第8話 五帝家


「フォッフォッフォ、この移動手段を使うのはモネは初めてじゃったかのう?」


 爺さんは笑ってそう言った。しかし、こちらとしてみれば笑い事ではない。本当に気持ちが悪くなってしまったし、そうなる恐れがあれば一言くらい欲しかった。


「へっ、情けない所を見せるなよ! って言いたい所だがこればっかりは仕方ねーよな。俺も知ってて何も言わなかったしな。俺もスラムから森に連れてこられた時はこれでお前みたいになってたぞ」


 そうだ、ヴィットもグルじゃないか。


 まあヴィットに関しては自分もされたからその気持ちを味わって欲しかったんだろうな。そう思うと責めるに責められない。それに、知ってたら知ってたで無駄に恐怖心が募るだけかもしれないしな。


 まあ、今回ばかりはどう足掻いても爺さんが悪いのだ。


「若いとは良いのう」


「「今、若さは関係ねーから!!」」


 珍しくヴィットと声が重なってしまった。


「フォッフォ、それよりもうすぐ大会が始まるじゃろうから体を温めておくんじゃよ。それと、トーナメント表の一つや二つ見ておくのも良いかもしれん。儂は少し用事があるからこの場を去るが二人とも頑張るのじゃぞ」


「え、ジジイ帰っちまうのかよ?」


「おや、儂がおらんと不安かの?」


「うっ、んな訳ねーだろバカ! ただ気になっただけだよ!」


「なら、安心じゃな。では、これで。ふんっ!」


 爺さんはそれだけ言うと来た時と同じようにこの場から去っていってしまった。


 爺さんは俺たちを送るためだけにこの手間隙をかけてくれたと考えれば感謝しなければならないが、どうも気分の悪さで相殺されてしまう。


「おい、モネ。お前ここに来た時に気分悪そうにしてたから周りから緊張してるやつと思われて笑われるぞ?」


「むっ、それは不味いな。だがそれは爺さんの所為だし今更どうしようもないな。否定するような態度を取ったところで逆効果だろうからな。実力で黙らせるしかないだろう」


「へっ、まあそれもそうだな。ウォームアップに少しこの会場周りを走ってこようぜ」


「おう」


 会場の周りを走っていると、トーナメントを発見した。そこでこの大会の概要について知ることができた。


 この大会は予選と決勝トーナメントから成るようで、参加者は全員四つのグループに振り分けられる。


 そのグループの中で大乱闘を行い上位四名が決勝トーナメントに進めるようなのだが、その大乱闘というのが少し複雑なルールで行われる。


 それは一人一人に持ち点十点が与えられ、攻撃を与えたり、食らったりするとその点数が増減する。制限時間が終了した時にその持ち点が多い四名がトーナメントに駒を進めることができる、というわけだ。


 トーナメント通過者の平均点がどのくらいなのかは定かではないが、確実に十点は超えてくるだろうなと思う。


 予選でどの程度人がいるのか知らないが、他者から一度も攻撃を食らわない猛者は確実にいるだろう。現にヴィットなんかはそうなのではないか?


 俺は走りながら考えをまとめていた。


「おい、緊張してんのか?」


 走りながらヴィットにそう聞かれた。俺としては予選のことについて考えていただけなのだが、緊張してないってわけでも無さそうだ。


「どうだろうな、緊張とワクワクが入り混じってる感覚だな。でも、どちらかというと自分の力、修行の成果を漸く試せるのかというワクワクの方が強いな」


「へっ、俺もまあそんな感じだよ。もし予選で同じグループになったらどうする?」


「その時は……別行動でいいんじゃないか? 自分達の力を試したいしな。もしもヤバそうになったら手を組むってことで」


「あぁ、それがいいな。早々と俺に助けてくれなんて言うなよな?」


「ふっ、そっちこそ」


 俺は予選が始まる十分前にランニングを終えた。


 ❇︎


 俺たちは会場に入る為、手続きをすると手首にリストバンドのようなものを装着させられた。


 そして中に入るとそこにはもう既に沢山の人がいた。全て同年代であるから背格好は大体同じだがその中でも色んな意味で目立つ者がいた。


 それは五帝家と呼ばれる者達だ。五帝家とは、それぞれ魔法士、弓士、拳士、剣士、神官を数多く輩出している一族の事を指し、良家や名家とも言われたりする。


 そしてそう、ウルス家も五帝家の一つなのだ。だから俺が追放されている事は、もうとっくに五帝家の者は知れ渡っていることだろう。


 唯一救いなのは俺の顔を覚えている、あるいは知っている人が少ないことだろうか。


 今は爺さんの元で暮らしているのもあって格好ではバレないだろう。五帝家の者たちは非常に煌びやかな格好をしているからな。


「おい、ずっとお前のこと見てる奴がいるぞ」


「何っ?」


「今は気づかないフリをしておけ。別にコッチが気付いてることをわざわざ教える必要はないからな。ただ、お前が誰から注目されてることは確かみたいだぜ」


「注目されていてもいなくてもやることはかわらないさ」


「そうだな」


 ヴィットのお陰で程よく緊張が解けた。そして、開会式が始まった。



「・・・。では、諸君のリストバンドにグループが表示されているはずだ。それに従って別会場に移動してもらう」


 開会式では手短にこの武闘大会についての話と、ルール説明が行われた。予選は同じタイミングで別々の場所で行われるようだ。


 そう考えると随分と手の込んでいる大会だな。各個人にリストバンドと四つの大きな別会場があることになるからな。それだけ注目度も高いということだろう。


「おい、お前はどのグループだ? 俺はCだったぞ」


「残念、俺はAだな。じゃあここからは別行動だな。決勝トーナメントでまた会おう」


「おう、間違っても予選落ちすんじゃねーぞ?」


「そっちこそ」


 俺らは同じ場所を目指して、別々の会場へと赴いた。遂に、武闘大会予選が始まる。


 

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