第十四話 「試験」


 ああクラウスよ。


 どうして、大切なことを前日に言うことが好きなんだい? 僕はもっと前々から言っておいてほしいよ。


 お父さんもそう思うだろう?


 俺は早朝、クラウス邸の近くにある神聖墓地にやってきていた。

 この神聖墓地には、俺の父親ラバン・ベイカーが安らかに眠っている。


 五年前に俺を死の局面から守り、

 そして生きることの熱さをくれた。


 最も愛に熱いとされる男、それがラバンだった。


 今でも思い返してしまう。


 あの時、俺が家に向かわなければ、

 恐怖を跳ね除けてその場から離れられていたら。


 だが、あの男はこう思うことを決して望んでない。


 前を向いて歩き出すことを、

 生きることを『諦めてはならない』。


 もしこの場にいるなら、そう言うだろう。


「お父さん、あなたに似て事前に大事なことを言わない人がいるんだ。そうだよクラウスさ」


 俺は墓石に備えてある花立てに、百合っぽい真っ白で綺麗な花を添える。


「今日、学校に入る為の試験を受けることになってるんだ。なんか勝手に入学希望届け出されててさ。俺、合格貰えるかな〜、不安になってきたよ」


 この声が届いているかは誰にもわからない。


 でも、意味が無いことは無いと思う。


「ま、舐められない程度には頑張るよ。その学校、魔法が使えなくても入れる可能性はあるんだってさ」


 ラバンに俺の今日の意気込みを伝える。

 これをすれば、俺はなんだか心が温まる。


「じゃあ行ってくる。こんな壁余裕だと思うけど、良かったら天から応援していてくれ」

 

 俺はそう言って墓所から出ようと歩き出した。


 よし、向かうとするか。


 俺の新たなる世界、異世界の学び舎へ。



**


 

 アルセルダ第一地区能力育成国立学園、

 通称「青色学園」。


 この世界に蔓延はびこる魔属性に対抗するためや、

 将来生きていく為の知識を獲得するなどを目的として作られた育成学校。

 

 なんか長ったらしいので、皆地区の名前で省略して呼んでいる。


 アルセルダ王国はとても広い。

 そのため地区で分かれており、第一から第四まである。


 俺が住んでいる地区は第二地区「レッド」。


 その色が彩られているわけでもないのに何故そう呼ぶのか、それはアルセルダ王国を建国した王に使える使者の魔法属性の色から来ているらしい。


「ブルー」「レッド」「ホワイト」「グリーン」。


 と、水火光風の属性色からなっている。

 

 この王国に四つの学校があり、


 スキル、魔法などの多様な能力育成に特化した『青色』。


 剣術や槍術などの武術を鍛えるための『赤色』。


 魔法を学ぶ、極めるのに打って付け『白色』。


 授かったスキルをもっと磨くことができる『緑色』。


 とまあ、得意分野に沿った学校がある。それぞれ自分に合った所に行くことが可能だ。


 俺が入学しようとしているのは「青色学園」。


 今その学園の門の真正面に到着し、

 試験を受ける為の場所に移動している最中だ。


 ぞろぞろと受験者らしき若い学生、同い年ぐらいの敵が集まっていた。


「お、おお……」


 広大な敷地の中には文字通りの青色の屋根に、頑丈で綺麗に重ねられたレンガで造られた校舎。


 迫力のある大きな門に、一際目立つ闘技場のような建物まで。


 色々な設備が揃っていそうな金の匂いがする学校を歩きながら見渡した。


「すごいなこれ、前世でも中々見れないタイプだ。流石中世異世界ファンタジー」


 ここでは多様性のある教育が受けられるそうで、クラウスから絶賛の声を聞いている。


 クラウスもここの卒業生だったようだ。


 ……この学園に入学させる経緯はこうらしい。



『まず、君はこの世界の常識を知らない。

 次に、自ら魔王軍と戦うには、中級騎士などになれなければ戦場に行くことすら許されない。

 最後に、資格を取るなら学校に行くのが手っ取り早いよ』


 とのことだ。


 名の売れた鍛治師として成り上がって戦えるようになったとしても、

 ラバンのように特別な状況下に居なければ、危険、未熟などの理由で判定されて戦闘許可は降りないらしい。


 その力を示せるような資格を取ることが必要だ。


 その事を見越してクラウスは試験の受付を前々から希望してくれていたらしい。


 何度も言うが、もっと早く話せ。

 一番困るの俺なんだからね?


 でも正直嬉しかったりする。


 まさか高校二年生で終わった学園生活をまたエンジョイできるかもしれないのだから。


 もうプロの鍛治師まっしぐらかと思っていたからな。


 無知のバカだったが、

 ここでようやくこの世界の知識を得ることができるチャンスだ。


 おそらくこれに合格するか否かで未来の道の選択肢が限られる。

 今からそれを決めるテストが行われるのだ。


 試験は入学希望者が多いので、三日間に分けられる。


 運が悪いことに、その一日目に受けることになってしまった。

 チクショウ。


 俺はクラウスに貰った試験の時間割表を取り出して予定を確認する。

 

「えっと、まず一番校舎に向かって1ー2クラスの教室で……筆記テストか」

 

