第11話 お友達作り計画第一段階の交渉を試みた。

「アインクラフトだと?」


「そうそう、アインクラフト。高津、やってなかったっけ?」


 時は一限、二限、三限と終わった昼休み。


 俺は、今日も今日とて高津と佐々岡の二人と共に昼食を摂っていた……じゃなく、摂るために中庭へ移動しようとしていたのだが、待ったをかけ、教室内で質問した。


「やってはいた……とういうより、現在進行形でちょくちょくやるが、それがどうしたというんだ?」


「え、マジ? 美少女ゲーム中毒者のくせに、良一まだアイクラしてたんだ」


「うるさいぞ佐々岡。俺は基本的にゲームは全般的に好きだ。その中でも特に美少女ゲームが好きというだけだ。人をどうしようもない奴みたいな言い方するな」


 どうしようもない奴。そこはあながち間違いじゃないだろ……。


 ……なんてツッコミがふと浮かんできたりもしたが、心の中だけに留めておいて、俺は咳払いし、やり取りする高津と佐々岡の間に再び割って入る。


「ま、まあ、やってたんなら話は早い。ちょい、頼みがあるんだけど……その、友達のよしみで聞いてくんないか?」


「? 頼み?」


「そうそう。可愛い女子(二次元)に人気があって、ゲーマーで、なおかつ心のひろーい高津にしか聞いてもらえないような頼み事なんだけど……」


 少々媚びるように両手を合わせて言うと、高津は腕組みをし、鼻で笑ってきた。


「ふっ、わかってるな侑李。さすがだ。その俺にしか聞いてもらえない頼み事の内容を詳しく話せ」


 完全に調子に乗ってるご様子。


 傍で佐々岡は、猫目になって高津をジトっと見つめている。


 俺は軽く苦笑し、続けた。


「高津のLIMEを利用させて欲しいんだよ」


「……ん? LIME? なんでだ?」


「いや、そのさ、二次元にしか興味なくて、三次元の女はクソだ、とか言ってるけど、高津ってこのクラスの女子のアカウント全部持ってるじゃん?」


「む……忌々しいけどな……」


「ちぇっ、なーにが『忌々しい』だよ。ちょっと顔がいいくらいで……」


 ブツブツと猫目のまま負のオーラをまといつつ、佐々岡が文句を言った。


 それを見て、高津はまた調子に乗る。「すまんな」、と。


 で、二人は睨み合いだ。俺はその間に入ってなんとか仲裁を試みた。


 けどまあ、これまた気持ちはわかる。


 高津は女性恐怖症だけどイケメンなせいで、クラスの女子からはモテまくりだし、いっつも休み時間になれば絡まれてる。


 そのたびにビビりまくってるわけだけど、そういった反応が面白いからか、ウザがられるよりも、女子たちからの人気はうなぎのぼりとなっている。


 だから、俺はここに目を付けたわけだ。


 高津経由でやれば、公然と女子に怪しまれることなく質問することができる。


 アインクラフトをしてるか、と。


「ま、まあまあ落ち着けって二人共! 俺別に喧嘩促したりしようとしたわけじゃないから!」


「じゃあ早く全容を言えよ侑李! らしくないな、今日のお前!」


「そうだそうだ! 早く言え侑李! 結局俺のLIMEを使って何をする気なんだ!?」


 最終的に仲裁係へ矛先を向けられる。あるあるだな。


 とはいったものの、もったいぶるのもよくないのは事実。


 非常に言いづらいが、俺は思い切って企んでいることのすべてを打ち明けた。


 その後、教室に高津の驚いた声が響き渡ったのは、言うまでもない。



「どういうことだ! 俺のLIMEを使ってクラスの女子と交流を図りたいとか、お前はそこまで腐った人間だったのか侑李!」


「良一の言う通りだぞ! 彼女はいないけど道は踏み外さない、それが俺たちの流儀だろ侑李!?」


 ――で、場所は中庭。


 教室の中だと周りにクラスメイトもいるし、話がこじれて計画どころではなくなる。


 俺は二人を強引に外へ連れ出した。


 ここなら多少人はいるものの、教室よりかは幾分マシだ。


「ちょ、待って待って! 違うから! そうじゃないんだ!」


