第14話 カミングアウト
ぼくの手にはアリスを抱きしめた時の感覚がまだ残っていた。
これまでいかにしてアリスに近づき、あまつさえもっともーっと近づく為にありとあらゆる事をしてきた身ではあるが、あんなにあっさりと近づけるなんて思いもよらなかった。
「アリス〜、アリス〜〜〜」
………数分が過ぎた!!
『遅い、洗面所はすぐこそだったはずなのに、帰ってこない!! もしかして、変な事を考えてた事がバレて嫌いになっちゃった!?』
「のぉーーー、それはヤダぁーーー!」
『確かに、確かによ! この体になった時、アリスは何故か泣いてたけど、ぼくはラッキーって思ったんだよ! これで、これでアリスと堂々と街を歩けるし、話せるし、で……でへぇーと!!』
噛んだ!!
『……デートだってね……行けるわけじゃない!』
………召喚獣としてだけど……。泣
『でも、本当に遅い……な?………』
立ち上がり、探しに行こうとした瞬間何か変な空間に飛ばされた様な感覚に襲われた。
『なんだ!?』
そして周囲が揺らぎ
次に目を開けた時目の前にアリスが居た。
『アリス!? それに、ママさんにリリー?』
目の前にはアリス、そしてママさんとリリーがいてママさんの表情は今まで見たこともない様な形相で、リリーも恐怖に支配されたかの様な顔をしていた。
そして。
『こいつは、誰だ!!!?』
少しづつ周りが動き始めるが、ぼく自身はまだ動けない様だ。
男がアリスに近づいてきて何か吠えているのがわかる。
アリスは目を閉じ、逃げる様な格好だ。
そして、時が戻る!!
「で、お前が払うのか!? それとも……お前のか・ら・だで!! 払ってもらっても良いんだぜ!!」
(……助けて!)
一瞬だった。「うぐっ! うわぁー!!」
《ドーン》
ぼくは男の胸ぐらを掴み、後ろの壁へと思いっきり投げつけた。
男は、おもちゃの様に飛んでいき、壁に激突し止まった。
「え!? アグー?」
「「ひゃっ!」」
アリスはぼくが急に現れた事に驚き、ママさんとリリーは男が吹っ飛んだ事に驚いてそれぞれ声を出した。
ぼくはアリスの問いに答えぬまま、男の方へ向かう。
「おい、お前! 気をつけて答えろ! 今、お前はアリスに何を言ったんだ!?」
床に座っている男の胸ぐらを掴み強制的に立たせ、そして宙に浮かす。
「がは、くるじい! やめろ、やめてくれ!!」
「
ぼくは答えろと言った身だが声を出す事が出来ないほど強く握っていた。
そしてもう少しで相手の意識が無くなるという寸前にアリスがぼくの後ろから抱きつき、制止したのだ。
「もういい、もういいよアグー! だからお願い、その人を離して!!」
「アリス!」
ぼくが手を離すと、男は床に落ちゲホゲホと咳き込んでいた。
アリスはそのままぼくを抱きしめたまま固まっていた。
ぼくは、アリスの髪の毛を撫でる。
「大丈夫か? アリス!」
何も言わなかったが、抱きしめている手の強さが変わった。
「さて、そろそろ聞かせてもらおうか? お前は誰で何のためにここに来て、何故アリスがこんな目に遭っているのかを!」
「………」
男は答えなかった。
「私が説明します。その人は私達がお金を借りた所の人で、借金の取り立てに来た人です。しかし、その法外な借金ゆえに口論になり、アリスさんが間に入ってくれたのですが……」
「で、借金が返せないのであれば、体で払えと!?」
「はい……」
「ちなみに幾らですか?」
「私が聞いた時は金貨100枚でしたがさっきその男が言った額は」
「金貨150枚だ!! ゲホっ! くそ!」
男が声を出す。
「ママさんは100枚だと言っているが?」
「ふん! 利子だ利子!」
「何が利子ですか! この前来たのは1週間前だったでしょうが!」
「うぐっ!」
「ほぉ〜! 1週間で金貨50枚の利子か!!」
「何が悪い!!」
「金貨100枚だ!」
「何でお前が決めるんだ!」
「ママさん、100枚なら今払えますよね?」
「え?」
ぼくはママさんを見てニコッと笑い『うん』と頷く。
「あ〜、はい! 大丈夫です。忘れてました!」
「なに!?」
「アリス、上からあの袋を持ってきて」
「えっ……あ!」
『あれ?』という顔をぼくに向けてくるので『うん』と頷く。
アリスがすぐに上に向かい
ぼくは、受付台に金貨10枚を10個づつ計100枚の金貨を並べた。
