第2話 伝説の盾

 魔王の城。

 玉座ぎょくざに座る者が特殊な能力を使い、空中にたくさんの窓のようなものを作り出していた。それぞれが別々の場所を映している。

 窓のひとつが示すのは、アーキの城。そこでは、少年が自意識過剰じいしきかじょうに騒いでいる。

「いきなり狙われるだろ!」

 しかし、城から出ても、市街地から出ても、街から出ても何も起こらなかった。

 攻撃されないアルク。

「よかったですね。楽しい旅の始まりです」

「うむ。心してかかるぞい」

「早く行くわよ」

「うるせーな」

 アルクは、仲間を邪魔だとすら思っているようだ。

 いまならまける。一気に駆け出そうとした少年は、長身で筋骨隆々の男につかまれた。

「みんなで仲良く行きましょう」

 ジャックの笑顔が怖い。

 振り切るのは無理。しばらく一緒にいるしかないと腹をくくるアルク。

 地に足をつけたアルクが、仲間全員に向けてぼそりと告げる。

「じつは内気なんだ、俺」

 少年が直接的な物言いばかりするのは、照れ隠しらしい。

「ウソでしょ」

「んなわけないだろ」

 リズはアルクを信じない。また二人がいがみ合う。

「まあまあ」

「ふぉっふぉっふぉ。青春じゃのう」

 ナナじいが意味不明な意見を述べた。そのあいだも、二人のいさかいはつづいている。

「小さいじゃん」

「わたしの方が年上だって言ってるでしょ!」

 リズは怒っていた。

 どうやら少女は、あまり発育がよくないことを気にしているようだ。


「なんで、徒歩なの?」

「決まってるだろ」

 人の生活圏の外。そして、魔物の縄張りの手前。構えた少年が、通りすがりの無害そうな魔物を蹴散らした。

「なんということじゃ」

「意外に地道なことをするのですね」

 ナナじいとジャックは眉を下げ、口を真一文字に結んでいる。

 ひたすら雑魚ざこを倒そうとするアルク。うしろから肩を叩かれた。

「もうちょっと強いの倒そう」

 少女は、ぎこちない笑みを浮かべていた。

 リズは、小さいことがあまり好きではないらしい。

「死んだらどうする!」

「このままじゃ、何年かかるか分からないでしょ」

 リズはひたいに青筋を浮かべつつ、こわばった笑顔。対してアルクは、ひたすら戦うばかり。

「とりあえずレベルを上げないと、な」

「自分たちも一緒に戦います」

 ジャックが動いた。腰の剣は抜かない。どうやって戦うつもりなのだろうか。

「お前らだけでやれよ」

 アルクの身体からだから雷が消えた。一歩下がって、あくびをする。

 ナナじいは腰をさすっている。

「仕方ないですね。ボイミステラ」

 盾と剣を置く青年。自身に対し何かの呪文をかけ、魔物に突っ込んでいく。

「ほほう。あれは――」

「知っているの? ナナじい

「うむ」

「だったら早く話せよ」

「肉体強化の呪文じゃ。素手の威力が何倍にもなるぞい」

 ジャックの活躍で、全員のレベルが1上がったようだ。


 いっぽうそのころ。魔王城。

 稲光のなか、シルエットが浮かび上がる。

「魔王ジップ様」

 と、うやうやしくこうべれる側近。魔王の名前が明らかになった。

 側近は、姿が人間に近い魔物だ。なにやら人間に対する扱いについて質問をしている。しかし、専門用語が多くて人間にはよく分からない。

「任せる」

 それだけ言うと、魔王は口を閉じた。表情をうかがい知ることができない人物は、あまり饒舌じょうぜつではないらしい。

「このティクト、いつも魔王様のお側にいます」

 女性のように見えるティクトは、心からの笑みを浮かべているように見える。しかし、見えるものだけが真実ではないことを、魔王ジップも知っていた。

 魔王ジップと呼ばれた人物は、何も信じていないような瞳をちらりと覗かせた。


「伝説の盾?」

 女性の村人から有益な情報を得たアルクは、村人の情報も聞き出そうとして、リズにほっぺたをつねられた。

 ここはビーの村。アルクの故郷からほど近く、季節も変わらず春のまま。

 かわいい村人に別れを告げ、勇者一行は移動を開始する。

「馬車を使わないのですか?」

「使えないのじゃよ」

「なんでじゃい!」

「変な語尾、やめてよ」

 ナナじいによると、強大すぎる魔王に怯える人々から馬車を借りることができないという。勇者はまったく信用されていない。

 そんな話をしているあいだに、洞窟が近づいてきた。

 ドゴォォォン。

「そんな」

「ウソだろ」

 焦げ臭い臭いがあたりに漂う。

 なんと、もうすこしで到着というところだったのに、雷で入り口が塞がったのだ。

 魔王は見ていた。雷を落とした後の様子を。アルクと仲間たちが楽しそうに話しているのを。曇りなきまなこで。

 そして、雷を跳ね返す伝説の盾は入手不可能になった。

「クソゲーじゃねえか!」

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