第12話 教室での出来事
「うぅ……///」
『三月さん、声漏れてるよ』
「…………っ~///」
『だって……』
『?』
プルプル震える指先が俺の背中に触れ、ゆっくりとなぞられる。
本日最後の授業である五限目、現代社会の時間。
教室は、教壇に立つ先生の声のみが響き渡り、あとはみんな静かにしながらノートをとったり、教科書を見たり、窓の向こうにある景色を眺めたりと、様々だ。
そんな静寂の中で、俺と三月さんはというと、やはりいつも通りのコミュニケーションを図っていた。
ただ、いつも通りとはいったものの、今に限ってはどうでもいい世間話を交わし合っているわけじゃない。
午前に思いついた、三月さんが学校生活をもっと楽しむための作戦。これの第一段階のための交渉が、昼休みに上手くいったということを伝えている最中だ。
『……せきやくん……わたし……』
『うん』
『うまくやれるじしんがないです……』
書き終わり、力尽きるように指が離れる。
俺はすぐさまフォローに入った。
『大丈夫だよ! 三月さんとの面会前に俺がきっちりその子に伝えるから! 恐ろしい人じゃないって!』
「っ~……」
ぐるぐるぐる……。
ひたすら指先を押し付け、俺の背中に小さい丸を描き続ける三月さん。
心がもじもじ状態ですっていうのが伝わってくる。ちょっとくすぐったい……。
『どうしても、厳しそう?』
『………………』ぐるぐるぐる……。
『……ちょっと俺もいきなりすぎたかな……?』
『………………』ぐるぐるぐる……。
『……お節介だった……?』
「っ! そ、それは違います!」
「――!」
文字を書き込んだ紙切れを送った刹那、うしろから三月さんの声が飛んできて、俺はビクッとした。
けど、驚いたのは俺だけじゃない。
周囲に座るクラスメイト達も同様で、みんな三月さんの方へと視線を集中させ、ギョッとしていた。
現代社会科の先生も目を丸くさせてしまっている。
これは……先日俺が体験した状況とまるで同じだ……。
「……三月……君……?」
「ひゃっ、ひゃい……!」
「ええと……どうかしたかね……?」
「ひっ……い、いえ……そ、その……えと……っ……」
「私の聞き間違いでなければ……『それは違う』と言ってくれたようなのだが……?」
「あ……うぅ……そ……そうじゃなくて……」
「そうじゃない? では、どういうことなんだね? まさか、授業と関係ないことをしていた、とか?」
「ち……ちが……」
限界っぽかった。
呆気に取られていたところから、徐々に怒りの火が灯り始めたのか、先生の語気も強まっていく。
周囲のクラスメイト達もコソコソと喋り声を上げ始め、三月さんの方を見合ってはクスクスと笑う。
率直に言って嫌な雰囲気だ。仕方ない。
「あ、あの、先生!」
「ん? なんだね君は?」
声を上げると同時に、今度は視線が俺に突き刺さった。
けど、気にしない。
「三月さんに『違うって言え』って言ったの、俺です! 板書されてる三番の文章、四番のものだと思います!」
言い放った言葉は、教室を騒然とさせるには充分すぎるものだった。
もちろん、それは俺が確かな間違いを指摘したからじゃない。
三月さんに指示した、という事実について、驚いているのだ。
「んんっ!? ぬ、本当じゃないか。そうならそうとすぐに――」
「あ、あと、三月さんちょっと体調悪いみたいなんで、保健室まで連れて行ってきます! すいません!」
「あっ、ちょ、君!」
「行こう、三月さん」
言い残し、俺は三月さんの手を取って足早に教室から出ていった。
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