第19話 へんたい! シスコン!
遊ぶ約束をしてからの一週間は、割と壮絶だった。
何が壮絶かって、二人のテンションの上がりようである。
三月さんも小咲さんも、これまでまともに友達を作れた試しがないため、休日に同級生と遊んだりするということがなかったらしい。
正確に言えば、三月さんの場合は俺と前家でゲームをしたのだが、それでもこうして三人でワイワイ遊ぶことなんてなかったらしいし、同性の子と遊べるということに対して、すごくうれしそうにしていた。
小咲さんは小咲さんで、意外にも計画派なところがあるらしく、日曜日の行動プランを立てるために作戦会議と称し、休み時間のたびに俺たちを呼び寄せては楽しそうにしていた。
そうやって三月さんが教室の中で誰かといる光景は未だ珍しく、俺の次は小咲さんが篭絡されてしまったと、クラスメイト達の噂はさらに熱を帯びていくわけだ。
すると、あとはどうなるか、想像に難くないだろう。
またしても彼ら彼女らはわらわらと話を聞きに来る。……俺だけに。
聞けば、小咲さんに安否確認を行った輩もいたそうなのだが、彼女の機嫌を損ねてしまったらしく、俺に流れ着いたと聞いた。
それもそうだ。
小咲さんにとって、三月さんは初めてできた友達であるわけだし、そんな友達をあたかも恐ろしい奴みたいに扱う人は願い下げだろう。そこんとこ、正直俺も同意。
けどまあ、同意は同意だけど、そういう奴らを強く拒否できないのは、ある意味俺の悪いところだ。小咲さんを見習わないといけない。
――で、そんな嵐のよう平日を過ごしていき、日付は日曜日。
俺は集合時間の午前十時に間に合うよう準備し、家を出ようと玄関にて靴ひもを結んでいる時だ。
「ゆう兄、また今日も出掛けるの?」
「ああ。日曜だしな」
つばきが背後から話しかけてきたので、振り返らずに返答する。
別に気を損ねさせる気なんて微塵もなかったのだが、妹は「ぶー」と不機嫌そうに低い声で反応してきた。
「お前だって受験勉強乗り越えて高校生になれたら、日曜もこうして優雅に出かけられるって。今だけの辛抱だろ?」
「そーゆーの、ちょっとウザイかも。受験生にも息抜きは必要なんだよ? 日曜は思い切り羽を伸ばさないといけない日なんだけどなー」
「じゃあ伸ばせばいいじゃん。俺は遊びに行ってくるけどな」
「むー! もっとアタシの相手をしろー! グレるよー!?」
「さてと、三月さんたちから電話はーっと」
「だから無視しないでってばー!」
午前中から騒々しい妹である。
中学三年にもなって、休日になぜ遊び相手に兄を選ぼうとするのだろう。
俺は大きくため息をついた。しつこいし、最終手段だ。
振り返り、つばきの方をしっかり見やって、ワキワキと指を妖しく動かす。目つきは気持ち悪く、だ。
「げへへ。なら、わかったよつばき。ブラコンでお兄ちゃん大好きなお前を帰ったらしっかり可愛がってやる。風呂に入って体洗っとけよぉ~」
「いやぁぁぁぁぁ! きもぃぃぃぃぃぃぃ!」
バシィィィン!
「ぶへぁぁっ!」
――ドン引かれ作戦、成功!
つばきから思い切りビンタされ、軽く吹っ飛ぶも、俺は心の中でガッツポーズした。
しつこい妹に対し、過度に気持ち悪い発言をすることで、強引に距離を作る作戦だ。
けどまあ、俺も内心今のは自分で言っときながらさすがにヤバいな、とは思ってる。
だけど、これは仕方ないんだ。
前々から何度かこの作戦を敢行しているのだが、それに合わせてつばきの気持ち悪さ耐性もついてきており、現段階ではここまでオーバーなものじゃないと対処しきれなくなってきている。
大事な妹ではあるんだけど、もうちょっと自発的に距離を作って欲しいものだ。毎度毎度叩かれて痛いし、心もなんか削れていくし。
「ふ、ふんっ! バカ兄、ほんっとキモいんだからっ! シスコン! 性犯罪者!」
プンスコ怒ってリビングへ入っていく妹を見て、俺は頬を抑えながら、「最後から二つ目だけはお前に言われたくない」と心の底から思うのだった。
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