満月の夜にさようなら

楼星

満月─0話

『今は昔、竹取の翁といふものありけり。野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり。名をば、さぬきの造となむいひける。その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける』


〈竹取物語:冒頭〉




「むかしむかし、竹を取って暮らしているおじいさんがいました。


 ある日の事、おじいさんが竹やぶに行くと、根元が光っている不思議な竹を見つけました。


〈省略〉


 そしてその子を『かぐやひめ』と名付けて、大切に育てたのです。

 かぐやひめは大きくなるにしたがって、とても美しくなりました。」



学校の屋上で壁にもたれかかって朗読をしていた。風が適度に吹き付けてきて心地好い。そんな中で、私は古典の竹取物語と童話かぐや姫を朗読していた。自分の世界に入れて、好きな物語を自分の為に語る。なんて、幸せなことだろう。誰も来ないと思い、自分のテリトリーに籠っていたから誰かに話し掛けられて驚いた。


「それ、かぐや姫か?」


そう言ったのは、クラスで1番の人気者の藤堂くんだった。なんで、此処にいるのか疑問になるが質問されたことに私は素直に答えた。


「そうだよ。私が1番大好きな童話。かぐや姫……もとい、古典の竹取物語だよ。藤堂くん」

「それぐらい知ってる」

「……だよね」


人を馬鹿にしているような口調をぶつけてくる。いや、私の台詞自身が藤堂くんを馬鹿にしている口調だった。たげど、藤堂くんも気にしていない様子だった。だから私も気にする事はやめ、1つ彼に問い掛けをした。


「ねぇ、知ってる?藤堂くん」

「知らねぇ」

「ちょっまだ何も言ってないよ!?」

「はよ言えよ」


知ってる?に対しての知らねぇ。それは当たり前の反応だった。私だって、何も話す前に他人から「知ってる?」って言われたら「知らない」って答える。それと、同様の事を私はしていた。でも、別にそれがデフォだと思ってる私にとっては、当たり前の反応で何だか嬉しく笑ってしまう。


「じゃあ、言うね。かぐや姫の物語って、本当はハピエンじゃないんだよ?」


盛大な告白とも言える話。その内容が想像していたものより180度くらい違ってたのだろうか、藤堂くんは口を開けて固まっていた。開いた口が塞がらないとはこの事だろうか。でも、使い所が違う気もする。


そんな藤堂くんを他所に私は自分の考えを少し話した。


「基本、童話ってね、”むかしむかしあるところにお爺さんとお婆さんがいました”みたいな感じで始まって、”無事に成し遂げました”みたいなハッピーに終わるようになってるの」


冒頭と末尾は大体は同じような内容だ。唯、中身が違うだけであって。


「……それが?」

「かぐや姫ってね、最終的に誰も幸せになってないと思うの」


それが私の言いたい事だった。


「……俺は、そうは思わないけどな」

「なんで?」


私とは違う考えを持つ藤堂くんの話を聞いてみたかった。物語の数があるほど、人の解釈も無限にある。だから、藤堂くんと言う1人の人間の物語人生を知りたいと思ってしまった。


「かぐや姫って、翁とかいう爺に、見つけてもらい育てて貰う。美しく育ち、時が来たからかぐや姫は帰ってしまった。だろ?」


爺はじじいである。それは確かなんだと思うけど、内容がとても薄っぺらく中身のないように聞こえてしまうのは気の所為なのか。


「まぁ、とてもめっちゃ簡単に言ったらそうなる…ね」

「かぐや姫にとっては、後ろめたいかもしれないが月に帰れる事に少し喜んでたと思う。翁とかいう爺にとっては、最後はどうであれ、美しくしいかぐや姫を育てれたんだから、幸せだったんじゃない?」


確かに。その考えもある気がした。藤堂くんの考えを私的に言うと結末はどうであれ中身が大事なんだと思った。結末はきっとどうやっても変更なんて出来ない。だから、今迄共に過ごしたかぐや姫との生活の思い出を大事にしたら良い。そう私は感じた。


でも、1つ言わせて貰うなら。


「なんで、疑問形でいうの!?」

「ん〜なんとなく」

「そういうお前は、なんでた?」

「ん〜秘密。今度、教えるよ」


にひひと笑う私に呆れた表情をする藤堂くん。でも、これが私と彼との最初の会話であり、最後の会話になるとは全く思わなかった。

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