人間しか候補になかった俺はとても驚いた。だが、確かにモンスターが出ないとも言われていない。ならば、話は早い。それに、俺は賢者の森で散々オークは倒している。
ザシュッ
ふっ、やはりオークなどは造作もないな。点数を確認するとそこには六十との表記がなされていた。オーク一体で六十点、これが高いのか低いのか……
だが一つ言えるのは持ち点十点だけでは話にならないということだ。オークがモンスターの中でどのくらいの順位を占めているにせよ、ここで五十点ももらえるのなら、上位四名は確実に三百点以上を超えてくるだろう。
これに気づけたのは僥倖だ。いますぐモンスターを狩らねば、間に合わなくなる。この予選で倒さないといけない敵は人間ではなくモンスターなのだ。
俺が決意を新たに自ら狩りに赴こうとした時、不意に後ろから視線を感じた。振り向くと、木の上にフードを被った人間が座っていた。
「なっ!?」
「ふふ、そう驚かなくてもいいじゃん、ボクはずっと君のことを見てたんだから。それより、貴重な情報を教えてくれてありがとうね、モンスターを倒した方がどうも効率は良さそうだ。それにしても君強いね、まだ剣を使ってるとは思ってなかったよ。君と今ここで戦うのは効率が悪そうだから決勝で待ってるよ、元ウルス家のモネ君」
そう言ってその者は姿を消してしまった。
アイツは俺の素性を知っていて、尚且つ俺に気づかずにずっと俺の行動を見ていた。一体、何者なんだ? ヴィットが開会式の時に言ってたのがさっきの奴だったのか?
感覚的に俺よりも強そうな、少なくとも同等以上の雰囲気が感じられた。かなりの要注意人物だろう。
しかし、そんな敵と戦うのは俺としても避けたいところだし、今更追うにも追えない。ならば、モンスターを倒すしかないだろう。
俺は自分のやるべきことを再確認し、不気味なあの人間の像を振り払い、歩みを進めた。
❇︎
その後は何事もなくただただモンスターを狩るだけであった。蛇や蠍、蜂や梟など様々な魔物が存在しており、躊躇いもなく倒していった。しかし、どのモンスターもオークよりは点数が低かった。
流石にオークが最高得点とは考えられないから、おそらく超当たりのモンスターがいるのだろう。そしてその敵を倒すと貰えるポイントが百点くらいのはずだ。それを見つければ確実に予選は突破できるだろう。
早くその当たりに出会えるといいが……
そんなことを考えながら、進んでいると前方に人が見えた。もちろん先程のフード野郎ではない全くの別人だ。その人は今現在、蛇と交戦中だ。少し苦戦しているように見えるのだが、これはどうするのが正解なのだろうか。
はっ、俺は悪魔的な考えを閃いてしまった。それは、先に人間の方を処理し、その後に蛇を相手取る、というものだ。そうすればモンスターのポイントも人間のポイントも入るはずだ。
だが、それは剣士道として良いものなのだろうか。人として剣士として、ここは救うべきなのではなかろうか。俺だって、ヴィットに爺さんに助けられたからこそ今こうして生きている。なら……
いや、ここは予選だ、武闘大会だ。本当の生死がかかっているわけでもない。それにあの人は俺の敵なんだ。あの人がポイントを稼いでしまうと自分のトーナメント進出が阻まれるかもしれない。なら、俺がすべき行動はあの人倒してモンスターも倒すことだ。でも……
ザクッ、ゴトリ
「えっ?」
俺の視線の先で、今自分が手にかけるか迷っていた相手の首がするりと落ちた。しかも、敵の蛇にやられたわけじゃない。第三者にやられたようだ。その証拠に蛇自身も戸惑っている様子だ。
俺が戸惑っていると、背後に再び気配を感じた。
「やあ、またあったねモネ君」
振り向くとそこにはフード野郎が立っていた。
「あれ、もしかしてさっきの子きみが狙ってた子だった? それだったらゴメンね、早い者勝ちだからさ。まあ、あっちの蛇には興味がないからそっちで我慢してくれる?」
「蛇には興味がない……?」
どうやら俺は無意識の内に声が出てしまっていたようだ。俺は蛇を倒すために人間をどうするか考えていたのに、コイツはモンスターに興味がないというのか?
「あ、そうそうボク人間を殺すことにしか興味がないんだよね。だから、ここはボクにとって合法的に人を殺せる最高の場所ってワケ」
やばい、こいつはヤバい。さっきも感じていたのだが、このフード野郎から放たれる異様なオーラとはこの変態的な思想からくる者だったのか。それに人間を殺したいとなれば俺自身も危うい。
俺はいつでも剣を抜けるよう、意識を張り巡らせる。
「あはっ、そんなに警戒しなくてもいいよ、君は殺さないから。君は強いから決勝トーナメントで思う存分やり合おう。今は、弱っちい奴を一方的に殺したい気分なんだ。だから、今は君を殺さないから安心して」
まるで俺のこともその気になればいつでも殺せると言わんばかりの口ぶりだ。それも本心から行っているように見える。こいつには厳戒態勢を取らないといけないようだ。
「あ、そうだ。まだ人をやってなさそうだからいいこと教えてあげる。ここで人を殺すと、その人が稼いだポイント全部もらえるみたいだよ? ふふっ、じゃあボクはこれでおさらばするよ、また決勝の舞台で会おうね」
フード野郎は重大な情報と、気持ちの悪い印象を残して去っていってしまった。
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