第5話 武闘大会


「武闘大会?」


 爺さんの口から聞こえた言葉は意外な単語だった。


 曰く、武闘大会というのはその年に成人した男を一つに集結させ、その中で最強を決めるという催し物、だと言う。


「おいおい、そんな話一度も聞いたことないぞ? 本当にそんなことがあるのかよジジイ」


 俺も正直に言うとヴィットと同じ気持ちだった。親からはそんな話聞いたこともないし、剣の実力を最優先に考えるウチの一族が知ってたならその情報を言ってそうなものなのだ。


 それなのに俺は初めてこの存在を知った。そんなことはあるのだろうか。俺がそう思っていると、


「フォッフォッフォ、モネも不思議そうな顔をしておるのう。お主らがこの大会について知らんのも無理はない。この大会は幼少期から親の力によって無理な教育が行われないようにある程度の情報統制がなされているのじゃ。言うなれば子供は伸び伸び育てよと言う国の方針じゃな」


「でもジジイが言うとなんか怪しく聞こえるな。武闘大会もその情報統制も国が光る才能を見つけたいからそうやってるんじゃないのか? そう勘ぐってしまいたくなるぜ、全く」


「フォッフォッフォ、ヴィット正しくその通りじゃよ。先程の言い分は国の建前でのう、実際は騎士として有能な才能を集めるために行われておる様じゃのう」


「げ、まじかよジジイ。ったく趣味悪ーぜ」


「お主らには参加するもしないも選んでよいぞ? 方やスラム出身者、方や一族から追放されて死んだと思われておるじゃろ。二人くらい欠けたところで誰も気にせん、むしろ参加する方が難しいわい」


 参加するもしないも自由、か。俺は……


「なあ、どうするモネ?」


「俺は……俺は参加したいと思う。爺さんの元でヴィットと一緒に修行した成果を試したいんだ。同世代の剣士も集まるっていうなら、俺は最強になるために参加しなきゃいけない」


「へっ、世界最強を目指すのも楽そうじゃねーな、全く。まあ、そういうと思ったぜ? おい、ジジイ、どーせ俺たちが参加するって分かってて聞いたんだろ? そしてもうその為の手続きは踏んでるとみた」


「フォッフォッフォ、鋭いのぅ。ただ、一つ言っておくが今のお前さんたちじゃ武闘大会で一位になることはできんぞ?」


「「っ……!」」


 爺さんのその言葉に俺たちは硬直した。今のままでは一位にはなれない、その言葉には敵も強い、と言う意味も感じられたが、何か変化があれば一位になれる、そうとも捉えることができた。


 爺さんはそのままこの場を後にした。


「クソ、あのジジイ含みのあるような言い方しやがって、おいモネ」


「模擬戦だな?」


「あぁ、わかってんじゃねーか、やるぞ!」


 そこから俺たちは夜が明けるまで戦いに明け暮れた。


 ❇︎


 次の日、俺たちは昼頃に目が覚めた。


「げ、不味い、もうこんな時間じゃねーか! おいモネ、起きろ! 早くいくぞ!」


 流石に夜明けまで模擬戦をしていて、いつも通り起きれる道理がなかった。俺はヴィットに叩き起こされ瞬時にある程度の身支度をして部屋を飛び出た。


 今まで爺さんとの修行に遅れたことはないが、だからこそ遅れた時にどんな反応をするのかが気になる。もしかして、大激怒する可能性も……


「遅い」


 俺らが外に出ると、爺さんは手を後ろに組んでピシャリと一言そう告げた。そしてその後、ニヤリと笑ってこういった。


「フォッフォ、じゃが昨日遅くまで模擬戦をしておったのは分かっておる。じゃが、小僧は特に睡眠が大切になってくるのじゃ。時間通りに寝て、高い質の睡眠を取ることも修行の一環と思うのじゃ。さもなくば、成果を発揮したい時に体が動かんくなってしまうからなおう」


「「はい」」


 爺さんは意外にも怒るのではなく、諭してきた。やはり指導者としても優れているのだろう。本当にこのような師をもてて良かっ


「じゃが、今日から魔法の修行は一時中断する」


「え?」


 思わず声が出てしまった。俺の聞き間違いだろうか。修行を行わないって聞こえたんだが……


「おいおい、ジジイどう言うことだ? 俺らが別に怠けて寝坊したんじゃないってことは知ってんだろ? なのになんで修行してくれねーんだよ!」


 これが寝坊した罰なのだろうか。激怒することはなかったが、やはり寝坊したのはまずかったのだろうか? もう来月に武闘大会を控えているのにこれは大きな痛手になるぞ。


「フォッフォッフォ、儂はあくまで一時中断、と言ったまでじゃよ。それにお主らには今まで色んなことを教えておる。それを身につける時間も必要じゃて。それとも、直前まで知識を詰め込んで本番で頭でっかちな醜態を晒したいのかの?」


 爺さんはまたもやニヤッとした。


「へっ、クソジジイ。そうならそうと最初からそう言いやがれ全く」


 半年間の付き合いで分かったことが一つある。それは、ヴィットが爺さんのことをクソジジイと言う時はとても機嫌が良い時なのだ。


「おい、モネ! もう言わなくてもわかるよな?」


「あぁ、それに一日中そして一ヶ月間、思いっきり戦えるな。ここでどっちが強いか白黒ハッキリさせようじゃないか」


「クハハハ、おもしれぇ。これは武闘大会に向けた本当の模擬戦だ。どうだ、真剣で魔法なんでもアリでやらないか?」


 ヴィットは興奮した目でそういった。しかし、頬を伝う汗から緊張の色も窺える。ヴィット自身もその発言の意味を理解していると言うことだろう。真剣勝負という意味を。


「俺は剣士だ、いつだって一戦一戦が真剣勝負で臨んできた。ヴィットには分が悪いのでは?」


「へっ、言ってら! 俺だってスラムで毎日命を懸けで生き抜いてきたんだ。真剣勝負が剣士の専売特許だと思うなよ? それに、お前こそ魔法アリでいいのか? 分が悪いんじゃないのか?」


 確かに、俺は俺でウルス家として毎日真剣に修行に励んでいたが、ヴィットもヴィットで日々命の重みを体感しながら生きてきたのだ。その点、死や生に対する覚悟においては負けるかもしれない。


 だが、最強になる覚悟なら誰にも負けない。


「あぁ、真剣勝負だからな。全力で頼むぞ、兄弟子」

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