第3話 レベル上げ

 あいかわらず、桃色の花が咲き乱れる季節。

 あいかわらず、弱い魔物を狙う勇者の姿があった。魔王に対抗しうる伝説の盾が入手不可能になったためだ。レベルを上げる必要がある。

「サラマ!」

「ウッコネンでしょ?」

 回復担当のリズがツッコんだ。

「どう見ても雷撃だろ、これは。だから、サラマでいいんだよ」

「ふぅん」

 勇者であるアルクは、身体からだに雷をまとっての攻撃を得意としている。そんなことをしなくても雑魚ざこなら倒せることは言うまでもない。

「いまのうちに、奇襲の策を講じるとしようかの」

「奇襲ですか」

「3・2・1・バロ!」

「バロ?」

「強い光が輝く魔法じゃ」

「なるほど。カウントで目をつむればいいのですね」

 ナナじいとジャックの言葉を、アルクとリズも聞いているようだ。

「おや」

「どこへ行かれるのですか?」

「ちょっと、あいつを見張ってて」

 すこし席を外したリズは、どこからともなくすこし強い魔物を連れてきた。

「なにやってんだ、お前!」

 少年の怒りに、少女は我関われかんせず。むしろ、逆にニヤついている。

 筋骨隆々の戦士が動く。しかし、なぜか剣と盾を置いた。

「加勢します」

 ボイミステラの呪文を唱えた青年は、こぶしに力がこもった。一発二発と重い打撃が入り、魔物の巨体がぐらついていく。

 やさしい。苦言をていすこともなく、戦ってくれるジャック。

「俺の出番はなさそうだな」

 勇者アルクはようすをみている。

「どれ。ワシも……あた。あたたた」

 ナナじい、危機一髪。倒れてきた魔物をジャックが受け止め、事なきを得た。

 腰が痛いナナじいは、呪文が唱えられない。

「自分に任せてください」

「なにやってんのよ。まったく」

「こ、腰が」

 アルクは仲間たちに呆れていた。


 闇の城。

 能力を使い、アルクたちを見る魔王ジップの姿があった。

 ほとばしる稲光。それは、魔王がフードをかぶっていることを照らし出す光となった。

「……」

 魔王は何も言わず、攻撃しない。

 たくさん浮かぶ窓のひとつが、デーの村近辺を映し出している。

 ただ、勇者一行の和気あいあいとしつつもぶつかり合う様子を眺めていた。魔王ジップは。


「ここまでわざと来させて始末しますか?」

 と、側近であるティクトが尋ねた。

 魔王は何も言わない。

 しばしの静寂が流れる。雷鳴がとどろいた。

「お待ちください」

 いったん下がったティクトは、人に近い姿をした魔物を連れてきた。男性型。

「オレをお呼びか」

「勇者一行を殺さない程度にいたぶって来い」

「それが、魔王様の指示か?」

「そう。ですよね」

 だが、やはり魔王は何も答えなかった。

「このビトムにお任せください」

 魔王は、短く息をはき出した。

 そして、それを誰も聞いていなかった。

 魔王の配下たちはやる気を見せる。どうやら褒めてほしいらしい。

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