第32話 彼女との出合い〜尚武サイド 3
最近、琴音の様子がおかしい。
ボーッとしていたり、嫌に顔色が悪かったり、明らかに何かを悩んでいるのに、何も相談して貰えなかった。しかも、何かに怯えている。すれ違う人だったり、ティッシュ配りのバイトだったり。
何か辛そうに呼吸を整えている姿を見て、自分は相談もできないくらい信用されてないのかと凹む。
「琴音ちゃん、聞いてる?! 」
花岡が琴音の肩に触れ、琴音は必要以上に驚いていた。というか、恐怖?花岡が何かしたのか?!
「……びっくりしたぁ。どうしたの? 具合悪い? 」
琴音の驚き具合に、花岡もかなり驚いたようだ。花岡のせいじゃなさそうだ。というか、俺達の存在に気づいてないくらいボーッと歩いていたようだ。マジで大丈夫か?
「顔色悪いよ。貧血かな? 」
花岡の手が琴音に触れそうになった時、その手を真っ青な顔で見ていた琴音は、いきなり意識を飛ばした。ガクンと崩れ落ちそうな膝を見た瞬間、慌てて琴音の腕をつかんだ。かろうじて
倒れることを回避する。
「……っぶな」
琴音はすぐに意識を取り戻し、真っ青な顔のまま俺の手をギュッとつかんだ。
「ごめん、ありがと」
何とか自力で立った琴音は、俺の手をそって離した。
「大丈夫? ちょっと座った方がよくない? 」
心配そうに一歩近寄ってきた花岡に、琴音は恐怖の表情を向けて一歩下がる。
「大丈夫。あのね、ちょっと最近潔癖症っていうか……その……人に触られるのが本当駄目で。女の子なら何とか我慢できるんだけど、男の子はちょっと無理で。誰がとかじゃないんだけどね」
男性恐怖症?
えっ?
俺バリバリ男だけど。どちらかと言うと中性的なイケメンの花岡ですら拒否反応出るなら、ゴリゴリ男の俺なんか視界にも入れたくないんじゃないか?!
「え? そうなの? でも僕達は大丈夫だよね? 友達……だもんね」
「ごめん。……距離があれば大丈夫だとは思う。花ちゃんが間にいるとかあれば」
緩衝材に金沢が必要なのか?!
俺は? 見えない方がいいか?
とりあえず数歩離れてみた。
「でもさ、それじゃ大変じゃないか。満員電車も乗れないし……何より恋愛できないじゃん」
恋愛……。そうだよ。満員電車ぐらい乗らないって選択肢もあるだろうけど、恋愛は? 結婚は?
十八歳になったらプロポーズしてって、あれ、つんだか?
何故か琴音と視線が合い、ジッと見つめられる。
「恋愛は……しばらく考えられないから」
面と向かって俺とは恋愛できないと言われたようで、例えようもない喪失感に襲われる。いや、最初から無理だってわかってたじゃないか。変な夢見て、一人で盛り上がって馬鹿だな俺。
でも、友達なら、友達なら側にいらるれるか? 琴音が嫌だと思うものから守ってやれないか? それとも、男だってだけで駄目なのか?!
「慣れとか必要なんじゃない?僕ならいつでも協力するよ。ほら、ショック療法って言葉もあるし、一回男子と付き合ってみて、出来ること出来ないこと検証してみたらどうかな。僕ならいつでもウェルカムだから」
こいつ馬鹿だな!
花岡が少し近づくだけで顔色が悪くなるのがわかんねぇかな。
男性恐怖症、前から男嫌いとは聞いていた。小学校でイジメられたとかなんとか。いわゆる好きな子に意地悪するってやつなんだろうけど、された方はたまんねぇよな。嫌いを飛び抜けて恐怖心まで感じるくらいの何かがあったのか?
「……原因はわかってるのか? 」
「えっと……直接的な原因はないかと」
「お母さんに彼氏ができたとか!で、 可愛い琴音ちゃんにも手を出したなんてことじゃないよね?!だから潔癖症になったとか? 冬休みに何かあったんだよね。大丈夫だよ、僕は琴音ちゃんに何があっても君を赦すから」
赦す発言にイラッとする。花岡、おまえは何様だ!
「おまえな。おまえが赦す意味がわからん。何より、そんじょそこらの男なんか、瞬殺で捩じ伏せられんだろ、こいつの腕があれば」
「でも、お母さんの彼氏とか、鍵とか持ってたら家入り放題じゃん。泊まり来たりとかさ。風呂場とかで襲われたら何もできないだろ。寝てたりしたら気がつかないうちに……なんてことだってさ」
「おまえ、妄想半端なさすぎ……だよな? 」
まさかそんな昼ドラみたいなことがある筈ないと思ったが、男性恐怖心になる原因としてはあるのかもしれないと聞いてみる。もしそうなら……、相手の男はボコって再起不能にさせる気満々だった。しかし琴音は妄想であると何度もうなづいた。
「うちの母親はダメ男ホイホイだけど、うちに彼氏連れ込んだことないし、自宅の鍵は絶対に渡さないから。ちなみに、ここ最近は彼氏も作ってないみたい」
「ダメ男ホイホイって何? 」
「家がなかったり、仕事なかったり、ストーカーちっくになったり……拉致監禁しようとした人もいたかな」
「ハアッ? 大丈夫なんかよ、おまえの母ちゃん」
「うん、何とか無事。ほら、ストーカー規制法とかあるから」
「法律に頼らなきゃなんかよ」
「じゃあやっぱり危ないじゃん。お母さんもいいけど、若くて可愛い琴音ちゃんにも手を出す奴だっているでしょ」
そんな危険な環境にいたのか?!と、そんなこと知らずに今まで呑気に生きてきた自分を殴り飛ばしたくなる。ショックのあまり、少し意識が飛んでいたかもしれない。
「……断然琴音ちゃんだけどな」
こいつ、今の流れで何琴音をくどいてんだ? 琴音ママより琴音の方がいいとかいってなかったか? マジ、意味わかんねぇ。
いきなり花岡の言葉が耳に飛び込んできて意識が覚醒した。
「そういうの大丈夫だから。前々から男の子は苦手だったんだけど、思春期だからかな。急に近い距離とか凄く苦手に感じるようになっちゃって、でもある程度距離があれば大丈夫なの。あと、尚武君は何でか平気……みたいで」
エッ?! 何て?
俺は平気って何のこと?
「エッ? ハァ? あぁ、つまりは尚武が対象外だからだよね。ゴリラみたいにむさ苦しいし」
「違うよ! 尚武君はかっこいいもん。背も高いし、逞しいし、頭だっていい。私、尚武君と勉強するようになって、自分の勉強の仕方に無駄があったって分かったよ。見た目はキリリとしてるのに、性格は温和で頼りがいあるし、私が好きだなんて思うのも烏滸がましいくらい素敵な……」
ちょっと待て!
それは誰だ?
俺じゃねぇだろ。
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