第二章 異世界再教育編

第十三話 「次なる道へ」


 カンッ カンッ


 大きな屋敷の中から、鉄をひたすら叩く甲高い音が響く。


 カンッ カンッ カンッ


 その音はここ数年鳴り響き、ほんの短期間くらいしか静かな時は現れない。


 段々とテンポが速くなっていき、やがて終わりを迎える。



 カンッ!!



「――ふぅ、完成。どれどれ? 出来栄えは……」



 筋力増強の剣 完成度78%

 ノーマルウェポン・ネームレスウェポン

 付与能力 筋力増強(効果・中)

 武器ランク B−



 目の前に剣の能力を示すゲーム画面のようなものが現れる。


 武器能力理解でその表示を見た俺は、疲れ切った表情と溜め息をついた。


「……また同じ能力が付いたか。まあ、あって困るもんじゃないが、毎回ランダムってのはちょっとバランス崩れるんじゃないか?」


 ――あの終わりの日から、約五年の月日が経った。


 このクラウス邸に来て次の日から、一番奥の、目立たない部屋を貰った。


 そして自分の部屋に異次元鍛冶場を顕現させてほぼ毎日、こうして金槌を振り続けている。


 たまにクラウスに剣の特訓などに駆り出されていたが、俺はただ逃げてボコボコにされているだけだったのであまり記憶にない。


 俺はラバンのようになればいいと最初に考えた。


 俺も戦えるようになれば、あのクソ悪魔をぶちのめしてやれるからだ。


 しかし問題がある。……俺はものすごく弱い。


 剣術とか魔法が一切使えないのでそこをカバーできるものが必要だった。


 今出来ること、それはただ一つ。


 そうだ、強い武器を作ろう。


 自分に戦う才能が無いなら武器から恩恵を貰えばいいと考えた。

 作る才能なら優れているものを持っているからな。


 もう俺にはこれしか強くなれる方法はない。

 俺は毎日腕を磨くようになったってわけ。


 もうすぐスキルが増えてもいい気がするけどな〜。


 ステータスプレートどっかに無くしちゃったから、詳細がわからないんだよね。

 俺の鍛治師としての技がどれだけ伸びたか知りたい。


 この五年間、俺が作り上げた武器の数は約三百五十個を超えている。


 自分でもちょっとわかるね、昔の俺とは違ってきている気がするんだ。


 成長は、確実にしている。というかしてなきゃ困る。


 異次元武器個のサイズも大きめの倉庫ぐらいに拡張していた。どうやってグレードアップしたのかは不明。


 でもおかげで収納が楽だ、持ってて良かった。

 これがあれば、完成した武器の置き場所に困らない。

 色んな能力の付いた武器を量産することができた。


 ノーマルの武器こそ多いが、中々良いものも作れたらりする。


「エバン、昼食をお待ちしましたよ」


 部屋のドアがコンコンとノックされる。


 もう昼時か。そろそろ休憩しよう。


「入っていいもいいぞ〜」


 俺は返事をして、異次元鍛冶場のスキルを解除する。

 たちまち鍛冶場は少しだけ小綺麗な俺の自室に変化していく。

 ドアが開けられてわずか二秒の超早技だ。


「ありがとう、メアリ。わざわざ持ってきてくれて」


「本当ですよ、すごい面倒でした」


 ……………。


「防音とか何とかならないんですか? 朝からもううるさくてたまらないのですが」


「……ならない。そこまで便利じゃないのだよ」


「ならいい加減屋敷に取り付けた鍛冶場でやって下さい。お金の無駄です」


「た、たまに行ってるって。今度からはそうするよ」


「それ聞いたの何回目でしょうね。旦那様が何もおっしゃらないから見逃しているだけですからね」


 この俺に向ける視線は大体ジト目で俺にだけ口が悪いメイドはメアリだ。


 前はあんなに小さかったのに身長が伸び、大人っぽい雰囲気のある女性に成長した。


 俺に対する態度は少し和らいだけど、毒舌なのは直らなかったね。

 同い年である俺より少し背は小さいが、しっかりしている所は変わらない。


 16歳にしてメイドとしての職務を全うしていた。


 ちなみに俺はというと、背が170cmくらいに伸びて体格が良くなったな。


 まあ、それだけ。


「こうやって毎日エバンが特訓している音を聞いていると、私達もなんだか元気が湧いてくるからね」


 いつの間にそこにいたのか、俺を養子として引き取ってくれた恩人であるクラウス・オーグナーが声をかけてから部屋に入ってくる。


 ここに来るとは珍しいな。


 メアリがクラウスに頭を下げる。


「何か用か? 今から昼食を食べようかと思っていたんだが、それのお誘いか? それならここでということになるが」


「いや、それはまた今度にしよう。それと、先に君にはこれを返しておこうと思う」


「?」


 そう言って、クラウスは妙に見覚えのある銀色に光る鉄の板を……………。



 ――それ、俺のステータスプレートじゃん。



「何でクラウスが持ってるんだ? あ! 落ちてたやつを拾ってくれたとか?」


「いや? それは私が君を王国に運ぶ際に預かっていたらしくてね。返し忘れてしまったんだよ笑っちゃうよね」

 

 何笑っとんねん。


 ご、五年前だと? その間どれだけ探したと思ってんだ!!


