第47話 前へ1

 プロローグ



 矢部高和は以前、自らのバトルアーツであるシーザに言った。

「人が苦しむところを見たい」

 するとシーザは答えた。

「わかった。その代わり復讐につきあえ」

「お安い御用だ」

 そしてその願い通り、シーザは多くの人間の苦しむ顔を見せてきた。その度に矢部は愉悦に顔を歪ませていた。

「高和、そろそろ仕上げといこう」

「わかったよ、カイル」

 そして矢部はシーザとファーブニルを持って部屋から出た。



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 ラディすけは多少落ち着いたものの、やはりイライラしていた。それは守人も同じで、怒りの矛先は矢部高和と彼のバトルアーツ、シーザに向いていた。

「よォ、天野ォ」

 なんて鎌瀬が挨拶しても、二人とも見向きもしないほどだった。鎌瀬もその気迫に驚き、挨拶した以外何も言えなかった。

 校門を通り、下駄箱で上履きに靴を履き替える。階段を上がり三階へ到達したら教室に入る前に一呼吸おいた。

「モリト行くぞ!」

「ああ!」

 教室に入るとまず自分の席に荷物を置く。そして隣の席を睨む。

 そこに矢部はいなかった。

「臆して逃げたか」

 ラディすけはモリトの肩から机の上へと飛び降りた。

「また何か悪巧みしているのかも?」

 教科書とノートをランドセルから取り出し、机の中へとしまった守人は席につき、そんなことをラディすけに語りかけた。

「十分ありえる線だな」

 矢部はその日も学校を休んだ。それはただ単に体が弱いからという、先生が言っている理由とは到底思えなかった。やはり何か企んでいる。そうとしか思えなかった。

「何が来ようと食いちぎる」

「そうだね。僕も矢部君に言いたいことあるし」

 差し当たって二人は勉学に励んだが、とても頭に入ってこなかった。ノートもなんとなく力が入っていないし、ラディすけに至っては窓の方をじっと見ている始末だった。

 しかし矢部は現れない。当然だ。今日は休みなのだから。.


 放課後となった。生徒たちはどんどんと帰宅の途についていく。

「やっぱ来なかったね」

「シーザ、あのヤロウ……」

 ランドセルに教科書とノートを入れ、二人も下校しようと校門へと向かった。

 肩透かしを食らった感じがする。矢部たちが恐れをなして逃げた気がして、怒りも落胆に変わろうとしていた。

「帰ろうかラディすけ」

「一度帰って公園に行こうぜ。そうすりゃヤツもいるかもしれねえ」

 学校の外に出たところでヤツがいた。憎い相手、ドラゴンに変化したヴァルきちも一緒だった。

「やあ、天野君」

「矢部君」

「今日も来ねえから、逃げたかと思ってたぜ」

「お前ごときに逃げるわけないだろ? 救国の勇者殿」

 そしてラディすけ、シーザは地面におり、守人はランドセルを地面に下ろした。

 風が、両者の間を通り過ぎていく。

「ファーブニル、キミも行くんだ」

 レッドドラゴンは大きく羽ばたき、シーザの隣に降り立った。

 一触即発。今まさに、戦いが始まろうとしていた。

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