第17話 嫉妬

 アリス、ナタリーさんがぼくが床に落ちた事にビックリしこちらを見る。


『痛たたぁ〜、ぼくがカッコいい!? マジか! やっとぼくの時代が……』


 床でひっくり返った蜘蛛がガッツポーズをしているなんて誰も知る由もないのだ。


『それにしても、ナタリーさん!』


 彼女のあの仕草! 女性について無縁だったぼくでもひしひしと感じるあの感じ。


『絶対恋されていますね!』


 何でわかったかって!?

『だってね、体をクネクネさせながら頬を赤めて、その人(ぼくね)の事を話してるんだよ』


 気づかない方がおかしい!!

 うん〜、さて……、アリスさんはというと……。

『ああ〜ん、あからさまに動揺されてますね!』

「そ、そんなにカッコいい人ではなかったと思いましたけど……」


 アリスがぼくの方を見る。

『うん? 何でしょう、そんなに見られると恥ずかしいですわよ……。めっちゃにらまれてる、睨むのは変じゃありませんか、アリスさん!?』


「では、私はこれにて失礼を……」

「アリスさん、もしまた会う事があったら紹介して下さいね!」

 凄い勢いでアリスに迫るナタリーさん。

「はい……」


 ぼく達は、デレデレしたナタリーをほっといて部屋を出る、そしてクエストボードを確認する。

 

「アグー、しばらく人型は封印だから!!」


「……マジで!!」

「うん」


 この日最初に話した言葉は、衝撃の事実だった。

 そして、アリスは何かに取り憑かれたかの如くクエストをこなしていった。

 まぁ、殆どぼくが相手をしたんだけど……。


『いや〜、怖かったなあの目、無言で行けって言ってたんだよ。』


 そのかいあってか、そこそこお金が集まった。

 その前にカエルさんの玉で金貨100枚貰っていたけどね。

 夕方ようやく宿に帰ってきた。

「おかえりなさい、アリスさん」

「ただいま、リリー」

「今日はアグーさん居ないんですか?」

「居るわよ」

 下を指さすアリス。

「ひゃっ!! アグーさん?」

「そーでーす! のアグーでーす」

「どうしちゃったの?」

「えっと〜」

「あら、おかえりアリスさん、っとアグーさんは?」


『デジャヴですね、はい』


 アリスとリリーは下を指さす。

「下? ひゃっ!! アグーさん?」

『さすが親子ですねぇ〜』

「そうでーす」

「今日はまた蜘蛛さんなのね! ちなみにご飯とお風呂どうします?」

「ご飯は……」

「ご飯もお風呂も良いですよ!! すぐに私の中に戻ってもらいますから……」


『そんなぁ〜!!』


 その後、予言通り快適空間送りにされてしまった……。

『何も悪いことしてないのに……。まぁ昨日の晩はしたかもだけど……。ナタリーさんの事はぼくには関係ない、うん関係ないよね!』

 自分に言い聞かせながら、その日は過ぎていった。



 〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


 夕ご飯になり私とママさん、リリーと三人で食べる事になった。

 最初は黙々と食べていたのだが。

「ねぇ、アリスさん今日何かあったの?」

 ママさんが聞いてきた。

「どうしてですか?」

「今日のアリスさんのアグーさんへの態度が変だと思って」

「何なんでしょうね」

「アグーさんが可哀想だよ」

「え?」

「こら、リリー。アリスさんにも色々あるんだから」

「だってさ、蜘蛛になってるのはわからないけど、アリスさんの中に戻しちゃう事はしなくて良かったんじゃないかなって。だってリリー、アグーさんとご飯食べたかったし」

「それは……」

「アリスさん、私達が言うことではないかもしれませんが、もう少し考えてあげた方が良いのではありませんか?」

「そう、かもしれませんね……」


 夕食後、お風呂に入り自室でくつろいでいると。


《コンコンコン》ドアをノックする音がした。


「はい!」

 入ってきたのはママさんだった。

「まだ、アグーさんとは喧嘩してるのですか?」

「いや、喧嘩ではないのですけど」

「私でよければ話聞きますよ」

 そういうと、私の横に腰掛けるママさん。

「今日、ギルドに行ったんですけど、そこのギルドマスターさんが、アグーの事を、その……」

「うん?」

「その……好きになっちゃったみたいで……」

「え?」

「この前、初めてアグーが人型になった日、道端で体調が悪くなったんですけど、その時アグーがここまで介抱してくれたんです。その時ナタリーさん、ギルドマスターさんがそれを見ていたらしく、あの男性は誰ですかとか、どんな人ですか等、目をキラキラさせて聞いてきたんですよ。その時アグーは、蜘蛛でしたから問題にはならなかったんですけど、逆にそんな事も気にせず遊んでいたアグーにちょっとイラッとしてしまって……」

「それであんな態度になってしまったと……」

「……はい」

「ふふふ、若いって良いですね」

「どういう意味ですか?」

「そういう悩みは若いうちしか出来ませんから。でも、本当はアリスさんの中で答えは出ているんでしょ?」

「………」

「あと、そのナタリーさんに取られない様に気をつけて下さいね」

 ニコッと不敵な笑みを浮かべママさんは部屋を後にしたのだった。


「明日、謝れるかな……」


 アグーがいない夜は前に何回もあったけど、今日ほど落ち着かない夜は無かったのだ。

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