第16話 おっさんのJKに迫られるJKのおっさん

 マンションに入ると、トモミは真っ先にパソコンのある部屋へと向かった。



 カードイラストの仕事は他の絵師に流れた事を話すと、トモミは「仕方ないよ……」とだけ言って静かになった。


 締め切りを守れなかった事は絵師としては失格だろう。

 だが、この状態ではイラストの仕事もままならない。

 ド素人の俺がいじくり回していい訳がない。



 ほんの数秒の沈黙が無限にも感じる。



「私のパソコン、キレイに掃除してあるけど全然さわってないんだね」


「だって、キミの大事なものでしょう? 勝手にどうこう出来ませんよ」


「そっか……ありがとう……」


 ありがとう、か。

 礼を言われるようなコトだったかな?



           ◇



 ファミレスでのタカノトモミの言動から察すると、そうなる事は予想出来た筈だった。


 アプローチしてきたのはタカノトモミの方だ。



「ね……しよっか?」


「……何をですか?」


「えっちなコト」


「……は?」


「うわ、いいね、そのドン引き顔!

 私ってそんな反応するんだねー!

 面白ーい! あははっ!」


 何が面白いのかさっぱりわからん。

 JKの笑いのツボなんてオジサンにはわからん。

 と言うか、俺の顔で何を言ってくれてるんですかね?

 

「トモミちゃんは未成年だけど18歳以上だよ?

 お互い同意なら犯罪じゃないんだよ?

 それにさー、えっちしたら元の身体に戻れるかもしれないよ?」

 

 なんか詳しいな、トモミよ。

 やっぱりそういうお年頃だからか?


「え~? 同人誌じゃあるまいし……」


「自分の処女を自分で奪えるんだよ?

 こんな体験そうそうない!

 そんなコトできるのって、エロマンガか同人誌かweb小説くらいだよ?」


「あのねえ。エロマンガと同人誌とweb小説を同一線上に並べないでくれるかな?」


「ドウイツセンジョウ?

 私がムズカシイコト言ってるー!

 なんかウケるんですけどー!」


 ケラケラとトモミが、つまりは俺が明るく笑う。

 何がウケるのかサッパリわからん。

 俺の顔で『ウケる』とか言うなよ。


「オジサンは童貞じゃないよね?」


「え。まあ、そうですけど」


 最後にしたのはいつだったかな……そう言われてみれば、年単位でそんなコトはしてないな。



「センズリって、千回も擦れないよねえ?」


「はっ!?」


「千回擦るからセンズリっていうんでしょ? ムリじゃない?」


「……したの?」


「うん。オジサ……じゃなくて、トモミちゃんは? なにもしてないの? オナぴーとか」


「しっ、してないですよっ! 出来るワケないじゃないですかっ」


「えー? ホントにー? もったいないなあ。ぴちぴちのJKなのにぃ」


 ぴちぴちって、おい。

 自信アリアリだな。


「て言うかね、君の身体だよ?

 君がおっさんに抱かれるってコトなんだよ?」


「私はいいよ。オジサンになら。最初はキモかったけど、磨いたらマシになったしね」


 おい。マシとかキモいとか言うな。

 

「……いいの?」


「青臭いアオハルマンガとかじゃないんだからさー、もっと簡単に考えればいいんじゃない?

 こうなっちゃったのって、私たちにはもうどうにも出来ないコトでしょ?

 だったら人生楽しまなきゃ!

 私は、私を抱いてみたい!

 オジサンはどう?

 オジサンに抱かれるなんて、やっぱり無理?」


 イヤ、まあ、むっさいおっさんならイヤだったかも知れないが、今の俺はこざっぱりしたちょい爽やか青年だ。

 

 絶対にイヤとは言い切れないが、いくら女の身体だとはいえ、自分に抱かれるってのは……ちょっとなあ。


 待て待て、よーく考えろ。

 おっさんの俺がJKを、しかも初めてだっていう女の子を抱いていいワケないだろう。

 ここは全力で拒否るべきだ。


 それが大人ってものですよ。


「だっ、ダメです。絶対にダメっ」


「えー? 私の身体なんだよ? 私がいいって言ってるのにー」


「それは好奇心からくるものであって、お互いの気持ちを無視してるでしょう? だから、絶対にダメです!」


「えー?」


「それに!

 もし妊娠しちゃったらどうするんですかっ?

 二度と自分の身体に戻れなくなるんですよっ?」


「ゴムなら持ってるよ?」


「えっ!?」


 なんで持ってるんだ、そんなモノっ?

 

「だっ、ダメって言ったらダメなんです!

 それよりも、これからのコトっ、ちゃんと話し合いましょうっ! ねっ?」


「……は~い」


 俺の理性が勝利した。

 自分の理性が性欲を上回ったのだ。


 よかった。


 サカったオスを宥めるコトに成功したようだ。


 

 ……ちょっとだけ残念だが。

 ってのが本音に無いワケではない。

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