第17話 三ヶ月ルール

 俺達は、向こう三ヶ月間のお互いの生活についてのルールを決める事にした。


 一緒に暮らす案がタカノトモミの口から飛び出したが、さすがにそれは却下。


 タカノトモミは自分の身体を抱くコトに興味津々のようだが、それは絶対にしない事とした。

 絶対にだ。


 その他には。


 お互い、誰かとデートくらいはしても良いが一線を越えない事。


 毎日、定時に連絡を取り合う事。


 一週間に一度は会う事。


 互いの足りない部分は補い合う事。



「週一で会うのは多いような気がするけど、なんか別居夫婦のルールみたいだねー♪」


「何でそんな軽いノリなんですかっ」



 トモミは明るい性格なヤツだ。

 陰キャな俺からは眩しく映りますよ。



 タカノトモミの『ふにぷにおもち』としての活動についても話し合った。


「メディアに顔出しするコトなんて無いんだし、私が『ふにぷにおもち』としてイラストを描けばいいんじゃないかな?」


 身体はおっさんでも中身はタカノトモミなのだから、デジタルイラストを描くにあたってはさほど支障はないらしい。


 身長や手の大きさの違いからくる『感覚のズレ』はすぐに慣れる、と言い切るあたりに自信が溢れている。


「ほんとに大丈夫ですか?」


「さあ。なんとかなるんじゃない?」


 軽いな、おい。

 だが。トモミの、俺の表情に曇りはない。


「サラリーマンの仕事をしながらって、スゴく大変だけど……三ヶ月も何もしないなんてもったいないでしょ?

 オジサンの身体になったからって、絵を辞める理由にはならないもんね」


「まあ、それもそう、ですね……」


 サラリーマンの朝は早い。夜は遅い。

 残業なんてした日には、朝から朝まで仕事してるみたいな感覚にさえなる。

 時間を捻出してイラストを描くって、大変な努力と労力が必要だ。


 それでも『描く』というのだから、タカノトモミのモチベーションの高さには驚かされる。



「オジサンもさ、書いてよね。小説」


「えっ?」


「諦めたら終わりだけど、諦めなければ終わりじゃないんだよ?

 三ヶ月の間、何もしないつもり? あ。私の身体でやらしいコトする気でしょっ?」


「しませんよっ。それは約束しますっ!」


「ふ~ん。オジサンみたいなヒトもいるんだねー。若い女の子の身体を手に入れたら、するコトなんて『アレ』しかないと思うんだけどなあ」


 タカノトモミの好奇心からくるものなのかドコから得た情報なのかは知らんが、俺を安く見ないでくれるかなっ。

 

「とにかく。

 三ヶ月の間、お互いに連絡を取りながら生活するしかないですよ。ふにぷにおもちさんの仕事が減ってしまったのは申し訳ないですけど……」


「んんー? オジサンが謝るコトなんて無いんじゃないかなあ?」


「え?」


「だって、オジサンは被害者でしょ?

 私がマンションから落ちて、オジサンを巻き込んじゃったのが全ての始まりなんだし?」


「えっ。でも、その。二人の身体が入れ替わったまま生き延びたのは、俺が、あ、私が落ちなかったからこうなってるのであって、時間軸がズレたというか、脚本が変わったというか……」


「オジサンの説明は小説っぽいなあ。まあ、三ヶ月の間、楽しもうよ。ねっ?」


 ポジティブシンキングと言うか、軽いと言うか、ノーテンキと言うか。


 その明るい性格を俺にも少し分けて欲しいものですよ。


 トモミは、デジタルイラストを描くのに必要なパソコン一式を持って帰る事に。

 デカいタブレットもだ。

 トモミの身体では持てないであろう大荷物も、俺の身体なら何の苦にもならないみたいだった。

 パッと見、夜逃げか泥棒かって姿が笑えたが。


「駅まで手伝いましょうか?」


「オジサン、意外とチカラ持ちみたいだから大丈夫♪」


 オジサンて言うな。

 オジサンだけど。


 こうして。

 三ヶ月限定で、二人の奇妙な関係は続く事となったのだった。

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