サルカニ合戦 その後編

むかしむかーし、

昔話村という村に、自分のおにぎりを猿の持っていた柿のタネを交換して、

柿を育てたカニ吉さんという人がいました。


 カニ吉さんは働きものだったので、柿をたくさん育てて裕福になったそうです。

昔話村のカニ吉さんの子孫はさらにたくさんの柿を育てて、裕福に暮らしておりました。


 さて、その伝説となったカニ吉さんから数百年たった頃、昔話村の隣の村にカニ助という若者が住んでいました。

カニ助はたいそう怠け者で、その日も、目は覚ましましたが、いつものようにそのまま布団の中でダラダラ過ごしていました。


 お昼位に『そろそろ腹が減ったな。』と起き上がると、台所に行って食べ物を探し始めました。

お米がお茶碗一杯分だけ残っています。


『他に何かないかな。』と家の隅から隅まで調べ始めました。

すると屋根裏の奥から、見たこともない古い巻物が出てきました。

『お。ひょっとしてこれは価値があるものかもしれない。』

『売ればお金になるかも~。』

そう思って巻物のひもを解いてみました。


巻物には名前と線がいっぱい書いてあります。

『家系図のようだな。』

書かれていた最後の代の中に、カニ助のおじいさんの名前がありました。


『爺さんの代までの俺のうちの家系図か。金にはならないな。』

そう思って一度、巻物を元に戻そうとしました。

しかし、暇だったカニ助は、なんとなく家系図をずっとさかのぼってみました。


 家系図の最初のご先祖様は、なんと、昔話村のカニ吉さんだったのです。

それを知ったカニ助はこう思いました。

『え?なんだよ。俺の祖先は、昔話村のカニ吉さんじゃないか!あの伝説のカニ吉さんが祖先なのに、なんでうちは貧乏なんだ?』


 詳しく見てみると、カニ助のおじいさんのお爺さんのおじいさんのお爺さんが、

本家の三男で、若い時に独立宣言して、本家を飛び出して行ったみたいです。

それ以来、本家とカニ助の家系は絶縁状態になっていました。


『なんだよ。じいさんの爺さんのじいさんの爺さんめ、余計なことしやがって。子孫の事も考えろよ・・・・。』


『しかし、そうか。俺の先祖はあの有名なカニ吉さんか。』


そう思った時、カニ助にある考えがひらめきました。

『よし、この手で行ってみよう。』

そして、その日は空腹を我慢して眠ったのでした。


翌朝早く目を覚ましたカニ助は、残っていたお米を炊いて、おにぎりを作りました。


そして、昔話村の山に向かったのです。

山の中腹のお寺につくと、

『神様、私にも先祖様と同じ、すぐに実をつける柿のタネをください。』

そう言っておにぎりを差し出しました。


すると、突然、辺りに光が満ちて神様が現れました。


そして、柿のタネを差し出すと、こう言ったのです。

『この柿のタネをお前の家の庭に植えなさい。』

『そして、毎日、肥料と水を与えなさい。』

『カニ吉のタネより時間はかかるが、普通の柿より早く実をつけるでしょう。』


そして神様は光と共に消えてしまいました。


カニ助は、こんなにうまくいくとは思ってなかったので、しばらく立ちすくんでいました。

そして、『あれ?夢かな・・・。』

そう思いましたが、おにぎりを持っていたはずの手には、おにぎりの代わりに柿のタネがひとつのっていました。


カニ助は喜び勇んで山を駆け下り、昔話村を駆け抜け、隣村の自分の家まで帰りました。

そして、すぐ柿のタネを植えたのです。


水はあげましたが、肥料がありません。

『毎日あげなきゃならないんだよな。』

『俺も、もう食べるものがないから、仕事も探さなきゃな。』

『よし、仕事探しついでに、となりのカニザブロウさんのところで肥料を借りてこよう。』

カニ助はカニザブロウさんから肥料を借りて、ついでに仕事も貰ってきました。

今まで怠け者だったので、仕事を手伝わせてくれ。とお願いすると、カニザブロウさんは、嫌な顔をしましたが、とりあえず仕事を手伝わせてくれることになりました。


それから、毎日仕事をしては、柿のタネに 水と肥料を与えて、たくさんの柿が実るのを夢見たのでした。


時には、稼いだお金で最高級の肥料を買い、柿に与えることさえできたのです。


そして、月日が過ぎていくと、村ではカニ助の評判があがり、

色んな仕事が来るようになり、カニ助は少しずつ裕福になりました。


そのうち、お嫁さんをもらう事が出来ました。

お嫁さんが来てしばらくするとかわいい赤ちゃんが生まれました。


カニ助は今まで以上に一生懸命働きました。


 神様に柿のタネをもらって 7年目の春が来ました。

柿の木は立派な若木に育っていました。

神様が、普通の柿の木より早く実をつけると言ったんだから、

今年は実をつけるだろう。


そう期待して、仕事の合間に水と肥料をあげる毎日でした。

ところがその年は、日照り続きの梅雨。

灼熱の夏、と続き、作物がまともに育ちません。


カニ助の柿の木もとうとう枯れてしまいました。


それでもカニ助は毎日、仕事の合間に水と肥料をあげていました。

しかし、ある風の強い日に、柿の木はとうとう、根元からぽっきりと折れてしまったのです。


失意のカニ助は、折れた柿の木を前に立ちすくんでいました。


すると、辺りが急に光で覆われ、神様が現れたのです。


『カニ助や、今までよく頑張ったね。』

『お前には、今度は一年で実をつける柿のタネをあげよう。』

そう言ってタネを差し出しました。


 しかし、カニ助はこう言いました。

『神様、私は自分が怠けたいがために、柿のタネがほしいとお願いしたのです。』

『今では多少の蓄えもあります。お嫁さんも子供も授かりました。』

『なにより、仕事をすることが当り前の毎日です。』

『これというのも、神様に頂いた柿のタネのおかげです。』

そう言って、神様の柿のタネを辞退したのでした。


めでたし。めでたし。


怠けもののカニ助を変えた柿のタネ。

神様の策略だったのかもしれませんね。


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サルとカニの昔話 鷹山勇次 @yuji_T

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