「ママさんとリリーは、いきなりの事で唖然としている」
「ここに金貨100枚ある! これで良いよな!?」
「おれは金貨150枚だと……」
ぼくは金貨の入った袋をアリスに渡し、男の方へと向かう。
「まだ何か不満でも!?」
これ以上文句は言わせないとばかりに、威圧する。
後にアリスやママさん達より、あの時の
「ひっ! くそ、なんなんだ!!」
そういうと、受付台に置かれた金貨をガサッと手にし宿から出て行った。
「ふう〜、やっと出て行きましたね」
ぼくは出て行った事を確認し、威圧を解除アリスやママさん、リリーの方を見ると皆んながぼくの方を見て固まっていた。
正確には威圧の影響で動けなかったというべきか。
「あ、あのぉ〜! あなたは一体! それにあのお金は!?」
「アリス!」
「えっ! 何? ぼくをあの仔熊に変えてくれない?」
「良いの?」
「この人達なら大丈夫でしょう」
「わかった」
「仔熊? 何のことで、すか……?」
言い終わる前に、ぼくはその場から消えた。
そして、すぐにあの仔熊(テディベア)となって出てきたのだ。
「え? この子は、この前の!?」
「ママさん、リリー!」
「しゃ…べった……」
「今までに、姿を見せていたこの姿も、蜘蛛やヘビ、そしてさっきの人型も全てぼく、アリスの召喚獣なんですよ。いきなりの事で信じられないかもしれませんが、アリスから出てくる召喚獣は全てぼく、アリスの言う〝アグー〟なんです」
「……ごめんなさい、まだ信じられないわ……」
「大丈夫です、ゆっくり慣れて頂ければ良いですから」
「………そうだ! さっきのお金は?」
「差し上げます!」
「え! それはダメですよ!!」
「ぼくは召喚獣なので偉そうな事は言えませんけど」
ぼくはアリスの顔を見た、アリスもまた『うん』と頷く。
「ぼくたち、いやアリスにとってここは居心地の良い場所なんですよ。そんな場所を提供してくれる貴方方の役にたてるなら安いものですよ」
アリスに向き直りニコッと笑う、アリスもまた。
「アグーの言う通りです。私には勿体無いくらいの場所なんですよ。ここが無くなるのは困ります」
「ですか……」
「あと、この辺を壊してしまいましたのでこれで直して下さい」
ぼくはさらに50枚の金貨を置く。
「そんな大金! もらえません!」
「上げるのではなく、支払うんですよ」
「……どういう事ですか?」
「ぼくたちは10日泊まると話していましたが、無期限でここに泊まる事にしました。だよねアリス?」
「そうね、ご飯も美味しいしお風呂もあるしで離れる事なんて出来ないよ」
「アリスもそう言ってるのでその分の支払いはしなきゃいけませんよね?」
「だとしてもこれは……」
「まぁぼくは召喚獣ですけど、人型にもなれる事が分かったのでぼくの分だと思って下さい。ぼくも美味しいご飯が食べたいですから、お風呂も入りたいし、ママさんやリリーとも
これからはたくさんお話が出来ますから」
「アグーさん。アリスさんも良いのでしょうか?」
「アグーが良いなら私には何も言う事はありません、私もアグーが居なければこんな生活出来なかった身ですから」
「そう、ですか。では、お言葉に甘えて納めさせて頂きます」
「これからもよろしくお願いしますね」
「こちらこそ本当にありがとうございました」
その日の夕ご飯は、ママさん、リリー、アリス、そして人型となったぼくの4人で楽しく過ごしたのだった。
ご飯を食べ終わった後、ぼくはお風呂に入りたいとママさんに伝えると、「入れるんですか?」って聞かれたので「多分大丈夫だと……」と答えておいた。
ちなみに召喚獣の為服の概念が無く、脱がなくても裸の様な格好にはなれるみたいだ。
凄く便利だ! しかし………。
『はぁ〜、やっぱりか………』
ぼくの性別は中性だと確定してしまった……。
とりあえずお風呂に入る、最初は溶けてしまうかと思ったがそんな事はなかった。
「はぁ〜、気持ちいい〜!」
この宿は見た目はあれだが、お風呂は結構広く大人でも4.5人で入れる大きさだ。
「これから毎日堂々と風呂に入れるなんて幸せだ!!」
そんな時だった……。
「アグー?」
『え? この声は……』
振り向くと、そこには
「え!? なんで!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます