第18話 報告会

 タカノトモミには彼氏がいた。

 イケメンだし、優しくてイイヤツだ。


 事件の事も親身になって気遣ってくれていた。

 描けないのは精神的ショックのせいだよと慰めてくれた。


 年齢はおっさんの俺と同じ三十代前半。

 雑誌の編集者だ。


 イイヤツだが、既婚者だ。子供もいる。


 ある意味、クズだ。


 要するに、俺は。トモミは、愛人だ。

 JKを愛人になんて犯罪だろ。18歳だからセーフなのか?

 イヤ、ダメだろ。


 ある時。


 不意打ちだった。

 彼氏のヤツにキスされて、おっぱい触られた。


 全力で拒否したら驚いてた。


 彼氏とはそれ以上の仲にはなっていないが、彼氏のヤツは、ヤリたくてヤリたくて仕方ないみたいだった。


 だが、中身がおっさんと知ったらどんなに驚くだろうか。


 即、別れるだろうか。


 タカノトモミは、コイツが既婚者と知って付き合ってたんだろうか。


           ◇


 慣れとは時に恐ろしいものだ。


 俺にとっては、女物の下着がそうだった。

 ブラジャーめんどくさいとか、なんでパンツがこんなにも小さいんだとか。


 そういう類いのモノにすぐに慣れてしまった。


 元の身体に戻った時に、ブラジャーや小さいパンツが恋しくなったりしませんように。

 女物の下着を愛好する輩もいるらしいが、俺はそっち側じゃないからな。

 


 生理痛は最悪だ。辛い。


 世界よ滅べと呪い文句を吐きたくなるくらいに辛い。

 この身体が特別そうなのかどうかは解らないが、とにかく辛い。


 世の多くの女性がこの生理痛と戦っているのかと思うと、女性への見方が変わるというものだ。

 子供を産む為に必要な生理現象とは言え、過酷だ。過酷すぎる。


 尊敬しますよ、本当に。


           ◇


 ある日。

 彼氏のヤツは奥さんに浮気がバレた。


 もう会わない。

 そういう話になった。



 また、ある日。

 そいつの奥さんが殴り込みに来た。


 キレイな奥さんだったが、怒れるその表情はまさに鬼嫁。


 ドロボウネコと罵られ、平手打ちされた。

 なんで俺がこんな目に?


          ◇


「と、まあ、いろいろあったんですよ」


 一週間ぶりに会う、トモミとのデートのようなもの。

 何度目かの報告会だ。


 カレシの浮気が奥さんにバレて別れたコト、奥さんに平手打ちされたコトなどをつらつらとトモミに話してあげると、トモミは頷きながら、時に大袈裟にリアクションしながら俺の話を聞いてくれた。


 俺ってそんなキャラじゃないんだがなあ。


「へーえ。大変だったんだねえ」


「君は、その……アイツが妻子持ちだって知ってたんですか?」


「え? あー……まあ、うん」


「あいつのコト、好きだったの?」


「えー? わかんないなあ……いずれは別れるんじゃないかな、ってなんとなくは思ってたけど」


「ドライというか、冷めてると言うか。イマドキの娘ってそんなものなんですか」


「オジサン、私の処女を守ってくれたんだねー。それってポイント高いよー?」


「不倫はダメです。当然です」


「うん……ありがとね」


 ありがと、か。

 なんだかくすぐったい気がするのは、何故だろうかな。



「じゃあ、キミは?」


「ん?」


「率直に訊きますよ。俺の、あ、私の身体で、なんかしました?」


「デートしたよ。映画見て食事しただけだったけど」


「え!? 誰とっ!?」


「美人上司と」


「えっ? ツカハラさんとっ?

 なんでっ? どうしてそうなったんですかっ?」


「ふふっ。慌て過ぎだよ。『たまには付き合いなさい』って誘われたんだよ。あのヒト、オジサンのコト好きだと思うよ?」

 

「えっ!? なっ、なんでっ?」


「んー、女のカンってヤツかな?」


「……中身はJKでも身体はオトコなのに、女のカンなんて働くんですか?」


「んー? それもそうだねー!

 アハー! ウケるー!」


 ウケる要素がドコにある?

 膝をぺちぺちと叩きながら笑うのだけはやめてくれないか。見てる俺がこっぱずかしい。


 いや、それよりも。

 冷血と名高いツカハラさんに好かれている?

 にわかには信じがたいが、非常に興味深い話ではあるな。


「ツカハラさんには、嫌われてるとばかり思ってたけど……」


「イヤよイヤよも好きの内って言うでしょ?それだよ、きっと」


「……それ、意味が違いますよ」


「あとねー。BLって知ってる?」


 びいえる? って、オトコ同士のラヴのコトじゃなかったか?


「同僚にムキムキマッチョなのいるでしょ?」


「タカダでしょ。筋肉が自慢なんですよ、アイツ。それが?」


「ちょっと大胸筋触らせてくれよー、って言ったらめちゃくちゃ喜んで触らせてくれたよ?」


「はあ。そうなんですか」


 ……って、おい、ちょっと待てい。

 その話の流れで言うと、俺とタカダがびいえるな関係になるってコトかっ!?


「オカシナ噂が立っちゃうから、変なスキンシップはやめてくださいねっ!?」


「アハハー! わかってるよう♪」


「……ホントにわかってます?」



 年齢的には十歳以上も離れているのに、トモミと話すのは楽しい。

 この報告会と称したデートのようなものを楽しみにしている俺がいる。


 俺達は端から見ると恋人同士に見えたりするんだろうか?

 あと何度、この報告会が出来るんだろうか?


 お互い、元の身体に戻れるんだろうか?


 いずれは終わるこの奇妙な関係を、もう少しだけ続けられたら。と思ってしまうのは……ワガママかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る