第5話 ディープヘル

 そこは、まさに地獄だった。

 雷が落ちたり炎が噴き出したりと、ディープヘルは穏やかではない場所。

「やっぱ、もうちょっとあとにしようぜ」

 ここまで来て、アルクはびびっているようだ。

「なに言ってるのよ。しっかりしなさい」

 リズは、久しぶりに怒っていた。

「任せてください」

 やはり、頼れるジャック。それに対して、ナナじいは腰が痛そうにしていた。

 ナナじいは頼りにならない。

 そんなことを考えるアルクたちの前に、見覚えのある魔物が現れた。

「まさか、勇者一行が乗り込んでくるとは」

「お前は、ビトム」

「少しは自信をつけたらしいが、お前たちはここで終わりだ」

 構える魔物、ビトムに対して、勇者一行で構えたのは一人だけ。

 ジャックだ。

「ボイミステラ」

 剣と盾を置き、こぶしで立ち向かう戦士ジャック。

 ナナ爺は動かない。

「腰が」

 右ストレートは受け止められ、左ローキックはかわされた。

「なんで動かないのよ」

「まったくだぜ。腰を直す魔法はないのか?」

「あんたのことよ!」

 リズは激怒した。そのまま走り出し、ビトムの前まで行く少女。

「お、おい」

 リズが囮になり、アルクはようやくやる気になったようだ。その真剣なまなざしが、ナナじいの気力も奮い立たせた。

「プースカ!」

 突風が吹き荒れ、ビトムが顔を覆う。

「サラマ・ビーサス!」

 少年が、これまでにない激しい雷をまとった。その勢いのまま、魔物の顔面に一撃を加える。

「ぐおっ」

「リズに手は出させない!」

 力をためたあと、勇者アルクは飛び蹴りを放った。ビトムの腹に直撃する。

「魔王様、ばんざーい」

 雷鳴がとどろくなか、人に近い姿の魔物は、霧のように消えなかった。その場に横たわる。

 ビトムを倒した。

 その後、アルクはリズから散々な言われ方をした。

「――だから、無茶しすぎ。ちょっと、聞いてるの? アルク」

 アルクの力を認めたからこそ、きつい言葉を使うリズ。だが、少年はそれを知らなかった。

 ジャックからも文句を言われる。

「力の凄さを知ったようですが、まだまだ使いかたがなっていませんよ」

 勇者アルクは叱られていた。

 ナナじいからは苦言を呈される。

「ワシに頼らずとも、打破してほしいところじゃ。なぜなら――」

 力をあてにしているからこそ、失いたくないナナじい。もちろん、アルクに知るよしもない。

 アルクは謝罪する。だが、それは心からの物ではない。

 まだ幼い少年は、仲間をうっとうしく思っているようだ。


 巨大な黒い建造物。

 魔王城の前まで辿り着いた一行。

 みるからに防御力の高そうな魔物が現れた。

 構えるアルクを制して、ジャックが一歩前に出る。

「自分に任せてください」

「お、おぬし

「ジャック」

「よし。任せるぜ」

 リズの手を引き、アルクが走り出す。ナナじいもすぐあとに続く。意外と走るのが速い。

 ほかの三人を行かせた戦士ジャックは、光沢のある魔物と対峙していた。

 アルクは信じて送り出されたのだ。

「むむっ」

 魔物の魔法使いが現れた。

「なによ、こいつ」

「魔物にもこんなのがいるのか」

 フゥ。と、誰かが短く息を吐き出した。

「ワシの出番じゃな」

「ナナじい、無理しないでね」

「頼むぜ」

「イヒー!」

「リエイ!」

 魔物の放った魔法を、ナナじいの飛ばした火球が撃ち落とす。そのまま魔法バトルが始まった。

 アルクとリズが先へと行った。老人には、横目で見る余裕が、まだある。

 散り際を悟ったナナじい。そのことに、気づいた者はいなかった。

 城は目前。

 ゾンビ的な邪悪な生物が現れた。

「うげっ」

「ここは、わたしが」

「どうするってんだよ。回復魔法で倒せるのか?」

「マジックアイテムでなんとかできるから。さっさと魔王を倒してこい!」

「わかった。サクッと倒してくるぜ!」

「うん。待ってる」

 リズにうながされ、アルクは先に行った。

 確信をもって先に行かせた少女。パーカーが揺れる。そのことを、やはり少年は知らなかった。

 ついに、勇者が城の中に突入。

「なんだ?」

 やけに静かだ。静かすぎる。アルクが冷や汗をかく。だが、止まっている暇はない。そのまま走りつづけ、最後の扉を開けた。

 玉座ぎょくざの前まで来た。

 フード姿の人物が座っている。

 そのかんなぜか攻撃されない。どこにいても雷で攻撃できるのに、だ。アルクは不審に思っている様子。

 自信過剰なアルクは、最後の戦いへ臨もうとしていた。

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