 出た、今日の最初の難関「筆記テスト」。


 己の知識の全てをフル稼働させて挑む全世界共通の採点法だ。


 この学校の筆記テストは全部で五つ。

 数学、一般知識、生態学、地理、最後に歴史だ。


 この世界に転生してきて早十六年。


 今まで鍛冶場に入り浸っていたので、

 まともに勉強なんてしてこなかった。


 たまに屋敷の書籍の本を摘んだくらいで、

 頭はそこら辺の子供よりも悪いんじゃないかと思ってしまう。

 

「でも大丈夫! メアリに徹夜で無理矢理基本的な知識を叩き込ませてもらったからな。本当にあの顔は心に来たぜ!」


 数学とかは正直諦めているが、必須ワードはある程度覚えられた気がする。


 昔から覚えだけはいい。

 今日はそれに頼るとしよう。


 今盛大なフラグを立てた気がするけど、

 無視しましょうね。


「1ー2教室で筆記試験を受ける者はこちらで待機していてください。まもなく開始します」


 試験監督の指示に従って教室に入り、自分の名前の紙が置いてある机に移動し座る。

 

 試験監督から注意事項などを聞いて開始の時刻が迫る。


「では、始めて下さい」


 こうして第一の壁、「筆記テスト」が始まった。



**


 

「――はい、終了。……二つの意味で」


 こういう言葉を使ったことが一度はあるのではないだろうか。


 筆記試験は午前で終了。


 やっぱり甘くなかったか。

 俺みたいな一日も勉強していないヤツが簡単に点を取れる問題ではなかった。


 一般知識、生態学、地理は書ける所は書くことができたが、数学と歴史はまるでわからなかった。


 三十問ほどあった問題で解けたのは多分五問くらいだろうか。


 ………………これ大丈夫か?


 ここが日本教育ならばもう論外なのだけど。


 テストは全部で二つ。

 午前の『筆記テスト』、そして午後の『実技テスト』だ。

 この二つの総合点で決まるらしい。


 異世界学園物の定番、実技テスト。


 前世には無かった魔法やスキルがあるおかげで成立できるものだ。


 本来ならここで異世界転生者が無双し、

 歴代の記録を軽く上回る実力を発揮するところなんだが……。


 俺は鍛治師だ。


 魔法も使えないし、目立った強いスキルは無い。

 武器に頼るだけの一般人。


「………本当に大丈夫かな」


 テストは試験専用の体育館のような施設で一人ずつ行われる。

 自分の個性を魅せて点を稼ぐのだ。


「エバン・ベイカー君ですね? 私が試験監督を務めさせていただきます、マローです」


 試験監督の女教師マローが丁寧に挨拶をする。


 きっちりしてそうだなあ。

 採点基準何とかして低くして貰えないですかね?


「では試験内容をお伝えします。一回しか言わないのでしっかり聞いていてください」


 簡単に要約しておくぜ。


 まず披露する魔法やスキル、武術などの技を一つを決める。


 次に決めた項目を試験監督に伝えて、それぞれにあった採点対象となる的、オートバトルマタなどを希望して用意してもらう。


 準備が整ったら試験開始。

 

 なるほど、見せるものは選べるわけね。

 流石多様と言われるだけはある。


 まあ俺が見せられるのは武器しかないわけだけど。


 ――よし、これでやるか。


「それじゃあ、スキルを使います。遠くに的を用意してもらってもいいですか?」


「的ですか? 遠距離系のスキルということでよろしいですか?」


「いや、そういうわけではないのですが……多様性のあるスキルです」


「わかりました。今的を設置しますので少しの時間待機していてください」


 武器の力を俺のスキルとして見せかける。


 これが俺の考えた戦法だ。

 通用してくれると助かるのだが……。


 しばらくして施設の遠くに一つの的を設置してもらえた。


 そろそろ始めようかな。


 俺は右手を前に出して構える。


「始めてもよろしいでしょうか?」


「はい、よろしいですよ。一回限りのチャンスなので、最大限の力を発揮してくださいね。それでは始めてください」


 実技試験は開始した。

 

 俺は一息入れた後、スキルを使った。


 『異次元武器庫』から剣を素早く取り出し、

 すぐに能力を発動させる。


 剣は横になり俺の手のひらの前に浮く。


 取り出したのは、『スナイプブレード』なるものだ。


 『スナイプブレード』、それはその名の通り、銃の弾丸のように発射させることができる剣。


 この武器を作った時、大きな可能性を感じたものだ。

 

 おっと、感情に浸っている場合じゃないな。


 剣は周りに風を纏い、

 俺は的に照準を合わせ集中する。


 「さあ、飛んでいけ!」


 付与能力を最大に引き上げ、そう言い放った。


 その瞬間に、剣は的目掛けて高速で射出。

 風が勢いを増し、ヒュンッ! といった音を立てる。


 そして、スコーンと的に直撃、見事中心に当たることが出来た。


「よし!」


 どうよ、これ。完璧じゃないか!


 俺は試験監督の方を見る。


「………………………………」


 マローは口を開けて微動だにしない。


 予想外、何が起きたか分からないといった面白い顔をしている。


 お? この反応はいいんじゃないか?

 どうやら俺の考えた作戦は無事成功したらしい。


 こうして、前日伝達の入学試験は終わりを迎えた。

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