第10話 いい方法を思いついた

 花の水やりタイムを終えた俺たちは、いつも通りそこで会話するのをやめ、あまり接点のないような関係に戻った。


 といっても、やはりそれは見掛け倒しで、一限の授業中からスイスイくすぐったく三月さんの指先が俺の背中を這う。


 慣れつつあるとはいえ、今でもこれが始まるとドキッとする。


 だって、平気で『好き』とか『ラブ』とか、大胆に書き込んでくるんだから。


 どうにかこうにか気付かないふりで凌ぎ続けてるけど、俺自身表情に出やすいタイプだから、気付かないふりも近いうちにバレてもおかしくない。


 いつまで続くかはわからないけど、なんとしても隠し通し続けなければ……。


『そういえば、せきやくん』


『はい。なんでしょう?』


『さっきのおはなしにもどりますけど、せきやくんはどうやっていままでおともだちをつくってきたんですか? えんぜつかつどうをしているのでしょうか?』


『それはしてないし、もはや選挙戦じゃんそれ』


『そうじゃないのですか? みずからのかちかんにそったひとをそれであつめていく、みたいな』


『いやいや、そんな大層なことまでしなくても友達は作れるはずだから!』


 重症だと思った。今までの学生生活でぼっちだったということがひしひしと伺えて、ひどく悲しい気持ちになってくる。ていうか、周りの人たちがどうやって友達を作ってたかとか、見てなかったんだろうか。間違っても演説活動なんてしてないはずなんだけど……。


 気を取り直して、自分の友達の作り方を簡単に振り返ってみてから紙に書き込み、それをそっとうしろの三月さんに渡した。


『ふむふむ。しゅみのおはなしからなかよくなる、ですか』


『うん。授業中のグループワークとか、部活とか、何でもいいけど、誰かと会話できる機会ってあるよね?』


『はい』


『そこで趣味の話とかしてみて、同じことを相手がしてたらその時点で割と仲良くなるっていうのが多いかも』


『では、もしもそのあいてのかたがおなじしゅみをもっていなければ?』


『だったら、適当に今日授業であったこととか、他愛もない話で場を繋げるかな……。それっきりだったらそれっきりだし、そこで盛り上がれたら、趣味を共有できなくても仲良くなれる可能性はあるから』


『な、なるほど……。べんきょうになります』


『うん。まあ、パッと思いつくのはこれだけかなぁ……。ごめん、俺も友達多い方じゃないから』


『いいえ。ありがとうございます。やっぱりしゅみですか……』


『かなぁ……?』


 アインクラフトを利用して友達を作ろうってやり方は間違ってないと思う。


 プレイ人口も多いし、クラスでやってる人は絶対いるはずだ。


 だから、問題はそこじゃない。


 クラスメイトの三月さんへの恐怖なんだけど……。


 ……あ。


 ハッとした。


 いいことを思いついたのだ。


『三月さん、ちょっとだけいいこと思いついたかも』


『いいこと、ですか?』


『うん』


 俺は思いついた『いいこと』について、サラサラと紙切れに書き込み始めるのだった。

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