 このプレートは特別製だ。

 無くしたからと言ってホイホイ作れるわけでは無かった。


 だから、もう探すのは諦めていたのだが…。


「これ、どんだけ探してたと思ってんの? というか、クラウスも一緒に探してた時あったよな?」


「ごめんごめん、ずっと持ってました!」


 ずっと持ってましたかそうですか! このイケメンが!


 はあ、でも帰ってきてくれてよかったな。これでようやく自分の成長具合が見れる。


 ……少しワクワクするな、少しだけ。


 俺は久々に自身のステータス詳細を拝見した。


 

 エバン・ベイカー 16歳 男

 アルセルダ王国登録住民


 スキル 工鉄の意思:S−(生成技術統合済)

     武器能力理解:A+

     武器生成時能力付与:S−

     鉱物探知:C+


 ユニークスキル 異次元鍛冶場作成

         異次元武器庫:A

         負のスキルボード

         (真・モード未解放)


 魔法適正 なし

 魔法   なし



 「……………………何これ?」


 え、これ本当に僕のやつですか?


 間違えてるだろ。


 だって、スキルの詳細欄がまるで記憶にあるのと合致しないんですが。


 Sとか二つ付いてるよ? 絶対僕のじゃないじゃん(笑)


 だが、名前の欄にはしっかりと『エバン・ベイカー』と書かれている。


 あれ?

 これ知らないうちに俺Tueeeルート入っちゃってたのか?


 ……鍛治師で俺Tueeeって何だ。

 

「君のステータスを先に見させてもらったけど、流石に上級レベルじゃないね」


 そうだ、五年でこれは異常だ。


 毎日鍛錬していたとしても、B+、A−止まりだと思っていた。


 しかしこれは何だ?


 鉱物探知は全然使っていなかったからまあわかる。

 でも工鉄の意思とかなんかカッコイイ名前になっている。

 統合済みって二つしか無かっただろうが。


 能力付与のスキルも前はEだったのにSまで上がっている。


 極め付けはこの、「負のスキルボード」。


 まさかユニークスキルも一つ追加されているとはな。


 これが俺の成長と何か関係しているのだろうか。


「何ともマイナーそうなスキルが増えてしまったね」


「マイナー?」


「『負のスキルボード』、そのスキルはユニークだが、複数の人間が手に入れることがある。怒りや悲しみ、苦しみなどの負の感情を糧として成長できると言われているスキルさ」


「じゃあ、これを手に入れた時って」


「イーリッチ村襲撃の日、そのすぐ後かもしれないね」


 ……負の感情で成長。


 確かに俺は目当ての武器が作れなかった時とか、バールの奴を仕留めるという憎しみを込めて武器を作ったりしてた時があった。


 怒りやら憎しみやらが「負のスキルボード」に吸収されて、スキルの経験値に変換されていたってことになるな。


 なんかやだな。

 正義感がないスキルだ。


 ……あと「真・モード」って何だよ。


「本来ならそれは犯罪者や鬱病の人たちが持っていることが多いのだが……。エバンは大丈夫だよね?」


 おいやめろ。


 そんな疑うような目でこっちを見るな。

 メアリはなんか本気っぽく見えるから余計に刺さるんだよ。


 そんなに愛されてないスキルだったのか?


「はあ、予想外の成長が見られましたね。ではこれから昼飯にするからご退出願おう」


 考えるのは後にしておこう。


 どんな形にしても、俺はレベルアップできたんだ。

 それを素直に喜ぶべきだな。


 でもお腹空いたから後でね。

 

「そうだね、私はこれで……ってそうじゃない。君にお願いしたい、やってほしいことがあってね」


「何だ、まだ何かあるのか? もしかして、初の仕事が来たのか?」


 こんなにも優秀な鍛治師が生まれたのだ。


 そろそろ自立できるような仕事を貰える頃だろうとは思っていたんだよ。


「そうじゃない、もっと大事なことさ」


 え〜違うの?


 じゃあ他に何が……。



「エバン、君には学校に行ってもらう!!」


 ――え?


「入学試験は明日だから、早急に準備をしておくように!!」


 ……………………は?

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