満月─1話

藤堂くんと話したあの日から数日後、私は事故に遭った。事故の内容は交通事故。車によって轢かれたのだ。命に別状はないが、酷い傷を背負いとてつもない数の針を縫ったらしい。私が嫌で何本の針を縫ったの聞かなかった。


そして、事故の後遺症なのか、声を出すことが出来なくなり、耳もだんだんと聞こえなくなっていた。耳に関しては、現段階では僅かに聞こえる程度だが、医者によると数日のうちに聞こえなくなることらしい。


最後に1つ、医者から言われたことは、元々持っていた病気の進行速度が事故により進み、寿命が縮んだっと言っていた。


余命2年。

そう、医者に告げられた。


命があるだけ不幸中の幸いなのかもしれない。けど、声も出ない、耳も聞こえない。それで命が尽きるまで過ごせって地獄と変わらない気がした。学校に通うことも、クラスの友人達と話す事も出来ない。もう、皆私の事を忘れているに違いない。存在が薄い私を覚えている人がいたら凄いと思う。でも、藤堂くんにだけは、覚えていて欲しいと微かに思ってしまう。


『かぐや姫』それだけで良いから覚えていて欲しい。



次の日の夕方。

高校生は放課後の時間となっている時に藤堂くんがお見舞いに来てくれた。


「…元気?あっ…」


何かを思い出したかと思うと、バックからノートを取り出し手書きで『元気?』と書いてある。藤堂くんのその行動から担任がちゃんと仕事をしたのだと理解出来た。私は、手元にあるメモ帳に『元気!!』っと大きく文字を書き、『ごめん。声も出ないんだ』っと付け足しをした。


それをみた藤堂くんは私を蔑むのではなく『そっか。大変だな』と、同情にも捉えられるような言葉で書かれてあった。彼なりの優しさだと感じる。


『うん。めっちゃ大変‪』

と私は言葉を綴った。

声を出そうとしても喉の奥底でつっかえて出てこない。その光景が余計に惨めに思えてくる。


クヨクヨしていても、何も始まらないと思いメモにダーっと文字を書いて彼に見せた。藤堂くんは、私の意図が伝わったのか自身のスマホを取り出し、私とIDを交換してくれた。今の、現役高校にとって、文字を書くより、スマホで打つ方が早いのは当たり前。機械の機能を使って、より良く会話を繋げる工夫をしていかないとやっていけない。


私はお願いして藤堂くんには、音声で文字入力をして貰うように頼んだ。まだ、私が音を聞こえれる事の確認も出来るようにだ。



それから、良く藤堂くんはお見舞いに来てくれるようになった。クラスの事とかあると思うのに、いつも、学校が終わったら速攻に来てくれる。私は、そんな彼と過ごすこの日々がとても幸せだった。


けどそれと同時に、失うのがとても怖くなった。

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満月の夜にさようなら 楼星 @rosejewel

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