「「そうじゃないってどういうことだよ!」」


 息ピッタリで責め寄ってくる二人。


 俺はそんな二人を押し返し、距離を確保。


「いや、まあ、正確に言えば言葉通りではある。あるけど、これにはちょっとしたわけがあるんだ」


「わけだと?」


「うん」


「どんなわけなんだよ? 話してみろよ」


「三月さんっているだろ? うちのクラスメイトで、みんなから怖がられてる」


「ああ、いるな」


「俺、今あの人の趣味友を探してるんだ。アインクラフトすごい好きみたいだから、その話が分かる人、みたいな感じで」


「「……は?」」


 二人は相変わらず息ピッタリで「何を言ってんだこいつ」みたいな表情を作る。


 それを見て、俺はため息をついて返した。


「いきなりクラスの女子に『アインクラフトやってる?』とか、アンケートみたいに聞いて回るのも変な話だろ? だから、高津がLIMEでアインクラフトをやってるかどうか聞いてきたっていう体を装ってやろうと思ったんだ」


「「………………」」


「悪かったとは思ってる。こんな利用するような真似。……けど、それ以外方法が見つからなくてな……」


 考えていたことのすべてを話したが、二人は固まって口をポカーンと開けたままだ。


 俺はそこからさらに付け足した。


「わかるわかる。そうやってお前らが驚くのはわかる。大方、『なんでお前があの人と?』みたいに思ってんだろ?」


「……いや、それもあるが、侑李、お前大丈夫なのか……?」


「は? 何がだよ?」


 高津に対して疑問符を浮かべていると、


「『何がだよ?』じゃないって! 三月さんと言えば鬼の形相! 鬼の生まれ変わりだろ!? なにお前侑李、遂に鬼の子分になっちまったのか!? 助けをもっと早くから求めろよ! 俺たち友達だろ!?」


 その横にいた佐々岡が俺の両肩を両手で持ち、ブンブン揺さぶってきながら言ってきた。


「ちょ、ちょっと待て佐々岡! 三月さんは鬼でも何でもないし、俺も別にそんな危機的状況にあるわけじゃないからな!?」


「あぁぁ! ダメだ高津ぅ! もう完全に三月さんに洗脳されてやがるこいつ!」


「洗脳されてなんてないから! 正気だから!」


 まったく話を聞いてくれない佐々岡。


 心配してくれるのはありがたいが、この場合ものすごく三月さんに対する勘違いをしているので看過できない。


 それに埒も開かない。


 申し訳ないが、佐々岡から逃れ、俺は冷や汗を浮かべている高津の方へと詰め寄った。


「頼むよ高津! 後日礼は何でもするから、女子に聞いてみてくれないか?」


「……し、しかし……」


「この通り! お願い!」


 頭を下げて両手を合わせる。


 何でもって言っても、やれることは限られてるが、この際それはもうどうでもいい。


 目を強くつぶり、高津からの返事を待った。


「……侑李……」


「ん、なに……?」


「聞きたいことはあるが、とりあえずお前は無事なんだな?」


「だから無事だって。無事じゃないわけないだろ?」


「そうか……」


 頭を下げて、両手を合わせて、目を閉じたままのやり取り。


 なんだこれ……。


「……仕方ない。なら、わかった。俺のLIMEから、女子共に聞いてみよう」


「――! ま、マジ!?」


「ああ。最悪本当にお前が洗脳されていて、三月弥生から送られてきた刺客だったとすると、断れば俺の命がないからな」


「いやだからそんなのないし洗脳もされてないから! でも、サンキュな高津! 本当にありがとう!」


 なんとか第一段階は成功だ。


 これでクラスメイトの女子全員にアインクラフトをやってるかどうか聞くことができる。


 その中でやってるって人がいれば、後日話を付けて、そこから三月さんに会わせよう。


 ひとまず計画が上手くいったことに、俺はガッツポーズするのだった。

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