011

 夜空を見上げた。月光のような蒼白い瞳をどこかで見たような気がした。


 その想像と同時に失われていたはずの、人間の温もりもまた、なぜだか思い出すのだった。


 蒼い瞳をしたあの人にもう一度会いたい。もう一度触れたい。


 その思いのために、月を題材とした小説を書いた。書いて書いて書いて書いて書きまくった。普通の人間では見えない存在を書いた。普通の人間では聞こえない声を書いた。自分が普通ではないことを書いて伝えようとした。


 その果てに、本当の人間に会えることをいつの日か信じられるようになっていった。

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