第7話 技とアドバイス


 ヴィットから技の仕組みについて教えてもらった後から、俺はずっと自分に合う技、というものについて考えていた。


 ヴィットは人それぞれ個性も強みも違うのだから、単に真似するのではダメだということを教えてくれた。だが、そうは言っても自分でゼロから考えるというのは非常に難しい。


 どうしてもヴィットの技に引っ張られてしまう。そんなある日の模擬戦終わりのことだった。


「なあ、そんなに思い詰めなくてもいいんじゃねーのか? 別に技がなくたってお前は十分に強いんだ。そんなことで悩むよりかは剣の修行をしたほうがいいんじゃないのか?」


「あぁ、それもそうだな。でも、現になんでもありの模擬戦だと途端に俺はヴィットに勝てなくなる。これは別にヴィットに限ったことじゃないはずだ。皆、それぞれ自分の強さを持っていると思う。そんな中俺がただの剣術で挑んだところで勝てる未来が見えないんだ……」


「へっ、そうかよ。ならジジイにも聞いてみたらどうだ? 俺は絶対に頼りたくはねーがお前はそんなつまらねープライドなんか持ってないだろ? ジジイならどうせいい答えを持ってるはずだろ」


「そう、だな。そうしてみるよ」


 いつもヴィットは俺の悩みに親身になって相手してくれる。本当に優しい兄弟子だ。


「あぁ、そうしろ。ってか、お前がそんな調子だとこっちも調子狂うからさっさと切り替えろよ? 俺だってお前がいなきゃ模擬戦ができねーんだからな、、、へっ」


 そう言ってヴィットは何処かへ行ってしまった。


 そうだよな、ヴィットにも迷惑をかけているんだ。早く自分にも納得がいく形を見つけ出さないと……


 俺は覚悟を決めて、爺さんの部屋へと向かった。


 ❇︎


 コンコン


「失礼します」


「おおぅ、モネか。どうしたのじゃ?」


 爺さんはいつも俺たちの修行をしているとき以外は、自分の部屋で立ち歩きながらずっと本を読んでいる。ヴィットが愛読家なのも爺さんの影響なのだろうな。


 そして、俺は爺さんに今自分が思っていることを洗いざらい全て話した。


「フォッフォッフォ、そうかそうか。お前さんにも自分だけの技が欲しいということじゃな? ふむ、じゃが技というのは何もいいことばかりではないぞ?」


 爺さんから帰ってきたのは思ってもみなかった言葉だった。


「え、そ、そうなのですか?」


「あぁ。お主には技を使うだけで相手に有利を取れるものだと思っておるのかもしれんが、決してそんなことはない。例えば、基礎的な修行のみを積み重ねた末に至った仙人と、百の技を覚えただけの道化師、果たしてどちらが強いと思うかの?」


「せ、仙人でしょうか?」


「その通り、何事も基礎が大事なのじゃ。技というのはその土台の上に置くから成立するものなのじゃよ」


 なるほど、だから爺さんはいつも俺たちに基礎体力づくりや魔法も学習するだけで基本的な魔力操作だけにとどまっていたのか。


「まあ、ヴィットの場合は少し例外での、彼奴は生き残るために技を生み出さねばならなかったが、そうでもなければ時期尚早の技など付け焼き刃にもならん。ヴィットの場合はそれを命懸けでものにしたのじゃから大したもんじゃよ」


「な、なるほど……」


 やっぱりヴィットって凄いんだな。俺の前では全然すごぶらないというか、良い意味で目線を合わせてくれるから忘れがちだけど、やっぱり爺さんが連れてきただけの才能の持ち主ということだろう。


「で、ですが!」


「フォッフォ、分かっておる。来月の武闘大会に間に合わぬ、とお前さんはそう言いたいのじゃろう?」


「うぐっ、そうです……」


 それは何より爺さんが言ったのだ、今のままでは一位になれないと。


「まあ、焦る気持ちも分かるがのう、技を習得するのは他にもリスクがあるのじゃ。だから、お主には一つだけアドバイスをやろう」


「アドバイス?」


「そうじゃ、もしお主がどうしても技を使いたい、強くなりたいと思ったときは、今までわしに教わったことと、ヴィットに言われたことを思い出すのじゃ。そうすればきっと道は開けるじゃろうて」


 そうやって爺さんからのアドバイスは終わった。


  ❇︎


「ジジイも良くわからねーこと言いやがるよな! もっとちゃんとはっきりと教えてくれたらいいのによ!」


 俺が爺さんに言われたことをヴィットに伝えると、俺の思っていたことをズバッと言ってくれた。


「だがまあ、爺さんにも考えがあるのだろう。だからそれまではしっかり楽をせず地道に強くなれってことだろうな」


「まあな、もう気にするだけ無駄だよな。模擬戦しようぜ? 全力の俺といい勝負できるようになればいいんだろ? 俺もそこらへんの奴に負けるとは思ってねーから俺に勝つつもりでこい、いいな?」


「あぁ、分かった。よろしく頼む」


 そうやって俺たちの模擬戦は再び始まった。


 やはり、こういう所を見るとヴィットは頼れる兄弟子って感じるよな。ちゃんと俺のことを想ってくれるのが肌で感じ取れる。


 だからこそ俺もその気持ちに応えたい。全力で挑んで全力で強くなる。技に頼らなくて良いほどの強さを手に入れるまで。


 ❇︎


 そして、とうとうその日がやってきた。


「フォッフォッフォ、お前さんたち準備は良いかのう? もう準備はあらかた済ませておるからあとは移動するだけじゃ。お前ら二人は孤児枠として参加させておるからそのつもりでな。苗字もないから間違ってウルス家などというでないぞ?」


「はい!」


 ヴィットに小突かれたが、これはなんとなく分かってたことだ。それに俺はもうウルス家の一員じゃない。覚悟を決める上でもこの大会は大きな意味を持つだろう。


「フォッフォ、良い返事じゃ。じゃあいくかの」


「おいおいジジイ、こっからどうやって行くんだよ! 森を抜けて会場まで行くとしたら大分疲れてしまうぜ?」


 確かにそうだ。今からあの森を抜けるのでは爺さんがいても結構きつそうだ。


「安心するのじゃ。今回はを使うからの」


「げ、マジで言ってんのか!? アレ、精神的に来るから嫌なんだよなー」


 ヴィットが精神的に来るほどのものって一体なんだ? そんなもので会場まで行くっていうのか?


「さ、二人とも儂の腕を掴むのじゃ」


 腕? ますます意味が分からない。


「では、行くぞ? ふんっ!」


 え、ちょドユコト? 気づけば俺の体は宙に浮いてて、次の瞬間には会場らしき場所に着いていた。


「オェエエエエ」


 俺は地面に着いた瞬間戻してしまった。どうやら俺は最悪なスタートを切ってしまったようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る