第6話 兄弟子の力
俺は剣を正面に構えた。
「
模擬戦が始まると、ヴィットがいきなり距離を詰めてきた。しかも今までとは比にならないくらいの速さで。
キンッ
なんとか俺は首元に迫った短剣を剣先で弾いた。そして迷わずヴィットの腹に膝蹴りを食らわせて後ろに飛び、距離をとった。
「くそ、剣士の癖に良い蹴りをしやがって」
「そっちこそ、首筋を狙うフリしてもう片方の短剣で俺を刺そうとしてただろ?」
「へっ!」
ヴィットは短剣の二刀流だ。そのスピードから放たれる連撃には細心の注意が必要だ。先ほども首筋への攻撃が陽動で次が本命だった。だからこそ何よりもその間合いに入らないようにしなければならないのだが……
「弾身!」
ヴィットは元から素早いのだが、それが更に速くなる技を持っていたようだ。だが、その技は先ほど見た!
「ふっ!」
俺はヴィットの迫ってくる直線上に攻撃を置くように袈裟斬りを振るった。だが、
「甘いぜ?
ヴィットの体がフッと消えた。そして瞬時に背後に回られた俺は最初の敗北の時と同じように短剣を首筋に添えられた。
「よっしゃあ! どうだ、これが兄弟子の力だ、分かったか?」
「クソ、まだたかが一回勝っただけだろ。もう一回だ、次は俺が勝つ」
「へっ、いいぜ何回だって付き合ってやるぜ。まあ、何回でも俺が勝つんだけどな」
❇︎
その宣言通り、俺はその後何度も模擬戦をしたが一度も勝てなかった。
「これが実戦経験の差、か……」
「へっ、まあそう落ち込むな。俺はお前の修行している所をずっと見てきたからお前のことをよく知ってるだろ? 逆にお前は俺のことについてほとんど何も知らない。情報の差っていうのはそれくらいでかいんだよ」
「確かにそうだな。今回から使い始めた弾身ってのもスラムで身につけた技なのか?」
「あぁ、そうだ。瞬間的にスピードを上げる技だな。他にも技はあるんだが戦闘で使える技は潜身とこれくらいだな」
凄いな、流石は兄弟子だ。スラムという過酷な環境下で自ら技を身につけるなんて。逆に言えばそうでもしなければ生き延びれなかったということだろう。
それに比べて俺は恵まれた環境の中で、剣の修行だけをして満足していた。そんなことで最強になれるはずもないよな。俺はウルス家の中で、しかも俺と同じ代の中で強い方だったからと自惚れていただけなんだな。
武闘大会ではもっと強い敵もいるのだろう。なら俺がすべきことは……
「ヴィット、頼む。その技を俺にも教えてくれないか?」
俺は深く腰を曲げ頭を下げた。
「うぉっ、おいおいおい急にどうしたんだそんな改まって! いいから頭を上げろって、な、な?」
だがヴィットは心底驚いたようで、慌てて俺の体を起こさせた。
「それで、急にどうしたんだ? なんで俺の技を教えてもらいたいんだ?」
「俺は今まで剣の修行しかしてこなかった。そしてそうしていればいつか最強になれると思っていた。だが、ヴィットと戦ってみてそれが間違っていることに気がついたんだ。今の俺じゃヴィットのように実戦を積み重ねた者には勝てない」
「あぁ、そういうことかよ。それならそうやって言えよな! 急に頭を下げられたらこっちがびっくりするだろうが! それに俺たちの仲だろ? 頭なんて下げなくていいい!」
「いや、俺は教えを乞う身だ。頭は下げるべきだろう」
「へっ、好きにしろ! それよりも俺の技を教えて欲しいんだったな。だが、先に言っておく、お前には俺の技は教えられない」
ヴィットは俺の目を見て、そう告げた。
「なっ……! ど、どうしてだ?」
その目はとても真剣で俺に強くなって欲しくないからなどという理由には見えなかった。それにヴィットがそういう人間でないことは知っている。
「まあ、それには色々と説明しないといけないんだが、まず俺の技っていうのはそんな大したもんじゃねーんだ。ただ、魔力を体に使って身体機能を一時的に上げてるだけなんだよ」
「魔力を使って、身体機能を上げる?」
「あぁ、魔力を体の一部に集中させることでその筋肉や器官の機能が上昇してすごい力を得られるって訳だ。だから、技、なんて大袈裟なもんでもねーし、俺がお前に勝てていたのも半分ズルしてたようなもんなんだよ。今まで騙しててごめんな」
「え、それは魔力を身に纏わせるという歴とした技だろう? 凄いじゃないか! それに使える技を使うのがズルなはずないだろう。だから謝る必要はない」
「モネ……」
「それよりもその具体的な方法を教えてくれ」
「んな? あ、あぁ。そう、それで俺が教えられないといったもう一つの理由になるんだが、俺の技は俺に最適化された技なんだ。俺の短剣二刀流や体、性格に最も合うように俺が長年かけて作り調整したものなんだ。だから、俺の技をそのまま教えることはできないんだ。お前に合った技を探すのが大事なんだ」
なるほど、俺に合った技か。確かにこれは人に教えてもらうものではないな。魔力の操作を練習しながら自分に合った技を身につけていく。これが武闘大会までに間に合うかどうか……
「ん、そういえばなんで技を使う時に声に出してるんだ? 声に出したら相手にもバレてしまわないか?」
「ぶっ! そ、そうだよな、普通そう思うよな。だ、だがこれには深い訳があってだな……」
俺にそう言われたヴィットはなんだか非常に動揺しているように見えた。そして、
「ほ、ほら俺はスラム出身だろ? だから一瞬の選択の遅れが命取りなんだよ。だから、言葉を発することをキーにして無意識に技を出せるよう訓練したんだ。そうすることによって咄嗟のタイミングでも魔力操作をミスらずにできるようになる。スラムで生き残る為には必要なことだったんだよ。それにほら、別に魔物との戦闘ならそんなんに関係ないしな? な?」
そう早口で捲し立てるように説明してくれた。
それにしてもそんなにもちゃんとした理由があるとはな。俺はなんとなくかっこいいからそうしてるのかな、とくらいにしか思っていなかったもんだから少しばかり恥ずかしい。
「だ、だから別にかっこいいから口に出してるとかそういう理由じゃねーからな。勘違いすんなよ、分かったか?」
俺はこの発言を聞いて何故か分からないが、少し安心してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます