サルカニ合戦 禁断の果実編 その参

むかしむかし、物知りのカニがいました。

カニがおにぎりを持って歩いていると、

柿のタネをひろったサルに出会いました。


 サルはカニのおにぎりが欲しくなり、カニにずるいことを言いました。

「この柿のタネをまけば、毎年おいしい柿の実がなるよ。

どうだい、おにぎりと交換してあげようか?」

 

 カニは考えました。

≪ははぁ・・・こいつが伝説のサルカニ合戦だな。

あの柿のタネを植えればすぐ実がつくはずだ。そいつはオイシイ。

しかし、その実を食べるには、まず、サルに固い実をぶつけられて、大怪我をしなければならない。

・・・最後には実が食べられるが、その時は、臼とハチと栗。そして俺とサル。

・・・分け前は1/5か。

大怪我までして、分け前が1/5じゃちょっと割に合わないな・・・。

要は、私が、木に登ることが出来たらいいのだが・・・。≫


 その時、カニにある考えがひらめきました。

そして、『よし、サル君、交換しよう。』

そう言って、おにぎりと柿のタネを交換しました。


 タネを持って帰って来たカニは、家の傍の急斜面の一番下に

柿のタネを植えたのです。

せっせと水をやりながら、歌いました


♪早く芽を出せ、柿のタネ

♪出さねばはさみで、ほじくるぞ


すると、すぐ芽が出てどんどん大きくなりました。


 カニはさらにせっせと水をやりながら、歌いました


♪早く実がなれ、カキの木よ

♪ならねばはさみで、ちょん切るぞ


すると、あっという間にたくさんの柿が実りました。


≪よしよし。うまくいったぞ。≫

そう思っていると、伝説通りサルがやってくるのが見えました。

カニは困っているふりをしました。

サルが声をかけてきました。

『カニ君、どうしたんだい。』

『あ、サル君、柿が実ったんだけど、僕は木に登れないんだ。』

『なんだ、そんなことか。僕がとってきてあげるよ。』

そう言って、サルはするすると柿の木に登り、熟れた柿を食べ始めました。

サルは自分だけおいしそうな柿を食べて、カニには落としてくれません。


カニは怒って

『ずるいよ、サル君。僕にもおくれよ。』そう言いました。


しかし、サルは

『うるさい!これでもくらえ!』

そう言って、まだ熟れていない固い柿の実をカニに投げつけ始めました。


その事を伝説で知っていたカニは、最初から隠れ事が出来る木のそばにいました。

サルの投げる固い実は当たりませんでしたが、

カニは『痛いよ。いたいよ。』と当たったふりしました。


 おなかいっぱいになったサルが去っていくと、

カニは自分の体に、落ちていた硬い柿の実をこすりつけて汚しました。

それから、伝説通り臼とハチと栗の所に行って、さも大けがをしたかのようにふるまったのです。


 演技とは知らない臼とハチと栗は大変怒って、サルに仕返しをしようと言い出しました。


 4人で岩山の中腹にあるサルの家に行ったのです。

そこで、カニはサルを懲らしめる方法を提案したのです。

『栗君、君は火鉢の中に隠れて、サルが帰ってきて、火鉢にあたりはじめたら、

サルの顔をめがけて、弾けてくれないか。』

『ハチ君、サルが栗君の攻撃でやけどしたら、水で冷やすはずだ。

ハチ君は水がめの裏に隠れて、サルが来たら、顔をめがけて刺してくれ。』

『臼君、君は岩山の上に行ってサルが家から出てきたら、

サルの上に落ちてくれないか。僕がいいところまでサルを連れてくるよ。』

3人は、なるほどそれぞれの特徴を生かしたいい案だ。と納得して持ち場についたのでした。


やがて、サルが帰ってくると、予想していた通りに「寒いな~」と言いながら

火鉢にあたり始めました。


 しばらくすると、栗が弾けて周りの火と一緒にサルめがけて飛んで行きました。

『あちちちちっ!』

サルはやけどした場所を冷やそうと水がめに急ぎます。

水を掬おうと手を伸ばした時です。

ハチがサルの顔を刺しました。

『痛い!痛い!』

サルは顔を押さえて家から飛び出してきました。

カニがすかさず言います

『サル君、どうしたんだい。』

サルは、顔の火傷と蜂の傷、そしてあわてていたので、うまく話せません。

『顔がやけどで、ハチに刺されて・・・』

カニは顔を押さえたサルを誘導して、上に臼がいる場所まで連れて来ると、

『薬をとってくるから、ここで待ってて。』

そう言いながら、臼に合図を送って、自分は離れて行きました。


ガラッ ゴロッ・・・

臼が岩山の高い所からサルめがけて落ちてきます。

顔の痛さに耐えながら、

顔全体を手で押さえているサルはそれに気づきません。

ドスッ!!

サルは臼にぺちゃんこにされました。

臼は勢い余ってそのまま岩山の谷底めがけて落ちて行きます。

バキッ!!

谷底まで落ちた臼は真っ二つに割れてしまいました。


 それを見届けたカニは、サルの家に入って行き、

焼き栗を食べてこう言いました。

≪ふふ。すべてうまくいったな。≫

ハチは一回針を刺すと死んでしまうミツバチの種類だったのです。

そして、柿の木の所まで帰ってくると、横の急斜面を登り始めました


急斜面の傍まで伸びている柿の枝に飛び移ると

熟れた柿の実を食べながら、こう言ったのです。

『伝説を知ってるって、役に立つこともあるもんだな。』


めでたし。めでたし。


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